第6話~城壁と貴金属は高い~

 姫君の城は豪華だった。部屋にシャワーがついていた。

「こんなとこにシャワーついてんの? 不思議だ。制作会社は?」

「控えめに言って、気持ち悪い」

「本当に気持ち悪いって思ってるやつに、キスなんかできねえよ」

「あれは魔力を測るための仕事よ」

「どんな仕事だ! んなこと聞いたことねえよ!」

「感情的にならないでもらえる? 気持ち悪いから」

「急に毒舌になったな、姫君」

「あんたが気持ち悪いからよ」

 そんな痴話喧嘩をしていると、ノックが鳴った。

「何かしら?」

「お姫様、新しく作られたご飯ができました」

 立ち上がると笑顔で

「飯、食いに行くわよ!」

 清々しいほどムカつく顔であったが、ソラは抑えた。


 

 そこに並んでいたのは……なんだこれ? フランスパンに、ビーフシチューに、焦げたエビフライ?

「最悪じゃん、料理」

 気づけば自分でも失礼極まりないことを言っていた。

「あんたの礼儀の方が最悪だと思うけど?」

 ごもっともだ。

「すまんな理系だから!」

「……理系とか関係ないわ。人としてどうかと思う。作ってくれた人がいる前でそれはありえない」

「……普通にごめんなさい」

「分かればいいのよ」

 みんなが座る。

「てか、姫君でこの食事なら国民どうなってんだ?」

「……国民に食わせる飯はないのよ」

「え?」

「特別に教えてあげるわ。あんただけにね」

「お、おう……」

 それから真剣な顔でこう語った。

「国民はお馬さん。ただでさえ人口が多いのにお馬さんに払う金や出す飯などない。ただひたすらと死期を待ち、そうね、馬車馬のように働いてもらって国民から何もかも奪う。これがこの国の現状よ」

「……ドが付くほどクズじゃねえか……」

「クズだと罵ってもらっても構わないわ。政策は残念だけど変えない」

「国民のこと、考えてなさすぎだろ! 自分だけ良ければいいのか! 卑怯だぞ!」

 だが、声の調子を変えないまま、姫君は

「ご飯が冷めるわよ」

 と言い放った。


 ご飯が終わった後、流石に話さないといけないと思い、姫室に来ていた。姫君はお風呂上りらしく、さっきまでしていたツインテールはほどいている。

「姫君、流石に方針を……」

「しつこい」

「そこをなんとか……!」

「やだ」

「ノラギア! 頼む!」

「……あんた今……」

「え?」

「……殺すから」

 と言われたと同時に、息ができなくなった。苦しい。

「きゃはははっ! 似合ってるよ、ソラくぅん!」

 お、おい……とんでもねえバケモンじゃねえかよ……。

「……くは……ぁ……!」

「立場を弁えろ、ゴミ」

「全くキャラ変わってんぞ……ノラギア……!」

 次は、火と氷が混ざったボールをこちらに向けた。

「こんなん使いたくなかったけど……フォレスト」

「……できるかな……物質消化!」

「……あんた」

 今度は女神のような笑顔で

「やるじゃないの」

 と笑ってみせた。

「だろだろ! 僕使えると思ってなくて……さ…………」

 腹から大量の血が流れていた。

「まだまだね、ソラ」

「……あぁ……噓……だろ……?」

「ヒーリングタッチ」

 痛みが消えた? 何で?

「……まったく。これだから弱い人間は……」

「ありがとな、ノラギア。いつか必ず礼をするよ。死にたくなかったし」

「明日からラプラスを潰しに行くわよ」

「え? もう?」

「もう」

「急ぐ理由って?」

「国家転覆を目論んでいる」

「ラプラスが?」

「そう。あいつらは気に入らないものを徹底的に潰しにかかる。うちが狙われるのよ」

「騎士は! 騎士とか誰かいないんですか!」

「夜だから静かにして。執事とか起きたらどうすんの」

「ごめん」

「ん。詳しくは明日言うけど、教祖が私を狙ってるらしいわ」

「……え?」

「教祖から会ってほしいって言われてるんだから、おもてなしくらいしておかないとね」

「嫌だ! ダメだ! ノラギアじゃないとこの国は動かないはずだ!」

「さっきまで政策さんざん否定しといて何を言うのよ」

「さっきはさっきで別だ!」

「あんた……女の子好きなのね」

「うんそうだ!……って……え?」

「私を庇うし、エンジと行動共にしたがるし」

「わ、訳がある!」

「何の訳よ。とにかく明日よ」

「分かった! 命を張ってでも守るから安心しろ、ノラギア!」

 走って出ていった。

「…………………バカ」

 一国の姫は、顔を赤らめていた。

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