第6話 : 死に際に虚骸魔




「やべどうしよどうしよ!」


「とにかく何か!あ解除とかは?」


「無理、倒し切るまで永続!」


そう言い合いながら的に刺さったピンを抜こうとするが、指のひとつも触れられず、全てすり抜けてしまう。

必死に剣で切り付けても傷がつくのは的の方だけ、それもすぐに修復される。


残り時間も少ない。どうする、辞世の句を読むか。


――閃く。


「モンスターがいる場所ってどんな風景してる?」


「森林とか、そんな感じ。」


「その場所、ここからどれくらいかかる?」


「だいたいダッシュで2分くらいかな、ごめん曖昧だけど。」


「十分!適当なやつに刺し直して倒してくる!」


俺は訓練場の出口を向いてから目を閉じ、そのまま外へ出た。

目を開けて、空が見える場所だと確認してから、とりあえず通行人にピンを刺し、それから即座に飛び上がる。

身体能力が強化されているおかげで遥か空から街を眺められる。

着地の衝撃に関しては、壁の衝突でもノーダメージだったことを鑑みるに考慮しなくていいだろう。


「ちょっとそこで待ってな!」


「分かった!ずっと待ってるから生きて帰ってこいよ!」


着地は成功。かなり奥に山らしきものが見えたので、目を閉じて助走をつける。

少し走った後目を開け、即座に視界の通行人ひとりにピンを刺し直したのち、走り幅跳びの要領でジャンプする。


通行人がこちらを見ていた気がするが気にしている暇はない。

強化された身体能力の前ではかなり奥なんてあっという間で、俺はすぐ山に激突した。


[1:21]


視界からピンが消え、身体能力も元に戻る。

少し横に洞穴があったため、起き上がって中に入る。

もしかしたら何か生物がいるかもしれない。


入ってみるとその洞穴は以外にも大きく、そして半円状だった。

平らな床やカーブを描いた壁からは、紫色の鉱石がまばらに突き出している。


物音がしたので横を見ると、空中に浮遊している、小さい紫色の箱のような物が居た。恐らく体の主成分は突き出している鉱石と同じだろう。


俺は即座に指鉄砲を構えて撃ち、それにマークを付けると、流れるように左手でダガーを突き刺した。

硬そうな見た目に反してダガーはスッと入っていく。


紫色の箱のような物は、小さく金属音を鳴らしてから、浮力を無くして地面に落ちた。

それと同時にマークも消え、死亡までの残り時間もリセットされる。


――直後、体中に凄まじい痛みが走った。

思わず肘をついて倒れ込む。

すぐ立とうとしたが、足が痺れて上手く立ち上がれない。


そうしている間に出口の手前から紫色の鉱石が出現。

そのままぐぐんと伸びて出口をふさいでしまった。


「そりゃあエレキューブの性質知らずに殺したらそうなるよ。」


見ると洞窟の中央部に、いつの間にか一人の女性が立っている。

大体15-6歳くらいの容姿で、髪と目が紫に染まっていた。


「エレキューブはね、死ぬ時に強く放電するの。」


彼女はそう言いながら、地面の鉱石を蹴って砕く。

中から3体の紫色の箱――エレキューブが出現した。


「あのーごめんなさい、まず聞きたいんですけど、あなた誰ですか?ここの主?」


「私?ああ、私を討伐しに来たわけじゃないのかな。

 たまたま迷って来ちゃった感じ?」


「あハイそうです。」


一刻も早く外に出たいが、紫色の鉱石を壊すとエレキューブが複数出る事が分かってしまったので、迂闊に動けない。

この女性の正体になんとなく察しはつくものの、だとしても逃がしてくれる可能性に賭けることにした。


「じゃあどうしよ、あなたに私を討伐する意志はないのよね?」


「ハイ。あとあなたは誰なんですか。」


「私はね、虚骸魔ルインドって呼ばれてるうちの一人、磁骸マグネット。知ってる?」


まず正体に関してはビンゴ。

ただ正体が分かったところで、状況はほぼ変わらない。


「えーと虚骸魔ルインドは噂で聞いたことあります。磁骸マグネットってのはないです。」


「あら、虚骸魔ルインドって結構有名なのね。で、外出たいんだっけ。」


「ハイお願いします。」


「分かった。じゃあ今開けるわね。」


女性改め磁骸マグネットはそう言って入口の鉱石を壊す。

出てきたエレキューブは中央まで持っていった。


「さ、こっちから帰ってね。迷惑かけたみたいでごめんね。」


「ありがとうございまァす。」


適当に何か弱い生物を捕まえて、そいつにピン刺して帰ろう。

で帰ったら虚骸魔ルインドの情報を共有しておこう。

そう思い出口を通る。



バチッ!


