第10話 色々な意味で予想外だ

第10話


「やれやれ、どうしたものかね」


わずか3ヶ月、人間の欲求や図太い神経というものは予想外なものだと認識する。最初こそ街という土台をつくり、ある程度の街をつくる草案をつくったらならば、あれよあれよと選挙の形を自分達で作り上げ、ギルド組合やら貿易の確保。新しい技術の使い方も覚え、世界有数の高水準とも言える都市となった。


「まあ、NAVIちゃんがこの世界の技術でも再現できる技術と材料で作り上げた都市だからね」


セラは自分に贈られた執務室で珈琲を飲みながらため息をつく。


「まあいつの間にか相談役にお願いされるなんて思わなかったが」


住人達によって新たな市長は選出され議会なるものも立ち上がったし、経済活動も冒険者達や商人達がうまいこと成り立たせて問題もなく、冒険者や騎士達が総出で治安維持をするも、未だに外への戦いには身を割けないとの事で白羽の矢が立ったのが、若き竜王であるセラであった。


原初の竜という伝説に愛され、人の世にて名を知られる武闘家たる老竜の弟子にして国を救った英雄の兄弟子にして国を作り替えたダンジョンマスター。


竜でありながら慈悲を持つその竜に信仰を捧げる者もいるほどだ、セラに至っては街だのなんだのの政策には関わらずにのほほんと鍛冶師をしてればいいとは思ったが、半端に関わった以上は問題があればなんとかするのも大事だよなあと思い、引き受けた。


勿論ブラック労働はしたくはないので、鍛冶優先だったり、自分の生活を優先するのは前提ではあるが、基本的に議会を立ち上げた彼らは優秀であるので、頼ることは少ないが、まあ超常種と呼ばれる規格外の者たちが現れた時は自分が応対し戦うなり対話するなり対処をした。



「相談役サンは色々大変ネ」


「シャオメイ、なんなら変わって頂いてもいいんですよ?」


「お断りするヨ、キミだから彼らは慕うワケダシ」


目の前で蠱惑的なチャイナドレスをきて、黒い髪を御団子頭にしたスタイルのよく胸が豊満な細目の美女がにこやかに言い返した。


彼女はこの都市が出来たと同時に現れセラを狙い襲ってきた超常種の女性で、種族は蛇人、その中でめ神に至ったとされる白蛇王の孫でカンフーに似た拳術と気を操る女傑である。リュウケンとも顔見知りで、国が滅び都市になった噂を聞きつけ挨拶に来たのだとか、いきなり拳で挨拶はセラ自体も困ってはいたが。



「しかし竜なのに理性的だネ、強者を見たら基本戦うの二、人間社会にまでいちいちつっこまないヨ」


「まあそうなんでしょうね、竜王や原初の竜含め、師匠も理性的でしたが、基本的には他の竜達はそんなもんでしたね」


シャオメイに暖かいお茶を出しながらセラは苦笑する。


「どんな種族でも想いを正し生きることができれば、それは尊いものです、それに子どもが笑えない世界になんの意味があるでしょうか?死にやすいこの世界だからこそ命は尊くその人生を豊かに生きる権利は誰にでもあるとは思いますよ」


「超甘いネー」


シャオメイはくすりと笑うと


「決めたネ、この街に住むネ、なんかあったら頼るとよろシ、私も東の大陸じゃそれなりの地位だからネ」


「いや身元の事は知りませんでしたがやはり高貴な方だったんですね」


「そうネ、東の最果ての国皇都における皇帝の長女だからネ」


「…皇女様?」


「かといってかしこまらなくていいネ、貴方の事は好きだからネ、原初の竜に好かれていると聞いても、別に第二夫人でも構わないシ」


「はっ、え?」


「不安にならないでいいヨ、まずはお友達からネ、最初はお互いにもっと知ることからはじめようネ!」


無邪気な笑みで言うと同時に立ち上がり


「貴方は優しい竜、素敵ヨ!今日は帰るネ!」


顔を赤くしながら部屋から出ていった。



「…最近の女の子ってすごいな」


セラは顔を真っ赤にしながら珈琲を飲み直した。



「ぐあーう」


赤いつぶらな瞳を持つ黒いクマがのっしのっしと歩く、その肩には白いローブを身にまとい、白い髪に整った顔をした幼女がいた。


「あら、アリアちゃん依頼おえたの?」


そこは現代風の二階建てマンションのような家屋で、中は白く染まった清潔感のある室内、あのミセリア王国が滅びた後、魔竜王、セラ=ムトウがダンジョンマスターの力を使い、この街をつくりあげ、オーパーツに近い技術を扱った近代的な都市となった。


地球に存在した者達はきっと異世界で東京レベルの都市が生まれたと思うだろう。そして部分的には地方都市と同じような場所や田舎と同じような穏やかな場所が調和されている。


新たなこの場所を黄金郷と呼び多くの冒険者達が現れまた経済を循環していく。


そこに現れたのはわずか3歳のルーキーアリア、年齢制限はないものの、はじめは受付嬢や冒険者達は難色を示し、登録を断ろうとしたものの、アリアのテイムしたとされる黒い熊、またの名を災厄級と呼ばれ国を滅ぼすほどの実力を持つ、マーダーベアと、保護者とおもしきひとりの老紳士、セバスと名乗った男はにこやかに微笑んだ。


「アリアちゃんは大丈夫ですよ、この子を慕う魔獣やモンスター達もいますし、この子自体も単騎でゴブリンキングくらいは倒せますから、それにこの子は我が主の弟弟子の妹、主も気にかけておられます」


セバスはにこやかに笑うと


「まあなにかある前に私も含めて主の執事やメイドが対処しますので、お気になさらず」


「みんな、かほご…」


「アリアちゃん、素敵なレディになるためには、大人に甘えるということも大事なのですよ、ジージも本当は貴方を外には出したくないけど、クロちゃんを護衛につけるので折れたでしょ?」


「うん、セバスジージ」


「アリアちゃんはいい子ですからね、今日はジージと依頼受けましょうか、登録はよいので」


「ええ、そちらの方で説明してくれたのなら、ギルドマスターにも確認は取りますが」


「では、お話できるならお話しましょうかね、アリアちゃん、お話聞けるかな?」


「うん」


そうして冒険者ギルドマスターとの話をした結果危険のない分野であれば受けていいという事になり、また条件として兄を入れることと複数の冒険者をパーティにいれることを約束した。はじめての幼女冒険者が生まれ、どうなるかと思ったが。



「いやマジ幼女最強だろ」


「なんだかんだ魔獣達が幼女と仲良くなってくんだぜ?」


「敵対する奴なんか逆に可哀想だしな」


「兄貴に至っては普通に分身してたぞ」


受付嬢はその報告をきいて、とりあえず笑顔でいつも通りにしようと決め、ギルドマスターにも報告したところ。



「問題ないなら大丈夫?じゃろ?」


御歳70才の穏やかな老人であるギルドマスターは更に顔を老けさせた感じにもなったが。



「お姉ちゃん?」


コテンと首を傾げるアリアをみてふんわりと笑い



「なんでもないのよー、今日も頑張ったね、クロちゃんとおやつ食べてね、お姉さんのお気に入りのクッキーだよ」


「わあありがとう!」


「計算するから、お兄ちゃん達と待っててね」


アリアはにこやかに頷くと兄と一緒に依頼を受けてくれた冒険者達の元へと駆け寄っていった。



この街の冒険者達は善良であり、勇敢だ、だか常に安らかな癒しを持てるわけではない。そんな折りに現れた小さな冒険者は彼らの心を穏やかにしてくれるだろう。


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