第18話 はじまりの勇者は嗤う



目の前の出来事に教会特務部隊隊長クルセドは息を呑む。


自らの信仰と自らの力によってあらゆる魔を払ってきた、自らの力を疑わずにいたのだが。


「ガキに大層な団体じゃねえか、なあ教会」


目の前の茶色いハットの男は嗤う。


自らの部隊をわずか1分もかからずに屠り、メタリックカラーの拳銃をいまは懐にしまい、禍々しい紅の剣を持っている。美術品のような美しく魅入るような紅。


その剣を持つのであれば


「はじまりの勇者の1人…灰燼の紅」


かつてこの世界が生まれ人種が生まれた頃、神々もまた別世界の魔なる者と戦っていた。


長引く戦いに疲弊する大地。その中で現れた4人の始祖と呼ぶべき4人の勇者。異界より導かれた異なる力を持つ。創造神に導かれた決戦存在。


永遠と呼べる命を持ち、自らの魂の性質を力に変え、創造神に与えられた神器を操る。


全ての存在を灰塵に消す紅の力を持つ灰塵の紅

全ての存在を癒し滅ぼす蒼の力を持つ創世の蒼

全ての存在を消失させる黒の力を持つ虚無の黒

全ての存在の理を改変する白の力を持つ変革の白


今も尚、強大な力を内包し、今も尚世界を滅ぼすほどの頂上存在。


いまは休暇と称して世界になじみ、それぞれが人間として生活を楽しんでいる。


マードック=エドウィン。はじまりの勇者の中でももっとも獰猛であり情に厚い男であり、なにより。


「足らねえな、足らねえよ、お前らは何の技術も出しちゃいない、闘争が足らん、向上心がたらん。たちあがれよ!」


戦闘狂だ。


「回復してやる、持ちうる全てで挑め」


手をかざした瞬間倒されていた法衣を纏った男達が復活する



「…エグ」


初雪はひきながらため息をつく。法衣を纏った男たちが泣き出しそうになりながらバッサバッサと斬り倒されるの見ながら。


「それで貴方は?」


「あら気配を気づくんだね」


銀髪の眼をかくすほどの長さの赤の忍び服を纏った少年はにこにこと笑う。


「…忍者かしら、依頼された?」


「そんなとこだね、まあ依頼主は終わりそうだけど」


「殺気はないから闘う気はないのかしら?」


「まあね、教会上層部には依頼されたけど、頭領からは現場判断で破棄していいと言われてるし、金払いはよかったけどね、それに一般的な悪とされる依頼は受けてはないからね」


少年は肩をすくめる。


「それに教会が存在しない神を祀り利用してるのはもうわかっているからね」


「なるほど、そちらが何かするのかしら」


「こちらには神託を受ける巫女がいるからね」


初雪はふむと頷く。


「世界に影響をもたらすような形かしら」


「そうだね、だから魔王の子は安心していい」


「寛容ね」


「あの親ならば驚異にはならないだろうさ」


「そうね、ドワーフは愛情深いというから」


少年はにこりと笑う。


「僕は銀次、あなたは?」


「初雪よ」


「この騒動が終わったらデートしない?」


「いきなりね」


初雪はふっと微笑む


「可愛い子には目がないんだ」


「あら、嬉しい、まあでも」


「そうだね」


2人は背中合わせになり


「「この雑魚たちを屠ろうか!」」


2人に法衣の男達が襲いかかる!



「なるほど」



黒いスーツの仮面の男は目の前の法衣の男達を観察しながら頷く。


「信仰という狂化であらゆる異常を無効化するか、まあ僕のは異常というか事象だから効かないがね」


ニャルラトホテプは懐にいる魔王の子を撫でると


「まあ、この世界にそれなりに馴染んでるとね、未来ある子供達の未来を奪おうとする者には些か不快だ」


そういうと黒い世界を形作る


「まあ死にはしないがまあ頑張りたまえ」


法衣の男達は闇に飲まれる


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