第5話 : お手並み拝見、トラブル発生
◇
店の中に入ると、出迎えたのはだだっ広い空間とそこにまばらに配置されている十数体のカカシのような的。
的の額には、赤や青の短いガムテープが貼られていて、まるで生き物かのように頭を動かしていた。
「ここは『訓練場』って言って、武器の試し斬りとか戦闘の練習が出来る場所。
ここの的はちょっと生き物の成分入ってるから、生き物にしか効かない攻撃とか、逆に生き物には効かない攻撃とかを試せるよ。
私はこれ結構助かってる。
んで的のおでこに貼られてるテープあるじゃん。
あれが赤だったら攻撃型、ジャブとか剣技でひたすら攻撃してくるやつで、
青だったら防御型、こっちの攻撃を防いだり、あと避けたりするやつだから、
練習したい事に合わせて使い分けてね。」
レリナはそう言い、一番近くの攻撃型の的に向かって行く。
俺はその隣の防御型の的を選んだ。
早速ピンを刺そうとしたが、そういえばスキルの共有時にスキルを披露するかもしれないので、その時まで待つことにした。
「うし、ここらでスキルのお披露目しちゃうか!」
鞄から取り出した十手を右手に、バックラーを左手に持ち、カカシの攻撃をいなしながらレリナが言う。
十手での防御は殴打相手じゃそれほど効果がないのでは、と思ったが、案外防げているようだった。
「んじゃまず私から!私のスキルは『生き物に無害な炎を出すスキル』!」
そう言うとレリナは、一旦後ろに下がってから、バックラーを鞄にしまう。
そして手のひらを天井に向け、それから上下に揺らすと、手のひらが炎に覆われた。
「この炎はちゃんと炎だけど、モンスターとか私たちには直接害がない。試しに触ってみる?」
言われるがままに炎に手をかざす。
「マジだ、熱くねえ!」
「でしょ?ただそれ以外の生き物じゃないやつ、例えばこんな感じの小さい木箱とかは、」
そう言い鞄から縦横3cm弱の木箱を取り出す。
そしてそれを炎に近づけると表面が焦げ始め、やがて木箱に火がついた。
木箱は炎をつけたまま地面に置かれた。
「こんな感じで焦げたり燃えたりしちゃう。」
「お前それ生き物に効かないんならどうやって戦うんだよ。」
「いい質問、じゃあここで実践するね。」
レリナは出力を上げ、炎の色を青紫に変えた後、それに十手を当て始めた。
「私自身は炎とか熱効かない体質になってるから大丈夫なんだけど、物に私の炎を当てた時って、何でか知らないけど熱さだけ伝導するんだよね。
炎の温度そのままって訳じゃなくて、普通に燃やした時みたいな伝導の仕方はするんだけど。
ちょっとコレ持ってみて。」
そう言って十手の紐を腕に巻き付け、俺に先ほどの木箱を投げる。
受け取るととても熱く、思わず手を離す。
地面に落ちる前に木箱の炎は消えた。
「熱!」
「ごめーん。まあそんな感じで熱くなるわけ。
で結局私がどうやって戦うかだけど、
こうやってめちゃくちゃに熱くした武器を使って、こんな感じに。」
十手を持ち、炎に当てなおしてから、俺の目の前の的を叩いた。
的から少しだけ煙が上がる。
「出力はある程度自由に変えられるから、状況に応じて赤色とか青色とか、あと白、黄色、紫、黒…はまだちょっと無理だけど。そういう温度の変化も使って戦う。
あと普通に爆弾の導火線とかに火つけて投げる、とかでも戦えるから。」
「もしかして沢山武器買ってたのってこのため?」
「そそ。私の戦い方、武器すぐダメにしちゃうから。
じゃあ次お前の教えて。」
俺は一旦ダガーを左手に持ち替え、少し後退したのち、右手で指鉄砲を作る。
微かに右手に力を込めると、目の前の的の胸元にピンがついた。
[3:00]
「もう刺しちゃったんだけど、俺のスキルは『指鉄砲でモンスターにピン刺して、自分を強化することが出来るスキル』。ピンは俺にしか見えないけどちょっと見てて。」
俺はそう言ってから的に向かって一歩踏み出す。
直後、凄まじい速度で的の5mほど後方まで移動した。
「こんな感じに、ピン刺した奴視界に入れてる間はメチャクチャ早く動ける、
制御はまだ難しいけど。
それに地の攻撃力も上がる。」
「へえ、凄。最強スキルじゃん。」
[2:36]
「そうなんだけどデメリットもあって、
これ使った後3分以内に相手倒さないと俺死んじゃうんだわ。」
ダガーを右手に持ち替え、目を閉じて的の真後ろまで歩いていく。
「なるほどね。……待って、3分以内に相手を倒さないとってのはさ、完全に倒し切らないとダメ?」
「そ、多分息の根が止まるまでしないとダメ。だから倒しやすそうなダガー選んだ。」
的が体に当たったことを確認してから目を開け、ピンが刺さっている事を確認し、的の胸元にダガーを突き刺す。
[2:04]
「じゃあやばくない?この的、ただの的だから死ぬとかないけど。
お前これにピン刺したんだよね?」
「え?」
見れば的は先ほど刺した個所以外無傷で、ダガーを引き抜くと即座に傷口が再生された。
勿論ピンは外れておらず、カウントダウンも止まっていない。
「やべ、俺死ぬ?」
パーティーを組んだばかりだと言うのに、
俺の旅は終わりそうになっていた。
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