第62話 研鑽の結果
学校もどきを襲った一連の事件に、ジュリアの力の異常。考えるべきことはとても多くて、大変だ。そんな時間を過ごしていると、来客があった。
「久しぶりね、バカ弟。元気そうじゃない」
「姉さん、どうしてうちに? 学園はどうしたんだ?」
アストラ学園の長期休暇は、今ではないと思うが。何か、事件でもあったのだろうか。
「なんか、王族が来年入学するから、その準備のために休学するんですって。まあ、退屈だったしちょうどいいわ」
今更か? もともと、生まれた段階で分かっていたことだろうに。わざわざ今、何かをする理由があるのか? まあ、気にしても仕方ない。というか、情報を知る手段がない。後手にはなるだろうが、学園に入ってから考えるしかないだろうな。
頭を悩ませるべきことが、また増えてしまった。今回の事件、と言って良いのか分からないが。とにかく、原作への影響はどの程度なのだろうか。いや、今更なんだがな。原作の重要人物に、大きな影響を与えているのだし。
いま考えるべきことは、目の前のカミラをどうするべきかだよな。いや、歓迎するのは当たり前だが。せっかく帰ってきたんだから、何かできないだろうか。
「授業は簡単だったのか?」
「そうね。あたしの敵になれるやつなんていなかった。あんたと違ってね」
実際、原作でも先輩キャラは居たはずだ。そいつよりも、強いということなのだろうか。あるいは、入学していないのだろうか。
カミラに匹敵するくらいの存在は、居てもおかしくはないんだがな。あるいは、カミラが馬鹿みたいに強くなったとか? とりあえず、他の可能性もあるかもしれない。
まあ、カミラが相当強いのは間違いないだろう。俺も追いつけないくらいの速さをしていたし。
「良かった……のか?」
「どうだかね。それで、あんたはどうなの?」
「今のところは順調だな。新しい力に目覚めた人も多いし……うん?」
ジュリアは無属性に目覚めたし、シュテルも魔力を送ることで魔法に目覚めた。そこまで考えて、メアリの属性を増やすことはできないかと思い至った。
ちょうど、カミラとフェリシアの使える属性を足せば、五属性全部になるんだよな。カミラが雷で、フェリシアが炎で、メアリが残りの水、土、風だから。
それなら、メアリの目標である
「どうしたの? 少しくらいなら、悩みを聞いてやってもいいわよ」
「俺に、全力の魔力を送り込んでくれないか? そうすれば、できそうなことがあるんだ」
「なら、力ずくでさせてみせることね。……分かるでしょ?」
好戦的な目をしている。力ずくという言葉といい、俺が戦って勝てば、魔力を送ってくれるのだろう。それだけの価値はある。間違いなく。
「仕方ないな。かかってこい」
そのままカミラはビックリするくらいのスピードで突っ込んでくる。準備をしていなかったら、もう負けていたと思う。ああ、これは相手が難しいだろうな。初手に対処できなきゃ、絶対に負けてしまうんだから。
何度か打ち合っていくが、剣だけの勝負では厳しいかもしれない。いや、お互い魔法も使ってはいるのだが。
「ずいぶん強くなってるじゃない、バカ弟!」
「姉さんこそ! 目を魔力で強化しないと、見えないんだから!」
下手をすれば、音速とかを超えるまであるんじゃないだろうか。本気で、目で追うだけでも大変だ。反応するとなると、もっと難しい。この速度を相手にするなら、そりゃあ、ただの魔法使いじゃ勝てないよな。
1対1になった時点で、相当厳しい。相手の攻撃の届かないところから遠距離攻撃を仕掛ける以外の勝ち筋は、カミラの剣を魔力で防ぎ切ることだ。それも、なかなかに難しい手段だろうな。
ジュリアなら、防御でどうにかできるかもしれない。フェリシアも、炎で焼き尽くせばどうにかできるかもしれない。他の人には、対処できないんじゃなかろうか。
少なくとも、事前に情報がなければ勝てないたぐいの相手だ。ジュリアにしろ、フェリシアにしろ。俺だって怪しい。
「当たり前でしょ! 速さこそが、あたしの武器なのよ!」
「それなら、俺も速くならないとな!」
「追いつけるものなら、追いついてみなさいよ!」
ということで、全力で魔力を利用して加速していく。相応に負担も大きいが、以前カミラを助けたときから、高速移動の訓練は続けてきたからな。あの時は、ギリギリだったから。もっと速くなるために。
それでも、カミラの方が速い。何度か、剣が
「流石に速いな! だが、俺の防御は抜けないんだな!」
「なら、あたしの全力を見せてあげるわ! これが進化した、
ほとんど、魔力らしい魔力を感じない。だからこそ、危険な技だと感じた。初動で魔力を検知すると、剣にほとんど全ての魔力が集まっていた。漏れること無く、圧倒的な量の魔力が。
なんとなく、今のまま受けたらまずい気がした。せめて、少しでも威力を削らないと。そう考えて、攻撃に移る。
「
魔力の刃とカミラの剣がぶつかり、数瞬の間拮抗した。それから、
なんとか、無傷で乗り切ることができた。ただ、無策でカミラの攻撃を受けていたら、俺は死んでいたかもな。直感に感謝したいところだ。
ただ、カミラは肩で息をしている。そこに剣を突きつけると、相手は両手を挙げた。
「くっ、あたしの負けね。魔力でも何でも、持っていきなさいよ」
「
「当たり前でしょ。あんたに勝つまで、止まるつもりはないわ」
「せっかくだが、魔力は明日に貰うよ。姉さんの全力が欲しいからな」
「仕方のないやつ。でも、分かったわ」
ということで、次の日まで時間ができた。さっそく、カミラの身を守るためのアクセサリーを準備していく。フェリシアに渡したものと同じような、俺の魔法を込めたアクセサリーを。
次の日が来て、カミラの元へ向かう。やるべきことは、決まっているな。
「姉さん、これ、受け取ってくれ。今しかないだろうからな」
「なにこれ、チョーカー? あんた、そんな趣味だったのね……。あたしに首輪をつけたいなんて」
ジト目でこちらを見られてしまう。慌ててしまいそうだったが、頑張って普通の顔を保つ。
「違うぞ。これがあれば、俺の防御魔法を使えるんだ。姉さんの魔力を感知すればな」
「それなら、受け取ってあげるわ。それで、魔力だったわね。存分に味わいなさい!」
フェリシアにも匹敵するような、凄まじい魔力を送られていく。そのまま開放するだけでも、人を100人くらいは消し炭にできるだろう。
「流石だよ、姉さん。圧倒的な力を感じる」
「それでも、あんたには勝てないけどね。つまらない世辞は良いのよ」
「俺は最強なんだから、当然だろ?」
「はいはい。今のうちはね。……まだ、勝てないのね……」
カミラは沈んだような顔をしている。まあ、理由は分かる。ただ、慰めても逆効果なのは、簡単に理解できる。慎重に、言葉を選んだ。
「姉さんに負けないように、俺だって努力しているんだ」
「生意気ね。少しは調子に乗れば良いものを」
「それじゃ姉さんに負けちゃうだろ?」
「あんたがあたしをちゃんと見てる。今は、それで満足しておいてあげるわ。その魔力、何かに使うんでしょ? さっさと行きなさいよ」
「またな、姉さん」
この力があれば、メアリをさらに強くすることができる。そうすることで、もっと仲良くなれるはずだ。この調子で、敵対する未来を無くしてしまわないとな。
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