第6話 : 死に際に虚骸魔
◇
「やべどうしよどうしよ!」
「とにかく何か!あ解除とかは?」
「無理、倒し切るまで永続!」
そう言い合いながら的に刺さったピンを抜こうとするが、指のひとつも触れられず、全てすり抜けてしまう。
必死に剣で切り付けても傷がつくのは的の方だけ、それもすぐに修復される。
残り時間も少ない。どうする、辞世の句を読むか。
――閃く。
「モンスターがいる場所ってどんな風景してる?」
「森林とか、そんな感じ。」
「その場所、ここからどれくらいかかる?」
「だいたいダッシュで2分くらいかな、ごめん曖昧だけど。」
「十分!適当なやつに刺し直して倒してくる!」
俺は訓練場の出口を向いてから目を閉じ、そのまま外へ出た。
目を開けて、空が見える場所だと確認してから、とりあえず通行人にピンを刺し、それから即座に飛び上がる。
身体能力が強化されているおかげで遥か空から街を眺められる。
着地の衝撃に関しては、壁の衝突でもノーダメージだったことを鑑みるに考慮しなくていいだろう。
「ちょっとそこで待ってな!」
「分かった!ずっと待ってるから生きて帰ってこいよ!」
着地は成功。かなり奥に山らしきものが見えたので、目を閉じて助走をつける。
少し走った後目を開け、即座に視界の通行人ひとりにピンを刺し直したのち、走り幅跳びの要領でジャンプする。
通行人がこちらを見ていた気がするが気にしている暇はない。
強化された身体能力の前ではかなり奥なんてあっという間で、俺はすぐ山に激突した。
[1:21]
視界からピンが消え、身体能力も元に戻る。
少し横に洞穴があったため、起き上がって中に入る。
もしかしたら何か生物がいるかもしれない。
入ってみるとその洞穴は以外にも大きく、そして半円状だった。
平らな床やカーブを描いた壁からは、紫色の鉱石がまばらに突き出している。
物音がしたので横を見ると、空中に浮遊している、小さい紫色の箱のような物が居た。恐らく体の主成分は突き出している鉱石と同じだろう。
俺は即座に指鉄砲を構えて撃ち、それにマークを付けると、流れるように左手でダガーを突き刺した。
硬そうな見た目に反してダガーはスッと入っていく。
紫色の箱のような物は、小さく金属音を鳴らしてから、浮力を無くして地面に落ちた。
それと同時にマークも消え、死亡までの残り時間もリセットされる。
――直後、体中に凄まじい痛みが走った。
思わず肘をついて倒れ込む。
すぐ立とうとしたが、足が痺れて上手く立ち上がれない。
そうしている間に出口の手前から紫色の鉱石が出現。
そのままぐぐんと伸びて出口をふさいでしまった。
「そりゃあエレキューブの性質知らずに殺したらそうなるよ。」
見ると洞窟の中央部に、いつの間にか一人の女性が立っている。
大体15-6歳くらいの容姿で、髪と目が紫に染まっていた。
「エレキューブはね、死ぬ時に強く放電するの。」
彼女はそう言いながら、地面の鉱石を蹴って砕く。
中から3体の紫色の箱――エレキューブが出現した。
「あのーごめんなさい、まず聞きたいんですけど、あなた誰ですか?ここの主?」
「私?ああ、私を討伐しに来たわけじゃないのかな。
たまたま迷って来ちゃった感じ?」
「あハイそうです。」
一刻も早く外に出たいが、紫色の鉱石を壊すとエレキューブが複数出る事が分かってしまったので、迂闊に動けない。
この女性の正体になんとなく察しはつくものの、だとしても逃がしてくれる可能性に賭けることにした。
「じゃあどうしよ、あなたに私を討伐する意志はないのよね?」
「ハイ。あとあなたは誰なんですか。」
「私はね、
まず正体に関してはビンゴ。
ただ正体が分かったところで、状況はほぼ変わらない。
「えーと
「あら、
「ハイお願いします。」
「分かった。じゃあ今開けるわね。」
女性改め
出てきたエレキューブは中央まで持っていった。
「さ、こっちから帰ってね。迷惑かけたみたいでごめんね。」
「ありがとうございまァす。」
適当に何か弱い生物を捕まえて、そいつにピン刺して帰ろう。
で帰ったら
そう思い出口を通る。
バチッ!
