第16話「宿り神」
「いやぁ、里長のせいで脱線しちゃったねぇ」
発端は間違いなく天狗だと思ったが、どうやら先ほどのやり取りを天狗も里長もあれはあれで楽しんでやっている様子。
と、無理矢理にでも感じる事にしたカシロウは敢えて何も言わなかった。
「ところで天狗どの、貴方は転生者ですか?」
「え? どうして?」
「私と同郷なのでは、と思いましたので」
ポンと手を叩いた天狗が言う。
「なるほど。この格好にこの庭だもんね。そりゃそう思うよねぇ」
この小洒落た
西村
「ええ。私と同郷の先達がそれなりにいるという事で着物もそれなりに見掛けますが、庭園の事などお詳しそうだったものですから」
「まぁ、そうだね。でも僕はヤマノさんと同郷じゃないよ。僕は確かにこの世界生まれさ」
間違いなく同郷だと思っていたカシロウは驚いた。
「まぁ、僕には秘密と不思議がたくさんだから。追々分かってく事もあるだろうし、今はさっきの続きをやろう」
天狗が不意に、パンっと
「今のを見て、どう思う?」
天狗が豪快に先程のやり直しを始めた。
唐突だったので戸惑いを隠せないながらも、カシロウもそれに続いた。
「魔術……ですか? 風と火の魔術を合わせれば『爆発』の魔術になると聞いた事が……」
「なるね。でもこれは根本的に魔術じゃあない。これは僕の――、僕に憑いた
ビャッコ――、とカシロウが呟く。
「そう、白い虎と書いて白虎。ヤマノさんに憑いてるのは
「鷹? 私に? 憑いてる?」
カシロウは話題が急に自分に振られて驚いた。
自分は魔術も全く使えぬし、こう言った『不思議な力』の話題で引き合いに出されるとは思いもしなかったのだ。
「そう言えば先程、私の事を『鷹のお侍さん』と呼ばれましたな」
「そうそう。ヤマノさんが起きてすぐにね。お名前伺う前だったから」
一応言っておくけど、四話参照だから「先程」って感じじゃないね。
「鷹に虎――、鷹? 私に鷹?」などと呟くカシロウは首を捻る。あまりにも未知で予想外なことがうまく飲み込めないらしい。
「ちょっと長くなるから中へ入ろう。体に障っちゃう」
縁側から元の和室へ戻り、カシロウは腰までを布団に入れて座る。その上でヨウジロウを腿の上に座らせた。
「これも羽織ると良いよ」
天狗が再び箪笥から
「すみません、ありがとうございます」
「良いの良いの。僕のじゃないし」
布団の横に、どっこいしょと天狗が腰を下ろし、んー、と目蓋の裏を覗くように何かを考え始めた。
「あぁ、そうそう。鷹のお侍さんの所まで話したんだっけ。じゃあね――」
天狗の話は長かった。
いちいち脱線するから。
要約すると次のような事だった。
――この世界のありとあらゆる、魔人や獣人も亜人も含めて、人の魂には神が宿っている。
人の魂にはそれぞれ器があって、その器の大きさに見合った宿り神が憑くんだ。
僕が
僕には白虎、ヤマノさんには鷹、みたいにね。
しかし、宿り神は共には死なない。
彼らは宿主の死と共にその魂から離れ、再び新たな魂へと宿る。
ただし、宿主の魂が仮に
何十何百もの宿主を渡り歩き、相当数の年月を経て、
その条件の中、生まれつき強い宿り神が憑いてるケースがある。
分かる?
そう、二周目の魂を持つ転生者がそうなんだ。転生者の魂は生まれたてでもう十に育ってるから。
当然例外はあるけどね。なんの理由もなく器の大きい人もいるから。
ここまで何か質問ある?――
カシロウらが知る一般的な物事ではない事だけは、カシロウにも判る。
「その、
「そう。その通りだね」
カシロウの質問に対し簡単に答えた天狗が付け加える。
「この宿り神って存在がね、ヤマノさん達――転生者をこの世界に呼ぶんじゃないかと僕は考えてるんだ」
宿り神自身が
「では……私はこの……鷹に呼ばれて転生した……と言うのですか――」
「うん。まぁ、そうじゃないかな、ってとこだけどね」
この世界に暮らす者たちは、転生者について割りと簡単に考えている。おおよその者は『そういうものなんだ』という程度に。
この転生者本人であるカシロウも同じ様に考えていた。驚きから抜け出せずにいるカシロウを気にすることなく天狗が続ける。
「宿り神たちは全て、何かの生き物の形をしている――少なくとも僕はそれしか見た事がないよ」
「見た事? 天狗殿にはそれが見えるのですか?」
「そりゃぁ見えるさ。僕のならヤマノさんも見られるよ。見る?」
天狗を疑う気持ちはカシロウにはない。
ないが、どうしてもやや疑わしい。
先程の築山を吹き飛ばした力も魔術を使えばどうとでもなる。
宿り神を目にすれば全て信じられるという訳ではないが、信じる一助になるだろう。
「是非に」
「オッケー」
この『軽さ』も疑わしい要因の一つではあるのだが、天狗の
「出といで、白虎」
特に力む事なく、天狗がそう呟いたと共に――
畳に正座する天狗の背後、ジワリと空間が滲む様に、ぼんやりとではあるが徐々に像が姿を結ぶ。
「これが僕の宿り神、白虎だよ」
圧倒されるカシロウ。
キャッキャと手を叩いて喜ぶヨウジロウ。
小柄な天狗であれば、跨って乗れそうなほどの大きさ。
息遣いさえ聞こえてきそうなほどの迫力。
今にも吠えて飛びかかられそうなほどだった。
「……触っても?」
「ごめん、それは無理」
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