第6話 刻まれる新たな竜王の名



大陸中央ミセリア聖王国。


「な、なんたる事だ」


白い法衣を纏った銀髪の女王は玉座に座り目の前の黒い剣を持つ少年と黒髪の青年を睨んでいた。



ミセリア聖王国、かつて勇者を異世界から召喚し、世界を平和に導いた国の1つであったが、長い歴史の中で勇者の血筋は絶たれ残ったのは愚かな王家が残った。かつての栄華にすがり国民を消費し、あらゆる世界の英雄の血筋や聖女と呼ばれる存在を搾取した。


ただこのミセリア家の王家は自らの延命と自らの強化のために攫い続けた者達を人柱にして。



だが誤算だったのが目の前にいる少年の村を襲い失敗したこと、聖女を奪う前に竜王に眼をつけられた。


見慣れぬ雰囲気を纏う新たな竜王。この国を見つけられたのは新たな竜王と友となった闇の竜王アバドン、彼女の索敵にかかればどんなものでも暴かれてしまう。


虎の子の近衛騎士団、魔法兵団もこの竜王と連れだった老竜「覇拳」のリュウケンに滅ぼされた。リュウケンに至っては人化状態で彼の竜は竜の身でありながら人の姿で戦う事を好みあらゆる戦地で自らの武技を扱う。


永遠の栄華を求めあらゆる悪逆を是とした弊害か、我が王家も私以外滅ぼされた。


「…新たな竜王よ、名は?」


「セラ=ムトウ」


名を聞きふと笑う


「死ぬ間際に聞けて光栄だ、私は自らの非道を否定せず、竜の逆鱗に触れようとも王として立ち向かおう」


「その姿見事、だがそれを成すのは僕では無い」



黒き剣を持つ少年が剣を構える


「…良き眼だ、若き少年よ、この首もっていけ!」


ミセリア聖王国の銀髪の女王の首が空に舞う。



ミセリア聖王国が崩御した事は瞬く間に広がり、その領土をすぐさま取ろうとした近隣諸国だが、1人の美女に止められる。


妖艶な銀髪の美女、長身の美しく少し露出めいた赤いドレスを来た絶対たる強者の風格。誰が呼んだかは知らないが原初の竜である彼女を人は女帝竜レディシルビアと呼ぶ。


「やれやれ、国が崩御すれば漁夫の利を得たかの如く群がる矮小な者共よ、相も変わらず美しくない」


獰猛な笑みを浮かべ銀色にして漆黒の瞳を持つ最古の竜は宣言する。


「これよりこの地は私の縄張りとする!何人たりとも支配することは出来ぬとしれ!この地に蔓延る闇は若き英雄の卵とその兄弟子たる若き竜王が討ち滅ぼした!」


原初の竜は歌うように語る


「彼の者はやがて竜の歴史を変える竜王!やがて私を超える猛き竜!我が番となるべき竜!その者が護る者を害する者は我が牙にて屠られると知れ!」



近隣諸国の数百人にも及ぶ他種国家の連合軍にそう宣言した!




「…これって逆プロポーズ?」


セラは冷や汗をかきながら顔を青くする。


「しょうがあんめえ、まだ2桁しかならない年齢で最古の竜に一撃食らわしたんだ」


玉間でリュウケンは欠伸をしながらセラに眼を向ける


「あれは不可抗力でしょうよ、たまたま戯れといってシルビアさんが襲ってきたわけだし」


「通常ならそこで命が潰えるんだよ、普通はな、だがお前は抗い一撃返してみせた、竜は強き者を尊び、自分の番を見つける、気に入られたんだ、あの女帝様にな」


リュウケンはカッカと笑う


「あの我儘な原初の竜様に気に入られ対等に見られるなんてなかなかないぞ、それと原初の竜ってのは竜神の子とも言われて、当然父母もいるし、双子の兄もいる」


「初耳ですよ」


「聞かれなかったからな」


「ちなみにミラドゥークは城から離れてますよね」


「離れてるな」


セラは冷や汗をかきながら笑う。


「じゃあこの気配は」


「ああ、僕の気配だね」


後ろを振り向くと銀髪のシルビアに似た優しげな雰囲気の青年がいた。シンプルな黒色のジャケットに現代風のカジュアルな出で立ちシックな青色のジーンズと黒いブーツを履いている。


セラよりも少し高く195センチほどだろうか。


「…シルビアさんのお兄さんですか?」


「そうだね、はじめまして、セラくん、僕はシルビアの兄のアレックスだ、妹がすまないね」


アレックスと名乗ったシルビアの兄はにこにこと笑う。


「リュウケンさんも息災のようで」


「まだまだ現役よぉ」


「私たちを最古とは言いますが貴方も父と世代は一緒なので現役なのはすごいですよ」


「…もしかして依代的な?」


「まあそれは追々な」


リュウケンはにこにこと笑いながら肩をすくめる。


「まあこの国はどちらにしても僕らが対処する予定だったから逆に助かったよ、まあ妹が気に入る若き竜も気になったからね」


アレックスはにこにこと目線を向ける


「妹が決めたことだから、君は関係ないとはいえるんだが、君に愛を向けている事を快く思わない竜種達もいてね、原初の竜といえば竜達の長とも言える存在だ、竜王という王の称号ではなく、僕も父母も妹が望んだ事だ、叶えたいが、如何せん君は若くまだ新参だ」


アレックスはにこやかに笑顔を向ける


「妹が好む者を表立って挑む者はいないと思うが、竜は強き者を尊ぶ傾向がある」


アレックスは手をかざすと白銀の刀を出現させる。


「聞けば鍛冶もすると聞く、戦いの中で見出すものもあるだろう、人化状態だが僕と試合をしないか?」


「お断りは難しそうですね」


「そうだね、竜種達を認めさすのに手っ取り早いし、何より僕が君の可能性を知りたい、竜は闘争が好きだからね、これから羽ばたく可能性がある竜を見ると滾るのさ」


アレックスから巨大な圧が放たれる。


「大丈夫、結界はしてあるから、君の弟弟子や他の民には影響はないよ、いいね、その平然としたままの姿」


「…意外と驚愕してますが、まあ同じ竜同士無様な姿は見せたくないのでね」


セラも空間から黒い剣を取り出す。


「君が造りあげた剣かい?」


「ええ、純粋に重く斬れ味を高めただけの剣です」


「銘は?」


「まだ銘はつけてはないですが、貴方と斬り結んだ後銘をつけるとしましょう」


「銘のつけられる瞬間に立ち会うのは贅沢だね」


「それは光栄です、では」


「後は剣閃の後で」


2人の姿がぶれ掻き消える


「竜神の血族と異端たる竜王はてさてどうなるやら」


リュウケンはにやりと笑う










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