第16話 異端たる賢者は楽しげに笑う



「さすが、私、実に私好みだ、ランダムな転移実にいい」


広大な草原にギルティはにこやかに笑う。


「まあ本体の能力は極力使わずに生きたいからな、とりあえずどこぞの村や街で診療所でもつくるか」


ギルティはわくわくと声をはずませる。


ギルティは創造神になってから久しく自分の世界には降りたっていなかった。原初の世界は魔法というよりも魔力を扱った機械文明の側面が強かった。


だが行き過ぎた文面は滅びの憂き目にあう、滅びを数度経ても文明は芽吹き世界はまわる。


「いいねえ、私も全てを知るわけではないから、分体である私は世界を楽しむために過ごそうか」


少なくとも30年後に勇者が来るまでならば猶予はある、一応この体は人間として存在しているのでむしろ手伝うのもありかもしれないが、基本的には若者達に頑張ってほしい。


それに勇者である彼女がこちらの世界に来るのを拒むならば無理に連れてくる必要もない。最適解がそれなだけだ。神としてではなく人として私が処理してもよいのだが、それでは面白くはないし、人間のスケールでいえばなんと傲慢であるのだろうかとは言うが。


ある程度危機的な状況でないと進化は促されないという側面もある。


そう考えるならば様々な紛争はあるものの世界的には平和を維持している地球という世界はすごいなとは思う。


まあ基本的な思想や技術体系は違うし、人種しかないというのもあるとは思うが。


「まあ幸いなのは異なる文化ではあるが、異世界としての世界が地球では娯楽としてゲームやら小説として定着していることか、転生文化も神のなかで流行っているからな、転生を受諾してくれる子も多いし」


ギルティは煙草に火をつけると。


「敵がいなくとも群衆に思想で殺されるのと物理的な敵がいて物理的に倒せるのが幸いかは知らないが、少なくともその身に宿る思想と心根次第だということだな、チ地球もこちらの世界もそれは変わらないな」


ギルティは煙草を吸いながら、歩きながら目線を向けると


「なるほど、呪いか」


村と思わしき黒く染まった場所を見つけた。



「二階建てのログハウスに、整った村、恐らくこれは青薔薇か、青薔薇で栄えた村だったのかな?村人達は寝ている、衰弱はせず夢を見ているのか」


ギルティは煙草を吸いながら、美しい青薔薇が咲いた花壇や整った村の道、二階建てのログハウスやツリーハウスを見て呪われてなければよい休息地になっただろう。


「人間に恋した悪魔か、自らの恋のために村人の時も止めるか」


ギルティは煙草の煙を吐くとある存在に目をむける


「…あなた、何者?」


黒いベールを被った鈴のなるような声をした黒いドレスを着た女性が奥から現れる。


「夢魔か、美しい心根の男の子でもいたか?心を見通す力もある者もいると聞くね」


「詳しいのね、学者さんかしら?」


「似たような者だ、最近田舎から出てきてね、さてお嬢さん、この呪いの出処はキミのようだが、何故このような事に?」


「私を祓わないの?」


「何故?キミは対話の意志を見せた、そして睡眠の呪いをこんなに長くする事はしないだろう、何か理由があるのではないかな?」


ギルティの優しげな言葉に目の前の女性はうなづいた


この村の名前はブルーガーデン


青薔薇を独自の配合で自然界に産み出した村であり、その名産によって栄えた村であった。


村人達は皆、花師という職業で花に纏わる事ならば右に出る者はいなかった。


そして村人達は誰よりも花によって人を幸せにすることを第1に思う美しい心根の人達ばかりだった。


彼女の名前は夢魔クインシー、戦う事が苦手で人の営みを好む不思議な悪魔、いつも気配を消し姿を感知していなかったのだが、ある時この村の青薔薇を見初め、通うようになった。


村に来る度に1輪の青薔薇を買う黒いドレスの顔を隠した女性、優しく鈴となる声に1人の花師の青年が恋をした。


顔も見えず得体の知れない自分は貴方にはもったいないというクインシーの言葉にも耳を貸さず、もし私の顔が醜くかったらというクインシーの言葉を聞かず、彼はちゃんと愛を告げ、クインシーは受け止めた。悪魔である事も告げたうえで、村人達もクインシー達を祝福し新たな夫婦が生まれるところに死神が現れた。


「なるほど、堕ちた死神グリムリーパー、魂喰らう、悪食か、彼らは悪魔とは違い、善人の魂を好むからね、夢魔は夢にかけては独壇場、夢を見せることで守ったということか」



「私も夢魔の中では上級に位置するから、夢の中に連れていくなら守れるわ、でも彼も村人達も人間だから、あまり長くは眠らされない、体力回復の魔法はかけているけど」


「戦闘職よりは持たないだろうな、今は衰弱してないが」


ギルティは携帯灰皿に煙草を潰すと


「ふむ、研究対象は決まったね、クインシーさん、その困り事、私が引き受けよう、誰かの恋や愛を引き裂くようなものは蹴られてしかるべきだからね」


ふっと笑った。




ブルーガーデンの上空、黒いローブの大鎌を持った骸骨がケタケタと笑う。


「ああ、いつまで持つかな、あんな美しい魂を持つ人間達、楽しみだあ、きっと私は進化して私を罰した王達をも倒せるはずさ」


「残念ながらそんな未来は来ないがね」


骸骨は驚きながら後ろを振り向く


「ふむ、グリムリーパーというからなかなかの脅威とおもったが、中級程度か、まあ力があるならば村人など狙わないか」


大地を歩くように煙草を吸いながら気だるげに白衣の男は目を向ける


「な、なんだ、お前は」


「通りすがりの研究者さ、なに、名前は覚えなくても問題ないよ、すぐにどうでもよくなる、しかし空気中の成分を改変して足場を作ってみたが、案外上手くいくものだね、飛行魔法よりは足場は安定するか」


淡々と語る白衣の男に骸骨は恐怖を感じる


「さて、中級とはいえ魂の濃度が濃いな、どれだけ喰った、まあ畜生にも劣るような魂ならば問題はないが、君達の種族的にそれはないだろう、出なければ魂を導くはずの君達が堕ちたと称される事はないだろうからな」


白衣の男は煙草の煙を吐き出すと


「女悪魔と人間の恋物語に茶々をいれるんじゃないよ、タイミング的にも最悪だ」


獰猛な笑みを浮かべて


「キミの罪を数えようか」


「へぶぅ!」


骸骨、魂喰らうグリムリーパーは吹き飛ばされる!



「ふむ、魂を成分に見立て実体化させるというのもできるわけか、いいね、この技術、新しく作ってみようか」


グリムリーパーはガタガタ震えている


「な、なぜ、こんな事を?」


「なぜ?キミはそう疑問呈した者達をどうした?」


白衣の男はにこりと笑うと


「まあキミのうちにある魂達はまだ意識があるようだ、地獄に導いてもらうといい」


「な、なにを?」


「テイムという技術を私は持っているんだがね、まあ意志ある存在や生物を従える技術ではあるんだが、自由に従属を選ばせもできるわけだ」


煙草をまた携帯灰皿に潰すと


「ま、まさか?」


「そうだね、キミの支配から彼らを解放するよ、リリース」


そう言われた瞬間グリムリーパーの体が膨張し破裂した。


「汚い花火だねえ、さてと皆は無事かな?」


ギルティはにこりと笑った






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