第49話 共通の話

 フェリシアが、学校もどきの様子を見るためと言ってやってきた。隣には、何故かメアリもいる。ある程度仲が良いのは知っていたが、どういう状況だ? 俺はラナと運営について話をしていたので、タイミングは問題ないのだが。


 アカデミー出身者が来るには、まだもう少しかかるようだ。選定と連絡、移動を考えれば、遅くはない。とはいえ、できるだけ早いほうが良いのは事実。


 ただ、今日はフェリシアを優先することになるだろう。あまり長い時間、俺の家に居る訳にもいかないだろうし。


「さて、わたくしも協力したんですし、調子の程を見せていただきますわ」


 フェリシアも出資者のようなものだからな。学校もどきの状態が気になるのは分かる。だから、断るべきではないな。というか、後ろ暗いことはない。最悪でも、フェリシアなら大丈夫だと思える。例えば、俺が生徒に情が移っていることが知られても。


「お兄様、メアリも一緒。ずっとここに付きっきりで、寂しいの」


 学校もどきが軌道に乗るまで、手をかける必要があるからな。ただ、メアリにとっては関係のない話だ。なら、受けるしかない。妹を悲しませるのは、本意ではないからな。


「分かった。ラナ、問題ないよな」

「もちろんです、レックス様。あたしに任せてください」


 ということで、学校もどきへと向かう。そこでは、みんなジュリアやシュテルと意気投合していた。嬉しいのだが、困惑もある。どういうきっかけだ? なんか、気づいたら仲良く話をしていた。


「へえ、レックスさんは、そんな風にアドバイスを。面白いですわね」

「お兄様、剣もとっても上手なんだよ」

「レックス様のお役に立てるように、頑張りたいよ」

「私も、全力をかけて尽くします。ね、ジュリア」

「レックス様のお力になるために、頑張ってくださいね」

「せいぜい役に立つことだ。そうすれば、褒めてやろう」


 ほとんど俺の話ばかり出てくるので、むず痒くもあるな。まあ、共通の話は少ないのは分かるんだが。生活も、身分も、力も、何もかもが違う関係性だからな。そう考えると、仕方ないか。フェリシアは会話がうまい気がするし、誘導も混ざっていたのかもしれない。


 いずれにせよ、原作では敵対していたメンバーが仲良くしているのは、ありがたい。俺も希望を持つことができるからな。まあ、ジュリアが本当に主人公かは怪しいが。それでも、ラナとブラック家の周りは敵対していたからな。その関係だけでも、十分に大きいだろう。


「レックスさんったら、この杖をわたくしに贈ったんですのよ。すべてを込めたと言いながらですわよ」


 早速、フェリシアは反応に困る話をしてくる。俺が何と答えようと、印象が良くなる未来が見えない。ハッキリ言って、とても困る。とはいえ、困ると口にするのも負けなんだよな。そんなことで動揺すると思われると、良くない。


「メアリにも、杖をくれたの。カミラお姉様には、剣を贈っていたの」

「気が多い方ですわよね、レックスさんは。幼馴染として、目が離せませんわ」

「なら、あたしも妾として……? 女好きなら、ありえますよね」

「レックス様、お好みでしたら、私もどうですか?」


 本当にメチャクチャだよ。というか、シュテルはそれで良いのか? 妾だぞ? まあ、生活に困っている人間からすれば、寝床と食事が保証されているのなら、良い話なのかもしれないが。


 ただ、俺はシュテルを妾にするつもりはない。そんな風に軽んじるつもりはない。仮にアストラ学園に入学できないとしても、生活の保証はするつもりだ。すでに、大事な相手なんだから。


「良いな、レックス様の剣。僕も貰えないかな」


 ジュリアはマイペースだな。まあ、正直に言って、ありがたいのだが。全員がフェリシアの話に乗っていたなら、もっと気苦労が多かっただろう。お前は俺の救いだよ。というか、剣か。贈れるものなら贈りたいが、問題はどうやって父をごまかすかだ。ここに居るメンバーになら、知られても大丈夫だろうが。


 ただ、人の口に戸は立てられぬと言う。俺のあげた剣だと言われたら、困ってしまうんだよな。


「俺が女好きだって物言いをするな。そんなに軽薄ではないんだよ」


 強く主張すべきことだ。ラナやシュテルが誤解しているのが、とても大きな問題だからな。俺は妾なんて持つつもりはないし、ラナ達は大事にするつもりなんだ。後者の主張は、口にはできないが。


「そうでしょうか? 王女まで口説いているのは、知っていますのよ」

「ミーア様やリーナ様まで……? レックス様、やっぱりあたしも……」


 俺が想定しているのと違う方向で悪人だと思われている。こう、力を持って調子に乗っているとか、怖いとかなら、まだマシなんだが。


「あの時の魔法、とてもキレイだったの。メアリも、あれくらいすごい魔法、使いたいな」

「レックス様、私はどう思われますか? 口説きたいですか?」

「うーん、活躍すれば、剣を貰えるかな……?」

「お前達……少しは配慮というものをだな……」


 皆が好き勝手な物言いをしているのには、困ってしまう。というか、シュテルは押しが強いな。ジュリアは剣のことしか考えていないし。メチャクチャだよ。フェリシアは、本当に……。


「冗談ですわよ。レックスさんが、わたくし達を大事にしていることは、分かっていますもの」

「そうですよね。あたしも、大変お世話になりましたから」

「お兄様、とっても暖かいの」

「私も、とても感謝しているんですよ。お役に立てるのなら、何でも言ってください」

「僕だって、レックス様のために頑張るよ! だから、活躍したら……」

「まあ、しもべ共に褒美を与えるのも、主の役割だよな。考えてやろう」


 もしかして、集団で俺をからかっていたのか? そうだとして、いつの間に息を合わせたんだよ。怖すぎるだろ。ほぼ初対面の人間と、俺をからかうために協力するとか。いや、親しみを感じてくれている証だと思えば……? それでもおかしいか。


 まあ、前世でも、妙なところで女子が結託していた記憶はあるから、あり得るのか? 判断に困るな。いや、仲が良い分には、助かる部分も多いのだが。ジュリアが主人公だとすれば、とても大事なことだろう。


「素直じゃありませんわね。わたくし達に、対価など求めていないでしょうに」

「確かに。あたしも、何も要求されませんでした」


 まあ、幸福に生きてくれるなら、それで良いとは思う。だが、善人だと思われすぎても問題なんだよな。父をごまかせる範囲じゃなければ、危険だろう。


「ですけど、私はレックス様のお役に立ちたいです」

「期待して良いんだよね! じゃあ、もっと努力しないとね」

「お兄様、メアリにもいっぱい魔力をくれたもん」

「好きに考えていろ。俺は俺のやりたいようにするだけだ」


 俺は俺のやりたいように、親しい人と生き延びてみせる。それだけは、どんな未来でも変わらないはずだ。


 そのためにも、彼女たちの仲が壊れないように、気を配っていく必要がある。俺自身も、強くならないといけない。いずれは、毒や人質にも対応できるように。


 原作までも長い道のりだが、原作からも厳しい事件ばかりだ。それから先もみんなを守れるように。気合を入れていかないとな。

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