「――ッ!?」
入口に触れた瞬間、物凄い激痛が走った。
何が起こったのか分からずそのまま倒れ込む。
今度は体すらも一切起こせない。
先ほどのエレキューブよりもっと凄まじい、濡れたまま切れた電線の束にでも突っ込んだかのような痛み。
「そう簡単に帰してもらえるとでも?」
俺は痛みに悶える体をどうにか動かし、蔑んだ目で見つめる
高揚感が体を支配し、身体の痛みも少しづつだが引いていく。
[3:00]
「やるか?」
「あなたが大人しく死なないのなら。」
◇
俺がよろけながら立つと同時に、
右に避けるが、ただでさえ速いのに空間まで狭いせいで、勢いあまって壁に激突してしまう。
エレキューブはそのまま直進、壁に激突した後浮力を失い、放電をしてから散った。
「速いね、羨ましい。」
直後、壁にある鉱石のうちひとつが、俺目掛けて急成長した。
退避は間に合ったが、ステージがより狭くなる。
「でも狭くなればそれもデメリットになる。違うかしら?」
もう一度手をくいっと動かすと、今度は壁にある全ての鉱石が、俺目掛けて急成長する。
とっさに避けたが、鉱石の先端同士が俺の居た場所でぶつかり砕け、大量のエレキューブを出現させた。
段々と足の踏み場もないような状況になってきた。
遠距離攻撃で戦えばいいが、生憎俺が持ち合わせているのはダガー1本のみ。
外してしまえばすぐ負けに繋がるから、投げるとしてもここぞという時にしか投げたくはない。
どうすれば。
そうだ天井。
俺はバク転をするような姿勢で飛び上がり天井にぶつかった。
すかさずダガーを思いきり天井に当て、柄にぶら下がってから、かかとでダガーに蹴りを入れてより深く突き刺す。
そのままぶら下がりながら、ダガーを突き刺したときに砕けて落ちて来た、鍾乳石のような形をした石を右手に持ち、手が天井に当たらない程度に思いきり振りかぶった。
俺はひっくり返りもう一度足の裏を天井に付けた後、ダガ―を引き抜くと同時に思いきり天井を蹴り、そのまま地面まで急降下した。
着地点を土煙が覆う。
[2:04]
「あちこち跳んで何がしたいのかしら、ほんとに――」
今。
ダガーは脇腹を貫通し、後ろの壁に突き刺さる。
脇腹からは血がぽとぽとと垂れはじめる。
何が起こったか分からないような顔をしていたので、その隙に壁のダガーだけ抜き取って、逃げるように反対側へ避難した。
ついでに鉱石を割り、エレキューブを出現させたのち、そいつにピン、次にダガーを刺した。
放電だって範囲外まで逃げればどうってことない。
ピンをもう一度
[3:00]
手の下が紫色に光る。
直後、身体がズシンと重くなるのを感じた。
いや、重くなったというよりは、上から圧し潰されている。
重力でも強くなったかのような。
「こうすればちょこまか動き回るのやめてくれる?」
これはまずい。
重力か何かが強くなったせいで、足が思うように動かない。
足を上げる事がままならないので、引きずりながら移動する。
アドバンテージが一つ消えた。
「磁場操作、効いてるみたい。じゃあ、殺すわね。」
どうしたら。
…"磁場操作"?
俺は咄嗟にダガーを持ち替え、右足の靴と地面の間に差し込んだ。
もし地面に何かしているだけなら、足を離せさえすればきちんと動くはずだ。
差したダガーを軸にし、テコの原理で少しだけ持ち上げてやると、右足は元通りの速さを取り戻す。
この速さなら右足を持ち上げるだけで十分かもしれない。
出口に数体のエレキューブが見えたので、そのうち一体にピンを刺す。
「じゃあな、ちょっとここ俺には早かった!」
そう言い残し、差したダガーの上にある右足を、出口に向け勢い良く走らせた。
身体もつられるようにして出口に向かう。
出口にいた数体のエレキューブを蹴散らし、出口に突っ込んだ。
恐らく出口には、電気でのガード以外何もない。
身体ごと突っ込めば、取り敢えず外には出られるはず。
頭から先に出口へと触れる。
直後、全身に激痛が走り――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます