11
解放されたドミニクは、〈ソルダット〉を操縦して、一目散にその場から離脱した。正規隊が集まる場所に合流するべく、全速力で駆け抜ける。
あの赤い袴の女も、ガキ共も俺をぞんざいに扱いやがって。
正規隊の仲間たちと合流すると、てっきり怒鳴られるかと思ったが、向こうはドミニクのことなど歯牙にもかけておらず、今日の呑みの話の片手間に生徒たちを砲撃していた。
どいつもこいつも俺を馬鹿にしやがってと恨み辛みを抱きながらも、ドミニクは気を取り直す。目の前のガキ共を撃って憂さ晴らしだ。威勢の良いことを言っていたが、依然として状況は変わりなく防戦一方だ。ガトリングと多連装ロケット砲を装備した愛機の姿を思い浮かべ、狙いを定める。一瞬LPCDの通信の光が遠くで瞬いた。
「ドミニクカスタムが火を噴くぜ!」
ドミニクカスタムが火を噴いた。しかし。
「え」
トリガーにかけたままの指を見つめてドミニクは困惑する。二門のガトリング砲とロケット弾が放たれる勇ましい音が頭上で轟く。ドミニクは何度かトリガーを引き、ついには操縦桿から手を離す。ドミニクが触れていないにも関わらず、何故か弾が放たれ続けていた。そして、その弾幕の嵐は、全てシビセイの部隊を襲った。慌てて操縦桿を捻るが、操作を全く受け付けなかった。
煙が晴れる頃、シビセイの指揮官は咆吼した。
『どういうつもりだ!? 我々に牙を剥いてタダで済むと思っているのか。一番から三番隊、あいつらを処刑せよ!』
途端にコクピットに罵声が舞った。
『ドミニクてめえ!』
『何考えてんだ、ぶっ殺すぞ!』
『やべえぞ、こっちに来てる』
ドミニクは迫り来る怒りに満ちた瞳と、後方から浴びせられる罵詈雑言に天を仰ぐしかなかった。
「ふえぇ」
○
突如、放たれた正規隊の攻撃を受け、シビセイの部隊は迎撃すべく二手に分かれた。そして、追われる形となった正規隊は散らばってその場から逃げ出した。困惑する生徒たちをよそに、カササギとヨシノだけはほくそ笑んでいた。
「生徒想いの心優しい先生方が助けてくださったぞ。思った通り。所詮は金での関係だ。簡単に割れたな」
「スーパーハカーの友人がいて良かったね」
ヨシノは空中でひらひらとキーボードを叩く真似をした。
「全くだな。包囲は解けた。お前ら、これくらいいつもと比べたらなんてことねえよな」
辺りそこら中から喝采が沸き起こった。
「さあ、反撃行くぞ!」
目の前に残った敵は〈クリーガァ〉三機と、〈白虹〉を携えた歩兵が十人だった。対してこちらは今前線で動ける〈ソルダット〉は十五機に、六合器隊はその倍以上いる。さすがにこれほど戦力差があれば話は違ってくる。
ケレス班の〈ソルダット〉が大型シールドを展開しながら、後退し敵を引きつける。指定した位置を通過した瞬間カササギは号令を下した。
「エイハブ、今だ!」
エイハブ機が放ったロケット弾が一斉に飛び立つ。今までこちらのロケット弾が通じていなかったからだろう。〈クリーガァ〉は悠然とした姿で構えていた。そして、ロケット弾の軌道が逸れ、頭上を飛び越えたのを認めた瞬間、兵士は薄ら笑いを浮かべた。
「どこを狙って」
しかし、背後で爆音が炸裂した瞬間、その表情が青ざめる。廃ビルが崩れ、その残骸が一気に雪崩れ込んできた。たちまち〈クリーガァ〉と随伴する兵士たちは周りを塞がれる。そこに生徒たちは一斉に攻めかかった。
ミーケニーケ班をはじめとした〈ソルダット〉の群れが30mm機関砲による弾丸の雨を放ち、敵の足を拘束。そこにオモト機がワイヤーアンカーを飛ばし、一気に距離を詰める。ゼロ距離で敵機体のコクピットに汎用アームからパイルドライバーを射出し、串刺しにした。そして、逃げだそうとする兵士をアリ機の120mm滑腔砲が吹き飛ばす。
「よし、隙ができた。離脱するぞ!」
カササギが指示を出したその時だった。突如、夕方に移り変わろうとする空が白光した。
「何だ?」
手ひさし越しにカササギは白に包まれる光景を睨みつける。やがて光が明けると、目の前の光景に息を呑んだ。
“Arctotherium”
十五メートルはあろう大熊が〈ソルダット〉を掴み、そのまま口に放り込んだ。
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