第7話~NP困難~

 教団本部は禍々しい。いつの時代であってもそれは変わらない。ラプラスもまた例外ではないのだ。

「ラプラスのことを教えてほしい? あらやだ、神への反逆者が来ましたわ」

 そう話すのは、教団本部で見回りをしていたラプラス信徒の一人である。

「神への反逆? とんでもない。僕らはここでありがたい神の話を聞きたいだけだ」

「そういうことでしたら中へ」


 遡ること三十分ほど前。ソラたちは物陰に隠れ、教団本部を観察していた。

「あいつらよ」

「見飽きた面だ」

「一度会ったらしいね」

「そうだな。ウエストランドで」

「ウエストランドにも倍増してるのね……」

 今日の姫君はやけに表情が険しかった。

「ノラギア、どうかしたのか?」

「何でもないわ。ただ、まずいのよ」

「まずい? どういうところが?」

「見ても分からないの? 今準備を進めてる」

「あー」

「あいつらが何を起こすか分かっちゃいないのよ」

「そっか」

 ノラギアの代表者という人物が来た。こうなるとラプラスは何を起こすか分からない。

「そもそも、悪魔など一種の伝承にしかすぎん」

「言い伝えね」

「そう、言い伝え。実際に存在するかって話だ。証明してみろ。異世界だから分かんねえけど」

「そういや、あんたどこから来たのよ」

「日本」

「日本?」

「って概念無いのかな? 極東のはずだけど違うみたい」

「極東は、オーヘンランドよ」

「でしょうね! ウエストランドの国民から聞いたよ!」

「でも、アスワライド人に顔立ちは似てる気がするわ」

「アス……なんだそりゃ」

「アスワライド人。うちの国よりは栄えてないけどいろいろな文化があるわ」

「アニメとか漫画とか?」

「それが何か分かんないけど、木は彫ってた」

「それ、版画!」

「版画っていうのね。とても関心を受けたよ」

「そりゃどうも。ところで、それどこにあるの?」

「海のずっと向こう。島国よ」

「日本じゃねえか!」

「アスワライド人は日本って呼んでるの?」

「それは知らんけど、僕のとこはそう呼んでた」

「ふーん、そうなの」

「興味なさそうだな!」

 すると、姫君がふいに立ち上がった。

「今よ!」


「私たちは普段悪魔を崇拝しています」

「悪魔? それはどういった悪魔ですか?」

「そうですね。例えば、サタンとかですかね。派閥によって崇拝している悪魔が違うので。私は、ルシファー様を崇拝しております」

「ルシファー? 堕天使じゃなかったっけ?」

「はい。堕天使ですが、私たちはルシファー様に救われております」

「そうなんや」

 言い終わると、少しの沈黙があった。耐えられなくなったソラは、信徒の頭を掴んで壁に思い切り押し付けた。すまない、ラプラスの信徒よ。これがお前らの運命だ。

「え、ちょ、待ってください! 私たちは何も悪いことをしていません! ルールを守って崇拝しているだけです!」

「ルールを守ってたらいいのか! そもそも! ルール自体守ってねえじゃねえか!」

 か弱い女の子にこんなことをするのは男としてありえないと思うが、仕方のないことだ。

「いけません! 神への冒涜です! 罪深いです!」

「黙れ。神などこの世に存在しない」

「神はいます! 私たちは信じています!」

「『メタンハイドレート』!」

 灼熱でまみれる教団本部を前に、彼女は息を引き取った。

「これでいいのか?」

「他にもこれをやらないといけないわ」

「めんど」

「見事な火炎魔法でした!」

「「誰だ!」」

 そこに現れたのは、浴衣を着ていて、金髪であり、顔立ちが整っている女の人である。後ろに大量の信者をちらつかせている。

「私はラプラス教祖、マイガ・トヴェリニス」

「「教祖⁉」」

「そうだよ、教祖」

「お前を倒せば、この世は平和になる」

「やだなあ。別に悲劇のヒロインぶる訳じゃないけど、やめてくれよぅ」

「『メタンハイドレート』!」

「効かないよ。ボクには『ラジエーター』があるからね」

「放熱などしていないはずだ」

 ラジエーターとは、液体や気体の放熱をする装置のこと。

「よく分かってるね! ボク、ビックリしたよ!」

「お前……まさか……」

「勘のいい坊ちゃんじゃん。そう。ボクの体は魔法を消化することができる」

「魔法を……消化……? 聞いたことない……そんなの……」

「やだなあ、ノラギアちゃん。ボクしか持っていない特殊能力だから」

 続けて

「ボクは、ボクである限り無敵だ。よって、ボクが秩序であり、教祖が世界一合う人間だ」

 と言った。ソラが流石にキレた。

「ふざけるな! 全国民にそれを言ってみろ! 殺されるぞ!」

「話聞いてた? ボクは死なないんだって」

「なら、僕が殺してやる」

「やってみなさい」

 そろそろ耐えられないソラはある化学物質を考えた。それが『シアン化ナトリウム』だ。工業的に最も主要なシアン化アルカリ。シアン水素と同様に猛毒で、粉じんを吸入し、皮膚・粘膜につくと、中毒または死亡する(飲み下した場合の致死量150~200mg)。 酸または炭酸ガスと接触して発生する青酸ガスを吸入すると、脳中枢の麻痺により呼吸停止、けいれんを伴い直ちに死亡する。

「合成」

「何をしても無駄だって」

「本当にそう言い切れるのか? いつの時代も化学は必要とされてきた」

「ちょっと待て⁉ 何をする気だ⁉」

「『サディウム・シアノイド』」

 突如、後ろにいた信者はそのまま変死。教祖は呼吸が停止し、息絶えた。

「これで全部?」

「うん、たぶん」

「解決したってことでいいんだよな?」

「たぶんいいよ」

「何でそんな素っ気ないん?」

「あんた、自分がやったこと分かってる?」

「化学物質で人を殺めた」

「それは良くないけど、別に良いとして、何今の魔法」

「空気中の二酸化炭素、湿気または酸、水、アルカリ性炭酸塩と接触すると、有毒なシアン化水素ガスが発生するっていうシアン化ナトリウムの特性を利用した虐殺魔法」

「ヤバいでしょ。一瞬で死んだじゃん」

「まあ、そうだな……」

「まあ、万事解決ってことで」

「そういうことやな!」

 これが後に、大きな落とし穴となることを彼らはまだ知る由もなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る