24.継承式、それから婚約式(2)

「えー、本日はお日柄もよく、」


 式典が始まってからまたまた驚いた。

 なんと、司会席に立っているのがエドモン様だったのだ。

 だから!なんで!皆様私に関わろうとするの!?私は皆様の将来を奪った悪女なのに!


「それにしてもこのリュクサンブール宮殿の壮麗なこと。本日この場で継承式をお迎えになるウェルジー男爵はガリオン我が国いちの果報者と言っても過言ではなく⸺」


 いやだから、話長いってエドモン様。



 式典もつつがなく終了し、ラルフ様はアンリ41世陛下から男爵勲章を直々に授与されて、正式にラルフ・ド・ウェルジー男爵になった。私はまだ正式に婚約者ではないから、少し離れた縁者席で見守らせてもらった。

 これ、予定通り婚約式までセットだったら私もあの場で陛下にお目もじしてたんだと思うと、ちょっとだけお義兄にい様に感謝の気持ちが湧いた。


 この後は招待客の皆様を晩餐会でおもてなしして、引き続き夜会という流れ。貴婦人がたも何度もお色直しがあるので、招待客の皆様それぞれに控室も貸し出されている。

 晩餐はホスト側なのかと最初思ってて、例のお試し教育での“悪夢の昼餐”が蘇ったりもしたけれど、普通にリュクサンブール家の使用人たちが全部取り仕切ってくださって、私たちはむしろ饗される側だった。うーん、至れり尽くせりだなあ。


 夜会ではラルフ様と初めて踊った。超緊張したけど、淑女教育である程度ダンスも練習してたし彼のリードがとても的確で、「私に任せて」と仰るものだからつい甘えてしまったけど、そのおかげで大きなボロは出なくてひと安心。お義父とう様になるアルトマイヤー伯爵もお義母かあ様も満足そうに頷いてらっしゃったから、多分合格は頂けた……と思う。

 それにしてもラルフ様、ダンス出来たのね。まあ伯爵家のご子息だしお母様があの方だから、幼い頃から教育はバッチリだったってことなんだろうな。



 顔も名前も分からない多くの方々にご挨拶頂いて、名刺の交換に淑女礼カーテシーの交換、それから談笑。主役なんだから仕方ないけれど、さすがにちょっと疲れたなあ。

 ていうか、よく考えたらこれ私の御披露目デビュタンテになるんじゃないの!?うわやっばー!全っ然そんなつもりで居なかったんだけど!?


「今回のこれ・・は数に入れなくてよろしい。貴女がまだ御披露目前だというのも招待状に記しておきましたし、正式な御披露目デビュタンテは婚約式で改めて、ということになっていますから安心なさい」


 相変わらず、ニコリとも笑わずにお義母様はそう仰った。ていうことは、婚約式までの1年間でみっちり・・・・しごかれる・・・・・って事ですね。安心できる要素ひとつもありませんよお義母様ぁ!


 夜会ではエドモン様とも少しお話しした。「コリンヌ嬢の門出に僕が関わらないなんて有り得ないよ。婚約式でも司会するからね、よろしく!」っていーい笑顔で仰るけれど、私なんにも返せないよう!

 ギレム伯爵、つまりオーギュスト様のお父様にはオーギュスト様がどれだけ褒めちぎってたか事細かに教えられて悶絶したし、そこにお義父様のアルトマイヤー伯爵と、なぜか殿下と王太子殿下に王太子妃殿下まで加わって褒め殺しに遭って。もういっそ誰か殺してぇ〜!

 ってそこ!お嬢様と奥様と旦那様!ニヤニヤ眺めてないで助けてくださいよう!ラルフ様はラルフ様で嬉しそうに尻尾ブンブン振ってるだけだし!もう幻視じゃなくて絶対生えてるでしょそれ!



  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



 それからは本当に忙しい日々が続いた。

 お義母様の元での淑女教育は最初の10日に2回から4回、5回と増えていき、私はいつしかアルトマイヤー伯爵家の首都公邸からアクイタニア公爵家の首都公邸に通ってお仕事するようになっていた。当然、講義内容もどんどん多くなり、淑女教育だけでなく事実上の“王子妃教育”を受けているに等しい状態になっているのが嫌でも分かる。

 胡散臭いオッサンだと思ってた歴史担当のクレマン先生とも、チャラい兄ちゃんと思ってた語学担当のルメール先生とも再会して、案の定みっちりしごかれた。ただ、それまでの1年間である程度基礎を学べていたこともあって、鞭で叩かれることはほとんどなかった。私も少しは成長してるってことよね?そう思っておこう、うん。

 マナー教育担当のデュボワ先生もクビにならずに引き続き教えて頂いている。今はダンスと、夜会やお茶会、餐会でのホストとしての振る舞いを学ばせてもらっている。


 お義母様は、個別の講義はそれぞれの先生⸺みんなお義母様の教え子だそうだ⸺にお任せになって、伯爵夫人としての振る舞いや邸の女主人としての仕事などを教えてくださっている。相変わらず厳しいけれど、そこには確かに愛があると今なら解る。

 動かない表情の下にもちゃんと感情が見えてくるようにもなって、私はもうすっかりお義母様のことが大好きだ。



 そうして1年後。

 つまり私の17歳の誕生日である花季下月の中週の5日に、ついに私とラルフ様の婚約式が執り行われた。“どこにもない楽園イェルゲイル”にいらっしゃるお義兄様もきっと喜んでくださっている、と思う。

 式には予定通り・・・・王太子ご夫妻に殿下にローラン殿下、お嬢様と奥様と旦那様、それからレティシア様が参列してくださった。本当に司会を買って出てくださったエドモン様も含めて本当にたくさんの方から祝われて、ちょっと、いやめっちゃ泣きそうになった。まあお義母様がいらっしゃるから意地と根性で耐えたけど。


 でも私が頑張って耐えたその隣で、ようやく正式に婚約者になれたラルフ様は人目も憚らず泣きはらしてお義母様に怒られていた。でも私は泣くほど喜んでくださったことが嬉しくて、そっと彼を抱きしめてキスをした。女からキスするのははしたないのだけれど、晴れて婚約者になったから、もう我慢しなくてもいいんだ。


 長かったよ、ホントにね?

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