第4話 黒き鱗の優しき竜王



突然ではあるが、こちらの世界での人間形態の僕は、黒髪黒目の190センチくらいの細身の男である。原初の竜である彼女がいうには、穏やかな顔が整った美男でこちらの知性ある種族ならば誰もが振り返るらしい。


前世もさしてモテるような事はしてなかったが、なんだかんだ好意をもってくれてお付き合いしたひともいたくらいだ。


何故わざわざ竜にしたのかはわからないが、まあなんらかの理由がセイクレッドさんには会ったのだろう。


基本的に全属性適正のある竜というのは珍しいらしく、僕を含めて三体くらいしかいないらしい。原初の竜であるあの人と、竜王達や老竜達が噂する昼行灯と呼ばれる星帝竜と呼ばれる原初の竜に並ぶ王種と呼ばれる最古の竜、人化状態は極めて穏やかな気質の持ち主で、基本的にはヒトの街に混じって子供たちの世話をしながら暮らしているらしい。


老竜たる師匠曰く星帝竜は星すらも操るといわれ、この世界の神話にて深淵から産み出された混沌たる存在とその時現れた勇者と共に世界を救ったらしい。


自分の居ない世界の話なので、想像しか出来ないが、非常にすごいことなのだろうなあ。


それはともかく今日はダンジョンの配下の皆にお留守番をお願いして竜として近所を回ろうと決めた。


意思疎通の出来る逢魔の森のモンスターや魔獣の皆は寂しそうにしてたけど、お土産をもってくるといったら皆はなんとか納得してくれたらしくにこやかに僕は彼らを撫でた。


懐いてくれるなら可愛いもんだね。


「さて、セバス、いってくるよ」


「ご主人様、お気をつけて」


なんとなく貯めたDPで身の回りの世話をさせるために召喚した最上位の悪魔、セバスに声をかけ、自身を竜化させて、空を飛ぶことにした。


ダンジョンで召喚する際、僕の召喚に干渉し、配下にしてほしいと嘆願してきたのには驚いたけど、悪魔として魅力的な魂と竜としての王の資質、あらゆる覇道を歩む予感を感じ、馳せ参じたとの事で、見た目は執事服が似合う白髪の紳士的でかっこいい口ひげの似合う老紳士なんだが、中身は1国を滅ぼせるほどの力を持った凶悪な悪魔でもあるのだが、性格は穏やかで、セバスの呼び出した部下の悪魔達も美男美女の強力な力を持った悪魔達ではあるが。


基本的に無駄な争いはせず、寧ろ丁寧な家事や掃除をしてくれるので助かっている。それでもこの森の中で最上位に位置する力を持っているのだが。



さすがにログハウスと洞窟と鍛冶場だけでは物足りないと思い、少し大きめな屋敷を産み出すとセバス共々悪魔の皆は喜び思い思いに掃除や家事をしてくれた。



「(たまには竜王以外の友人でも作り連れてこようかな)」


さすがにこの地域は高レベルな冒険者じゃないと無理かもしれないが。



それはともかく初めての竜化で変化した自分の姿は、光沢のある黒い鱗をもった黒竜で、金色の瞳になっていた。稀に高位の竜は自らの竜化の変化で瞳の色が変わるらしい。


そういえば遊びにくる竜王達も瞳の色は変わっていたなあと思いながら、空を飛んでるとふいに声がきこえ、その気配に眼を向けた。




「ガキ共、まさかにげられると思ってないよなあ」


逢魔の森の入口付近、下品な笑みを浮かべる男達を見ながら、革鎧を着た茶色の髪の力強い赤い瞳の少年が、背中にまだ3つになるかならない白いローブを被った少女をかばいながら威嚇している。



「こんな辺鄙なとこに神に愛されし聖女がいるなんてなあ」


「金になるにはもってこいだ」



「そんな事のために僕らの村を滅ぼしたのか!」


少年の言葉に男達はにちゃあと笑う。



「誰もいない発展性もない村で生きたところで何もできまい」



「この野郎!」


少年が激昂した瞬間、空間に声が響く。



「そうかな?発展性がないというのは独自性を守り、暮らす事を護るということではないのかな?」



静かに巨大で腹に響く声、男達は驚愕に満ちた表情で空から降りてきた黒き竜に目線を合わせた。


「まあ、話は聞こえたが君たちもろくな人種じゃないな、少年、その子を抱きしめて見せないようにしてくれ」


黒き竜の優しい静音に静かに頷き少女を抱きしめると、黒き竜は眼を細め


「さて、冥府に懺悔をしにいっておいで」


あっけなく男達の体を引き裂いた。



「(意外と竜になったせいか、命を奪うことには抵抗はないな)」



人化をして、遺体を焼き払ったあと、目の前の少年と少女に眼を向ける。


「あなたは?」


少年はごくりと唾をのむ。


「ああ、1年前くらいに居を構えたしがない竜さ」


極めて穏やかに少年に声をかける。


少年の名はミラドゥーク、逢魔の森の近くの秘境の村の少年、少女の名はアリア、神の祝福を受けた幼子、秘境の村は神に祝福されその小さな箱庭で深く愛され成長するはずだった。


だが彼らの安寧は破られた、人の欲望によって聖女の奇跡を宿す者を国家が得ればその国は100年は繁栄されるとされる。だが国家に奪われた聖女や奇跡もたらす者の最後は誰も知らない。


ミラドゥークはアリアの兄であり、村人も家族だった。村人達は2人を逃がし犠牲になった。男達はとある国家に雇われたならず者。どこの国のものかはわからない。



「まあ、足跡は残さないだろうね、多分そういう国家は」


僕はふむと頷く。


「さて、改めて名乗るけど、僕はセラ=ムトウ、この森に住み始めたしがない黒竜さ」


僕はミラドゥークに眼を向ける



「ミラドゥーク、君はこれからどうしたい?」


ミラドゥークは応える


「皆の仇をうちたい、アリアの安らぎを守りたい!」


僕はにっこりと笑う。



「まだ心の灯はおちてないね、良い眼だ、ならば僕は君の力になる剣を打とう」


ミラドゥークは僕の眼をみる。


「少しばかり鍛治職人としての力を貸すよ、少年、それに見ているんでしょ?師匠」



僕の言葉に中華服に似た服を纏ったスキンヘッドの快活な老人が現れる。



「1年で俺の気配探れるたあ、なかなか筋がいいじゃねえか、セラ、いいねえ、そっちのガキを弟弟子にってか、住処を追われても尚立ち上がる気骨、大したもんじゃねえか」


老人は溌剌と笑う


「俺の名はリュウケン、しがない武芸者さ、それよりセラぁ、腹減ったぜ、セバスあたりに飯お願いできねえか?」


「わかりましたよ、師匠、2人もまずはご飯を食べよう、話はそれからだね」


僕の笑みに2人はうなづいた。



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