第39話 魔法の可能性

 行動の方針は決まった。後は、それを実現することに向けて動いていく必要がある。まずは、一歩ずつ。足りないものを確認していくところからだ。


「とりあえず、計画のためには土地が必要だから、父の許可は必要なんだよな。仕方ない。話しに行くか」


 ということで、父の元へと向かっていく。気が重いのだが、避けては通れないからな。土地を俺の判断だけで用意することは、流石に不可能だろうから。


「父さん、ちょっと自分で使える土地がほしいんだ。人を集めてみたくてね」

「何をするつもりだ?」

「アストラ学園に通える人を、何人か用意しておきたくてね。俺と同年代の人を集めたいんだ」

「そうなると、貴族ではない人間が主になるだろう。そうする理由は何だ?」


 さて、疑われているのかどうなのか。顔からは判断がつかない。とはいえ、敵対されているのなら、すぐに殺そうとされるだろう。そういう人間だと、俺はよく知っている。


 だからこそ、全力で誤魔化していく必要がある。レックスらしい物言いで、他者を見下しているような感じで。


 本音とは程遠い言葉だが、父には信じていてもらわないとな。これがメイドや師匠なら、本音を察してくれても嬉しいが。


「学園に人を送り込めれば、俺が優秀だって証明になるだろ? それに、凡人達がもがく姿も見たいんだ」

「分かった。レックスの考えなら、問題ないだろう。用意しておくから、好きに使え」


 乗り切ったと考えて良いのだろうか。とりあえずは、準備に向けて動いていくだけだ。単純な武力では、俺は殺されない。だから、警戒すべきは毒や人質なんだよな。早めに、対策ができる様になっておかないと。


「ありがとう、父さん」

「同年代の人間なら、簡単に集められるだろう。任せておけ」


 そう言われて、嫌な予感がした。脅しや誘拐などの手段で人を集められたら、俺の目的は達成できない。だから、どうにかして制御したい。その理由としてちょうど良いものは何だ。そこまで考えて、あるアイデアが浮かんだ。


「ジャンに任せるのはどう? その辺の経験になるんじゃない?」

「良い提案だ。私の方で、話を進めておこう」


 弟のジャンならば、俺の手である程度は制御できるはずだ。というか、俺の考えもある程度は理解しているはず。効率を重視するのなら、相手に無体なことをしない方が良い。それくらいは、説明していたはずだからな。同時に、同意もされていた。


 そこまで決まったら、後は土地をどう変えていくかだ。人を育てるのだから、建物は必要だよな。学校みたいな感じになるはずだし。


「さて、どうしたものか。建物の用意は、あまり時間をかけたくないんだよな。人を集めるのに、時間を使いたい。そうなると、魔法だよな。フィリスに相談するか」


 闇属性の魔法で何ができるのか。正直に言って、五属性でなら手段は思いつくが、闇属性じゃ有効な手立てが思い浮かばない。


 それでも、フィリスに相談すると、何か良いアイデアが浮かぶかもしれない。困った時には、つい彼女に頼ってしまうな。実際、相談することで解決したことが多い。自分でも、どうにかできる様になりたいものだが。


 ということで、フィリスの元へと向かう。こちらの姿を見ると、無表情ながら楽しそうな雰囲気に変わったように見えた。本当のことなら、ありがたいことだな。それを見て、すぐに相談へと移っていく。


「フィリス、魔法で建物の作成を楽にすることはできるか? 俺が思いつくのは、資材を運ぶくらいなんだが」

「……簡単。私なら、素材の作成から建築まで、全部実行できる。レックスに、見せてあげる」


 本当に単純なんだろう。気軽そうに言っていた。それからすぐに、問題の土地へと移動していく。俺もフィリスも、素早く移動できるので、簡単なことだ。


「なるほどな。ちょうど良い機会だから、お前の魔法を盗んでやるよ」

「……期待。レックスの魔法がさらに進歩するのなら、とても良いこと」


 フィリスは本当に期待しているように見える。なら、その思いに応えてやらないとな。俺だって、彼女には感謝しているのだから。闇魔法を見たいのは分かり切っているんだから、いっぱい見せてやるのが良いよな。


 そして、すぐにフィリスは建物の作成に入っていく。


「……見て。土属性で枠組みを作って、風属性で調節する。それだけで良い」


 土が形を変えていき、それから金属のような質感になった。おそらくは、複数属性の魔力を込めている。その結果として、土が変化しているのだろう。土属性とは言いつつ、色々と混ぜているな。


 風属性は、おそらくは形を調節するために使っている。なので、最悪の場合は土属性の方だけでどうにかなりそうだな。


 それを見て、ある考えが思い浮かんだ。フィリスの魔法とは直接関係ないが、アイデアとして参考にはなっている。何かを変化させるのなら、建材を変えるのはどうだろう。


「なるほどな。俺なら、魔力で木を作れるかもな。人の腕も作れるんだから」


 ウェスの右腕を生み出した時の応用で、どうにかなるはずだ。というか、いま思えば、かなり難しい魔法を、転生してすぐに使っていたのだな。


「……実験。早速、試してほしい。レックスの魔法は、見ていて楽しい」

「とりあえず、本物の木が必要だからな。エリナに手伝ってもらうか」


 エリナを誘うと、すぐに木を切り倒してくれた。それを増やそうとすると、彼女の視線を感じた。


「なんだ、エリナ。お前も見ていくのか? なら、しっかりと目に焼き付けておけ」


 そうして、木を複製していく。成功した。次は、木の性質を変えられないか試してみる。ただの木を、ヒノキのような感じにできないかと。感覚としては、うまく行った気がする。ヒノキの正確な性質は思い出せないから、ただの頑丈な木でしかないが。


 ただ、木を加工しているフィリスは、目を見開いていた。よほど難しいことだったのだろうか。土を金属みたいに変えられるのだから、同じことな気がするが。


「……驚嘆。闇魔法の可能性は、本当に無限。どれだけでも見ていられる。生物を操作なんて、私にはできない」


 なるほどな。一応、木も生き物ではある。それを操作できないということか。なら、金属なら加工は容易いのだろうか。まあ、フィリスにとっての簡単は、多くの人間にとっての不可能だろうが。


「ただ剣技に優れているだけでは、レックスの敵にはなれないだろうな。お前が誇らしいよ」

「当たり前だろ? 俺は最強になる存在なんだからな」

「お前が最強になる姿を、私に見せてくれ。そうすれば、お前の師匠になった甲斐がある」

「……同感。レックスが成長する姿は、見ていて楽しい」


 ということで、それからも作業を続けて、建物は完成した。フィリスとエリナには、感謝しないとな。


「さて、これで器はできた。後は、人を集めて、成長させていくだけだな」


 そうして次はどうするかを考えていると、カミラがやってきた。何の用かと考えていると、剣を突きつけられる。俺の贈った、雷閃サンダーボルトを。殺意は感じないから、大丈夫ではあるだろうが。


「バカ弟、ここに居たのね。今から、あたしと戦いなさい。あたしのことを、あんたに刻みつけてやるわ」

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