第9話~お国は青かった。~

「エンジさん、お久しぶりです!」

「そうだな、久しぶり」

 エンジを街中で見かけてテンションが上がるソラとそれを白い目で見る姫君、そして、騎士エンジである。

「ほんっとエンジのこと好きだよね、ソラは」

「好き……なのか? 友達としては好きだけど恋愛感情は沸かんな」

「そうなんだ。私も恋愛感情は沸かないよ、ソラだけには」

「私は、国を守るという職業に就いている以上、うかつな真似はできんからな」

「今考えたら僕ってヤバくないすか⁉ 女騎士と友人で姫君の家に住んでるって⁉」

「たしかにマズいな……」

「マズくはないでしょ! 近くのスラム街の家じゃないんだよ⁉」

「僕は十分すぎる生活だけど、もうちょっと刺激が欲しい」

「前も言っただろう? 生きる以上を求めるのは強欲だと」

「流石に求めない方がおかしいっすよ⁉」

「そうなのか?」

「そうっすよ!」

 すると

「どけ」

 そう言われた。見ると、身長はそこそこ高く、少しだけ筋肉がある青髪の男が険しい表情で立っていた。

「街中でイチャイチャするなっての……ったく、これだから……」

 ソラはイラっとした。イチャイチャするという表現がこの世で一番嫌いだからだ。

「イチャイチャとは何だ。僕はただ話してただけだ」

「邪魔なんだよ。うんざりだ。消えてくれないか?」

「はぁ? 何だその口の利き方はぁ!」

「邪魔だから消えてくれと願っただけだよ何が悪い」

「初対面に向かって言うことじゃないだろ! 素直に謝れよ!」

「君に謝る必要性を全く感じない。身の程を弁えたらどうだい?」

 流石にエンジが割って入ってきた。

「まあ落ち着きたまえ。君らがここで騒いでも何もならないだろう?」

 当たり前のことだ。騒いでも埒が明かないのは明らかだった。

「君は何か勘違いしすぎではないか? 自分に惚れている」

 あ、言っちゃった? 僕もそれ思ってたから。

「自分が好きで何が悪い? この国の姫君だって、自分のことを好きすぎだろう?」

 話し方からして違う国から来たっぽい。すると

「この国の姫君ですが?」

 本物の姫君が現れた。続けて

「どこの国から来たの?」

 男は

「『ザンニバル』」

 と答えた。

「ザンニバル⁉ スラム街じゃない!」

「そう。だから、俺は強奪をしに来た。大人しく従え。さもなければ殺すぞ」

 残念な男である。顔立ちは整っている「イケメン」であるのに。

「これは僕の個人的な偏見なのだが、スラム街出身だからこういう思考様式なのだろう」

「……どういうことだ?」

「スラム街だとストレスが半端ではないはずだ。人間は強いストレス環境下に長期間身を置くと、ストレスに対して適応し、ストレスホルモンが即座に過剰に分泌されるようになる。そして、性格においては、遺伝より環境の影響が大きい場合が多い。遺伝も環境も変化は50%ずつだ」

「小難しい」

「理解力も乏しいのか、サルめ」

「あ? てめえ今なんつった!」

「二度も同じことを言いたくはない」

「もっぺん言ってみろ!」

「二度も言わせるな。僕が話すと、シベリア横断鉄道より、日本で言うと東北新幹線より長くなるぞ?」

「量子力学は? 勉強したのに」

「残念ながら、量子力学は今の話においてまったく関係がない」

「もう! 何よ! せっかく勉強したのに! これじゃ無意味じゃない! バカバカバカバカ!」

「勉強して無駄なことなど何もない。勉強は、人間ができるものだ」

「それ、頭がいい人が言うことじゃん」

「頭の良し悪しは関係ない。中学校までは実に面白いことに、頭の悪い人と頭の良い人がいる。だが、勉強をしていないだけで頭が悪いかどうかは分からない。勉強はやればやるだけついてくる」

「……俺は?」

「ん? どうした?」

「俺も……頭良くなりたい……」

「なら、こんなことをしている暇があれば勉強しろ」

「…………分かった…………」

 そっぽを向き、そのまま帰っていった。

「私、行かなばならない」

「どうしたんすか、エンジさん?」

「今から騎士の徴収会がある」

「ほえー、騎士ってすげえ」

「聖騎士心にコバルトブルー」

 急にそんなことを言いだしたので

「どういうことですかじゃ

「これは私たち騎士のモットーだ。我が国は今日も青い……それじゃ」

「はい、頑張ってください!」

「じゃあ私は行こうかね」

「ノラギアはどこに?」

「政策会議。それも重要な」

「お、おう、いってらっしゃい」

「うん。じゃ」

「僕一人になってしまったな。飛ばされた時みたいだな」

 いずれは別れの時が来るのだろうかと一人で考え、嘆き、悲しみに浸るソラなのであった。

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