「――ッ!?」


入口に触れた瞬間、物凄い激痛が走った。

何が起こったのか分からずそのまま倒れ込む。

今度は体すらも一切起こせない。

先ほどのエレキューブよりもっと凄まじい、濡れたまま切れた電線の束にでも突っ込んだかのような痛み。


「そう簡単に帰してもらえるとでも?」


俺は痛みに悶える体をどうにか動かし、蔑んだ目で見つめる磁骸マグネットの脇腹にピンを撃ち込んだ。

高揚感が体を支配し、身体の痛みも少しづつだが引いていく。


[3:00]


「やるか?」


「あなたが大人しく死なないのなら。」




俺がよろけながら立つと同時に、磁骸マグネットがエレキューブを飛ばしてくる。

右に避けるが、ただでさえ速いのに空間まで狭いせいで、勢いあまって壁に激突してしまう。

エレキューブはそのまま直進、壁に激突した後浮力を失い、放電をしてから散った。


「速いね、羨ましい。」


磁骸マグネットはそう言うと手をくいっと動かす。

直後、壁にある鉱石のうちひとつが、俺目掛けて急成長した。

退避は間に合ったが、ステージがより狭くなる。


「でも狭くなればそれもデメリットになる。違うかしら?」


もう一度手をくいっと動かすと、今度は壁にある全ての鉱石が、俺目掛けて急成長する。

とっさに避けたが、鉱石の先端同士が俺の居た場所でぶつかり砕け、大量のエレキューブを出現させた。


段々と足の踏み場もないような状況になってきた。

磁骸マグネット側は鉱石に自由に乗れるが、俺が乗っても砕けるか何かされ、たちまちエレキューブの餌食になるだろう。


遠距離攻撃で戦えばいいが、生憎俺が持ち合わせているのはダガー1本のみ。

外してしまえばすぐ負けに繋がるから、投げるとしてもここぞという時にしか投げたくはない。


どうすれば。



そうだ天井。


俺はバク転をするような姿勢で飛び上がり天井にぶつかった。

すかさずダガーを思いきり天井に当て、柄にぶら下がってから、かかとでダガーに蹴りを入れてより深く突き刺す。


そのままぶら下がりながら、ダガーを突き刺したときに砕けて落ちて来た、鍾乳石のような形をした石を右手に持ち、手が天井に当たらない程度に思いきり振りかぶった。


磁骸マグネット本体を狙ったがそれは容易に跳ね除けられ、代わりに近くのエレキューブ2体が潰れて犠牲になる。


俺はひっくり返りもう一度足の裏を天井に付けた後、ダガ―を引き抜くと同時に思いきり天井を蹴り、そのまま地面まで急降下した。

着地点を土煙が覆う。


[2:04]


「あちこち跳んで何がしたいのかしら、ほんとに――」


今。


磁骸マグネットの脇腹目掛けて思いきりダガーを投げた。

ダガーは脇腹を貫通し、後ろの壁に突き刺さる。

脇腹からは血がぽとぽとと垂れはじめる。


何が起こったか分からないような顔をしていたので、その隙に壁のダガーだけ抜き取って、逃げるように反対側へ避難した。


ついでに鉱石を割り、エレキューブを出現させたのち、そいつにピン、次にダガーを刺した。

放電だって範囲外まで逃げればどうってことない。

ピンをもう一度 磁骸マグネットに刺し直し、様子をうかがう。


[3:00]


磁骸マグネットは少し深呼吸をした後、ゆっくり屈み地面に手をつけた。

手の下が紫色に光る。


直後、身体がズシンと重くなるのを感じた。

いや、重くなったというよりは、上から圧し潰されている。

重力でも強くなったかのような。


「こうすればちょこまか動き回るのやめてくれる?」


磁骸マグネットが脇腹を抑えながら言う。

これはまずい。


重力か何かが強くなったせいで、足が思うように動かない。

足を上げる事がままならないので、引きずりながら移動する。

アドバンテージが一つ消えた。


「磁場操作、効いてるみたい。じゃあ、殺すわね。」


磁骸マグネットがゆっくり、歩いてくる。


どうしたら。



…"磁場操作"?

俺は咄嗟にダガーを持ち替え、右足の靴と地面の間に差し込んだ。

もし地面に何かしているだけなら、足を離せさえすればきちんと動くはずだ。


差したダガーを軸にし、テコの原理で少しだけ持ち上げてやると、右足は元通りの速さを取り戻す。

この速さなら右足を持ち上げるだけで十分かもしれない。

出口に数体のエレキューブが見えたので、そのうち一体にピンを刺す。


「じゃあな、ちょっとここ俺には早かった!」


そう言い残し、差したダガーの上にある右足を、出口に向け勢い良く走らせた。

身体もつられるようにして出口に向かう。


出口にいた数体のエレキューブを蹴散らし、出口に突っ込んだ。

恐らく出口には、電気でのガード以外何もない。

身体ごと突っ込めば、取り敢えず外には出られるはず。


頭から先に出口へと触れる。

直後、全身に激痛が走り――




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