第5話~ラプラスの悪魔~

「あなたは神を信じますか?」

 世界規模で活動している史上最悪の宗教団体・ラプラス。信仰の的は、悪魔と絶対神ヤハラーヴィヌシュ。教えは単純で、悪魔を善として信仰し、悪魔の呼び出しを最終目標とする。サタンやベルゼブブなどの悪魔復活、絶対神ヤハラーヴィヌシュの復活宣言など。教義に異を唱える者を容赦なく惨殺するところから『脱法宗教』という蔑称もつけられた。黒装束を宗教内では義務付けている。同じ宗派である『マクスウェル』を取り込んだ唯一の宗教でもある。洗脳方法は、人間と話していると、黒装束の上側が作動し、脳に直接微量の電気を流し、洗脳する。

 例えば、彼らが起こした事件『アナナマス事件』。この事件は、洗脳しても信者にならなかった人間の頭蓋骨を割り、残った骨をアナナマス海に散骨したというものだ。ラプラスは海への散骨を全面的に禁止している。

 そして、彼らは考えた。ターゲットはあの男すなわちソラであると。絶対に成功を収めさせねばならない。









「ラプラス倒すつっても結構時間かかるくないすか?」

「そうだな。私としても早く倒したいつもりだ」

 二人はソラが軍人サインをしたギルドで討論していた。机の上には、いろいろ豪華なご飯が置いてある。

「ラプラスってどれくらい危険なんすか?」

「ラプラスは今さっき終わらせた髭より危険だ」

「危険さが分からん」

「要するにとてつもなく危険だってこと」

「ほれは分かってるふもひでふ」

「食べながら言うでない。行儀が悪い。ソラは友人だから注意してやるが、普通の人だと離れていくぞ」

「分かってますよ……てか、今友人って言いました⁉」

「戦友でもいいが?」

「ありがとうございます! 初めて友達ができた! 女友達が!」

「友に飢えていたのか」

「当たり前じゃないですか。僕はぼっちですよ? ……ぼっちって通じる?」

「ぼっちなどでもいいじゃないか。ぼっちの何がいけないんだ? 群れていることなど仕事以外ではあまりない」

「んで、本題なんすけど」

「ん? おう」

「良い倒し方ってあったりする?」

「私に全て丸投げか。間違いない、丸投げだ」

「すみません、いろいろと」

「まったく……私はソラのためにいろいろしすぎだ……」

「んで、どうするんすか?」

「あいつらは意外と分からないことが多い。詳細は未だ不明だ」

「やっぱ教団内部に潜り込むしか……」

「そんなに簡単なことではない」

「……もう無理です諦めましょうエンジさん」

「簡単に諦めるのか? それほどまでの器だったのか? だったら見損なったぞ。私はソラのような逸材であれば、あらかじめ計画を練っているのかと思ったが……残念だ」

「分かったよ! やりましょう!」

「それでこそ立派なソラだ!」

 すると、全員が立ち止まり、頭を下げていく。

「みんな、どうしたん?」

「分からないが、偉い人でも来たのだろう。騎士長とかその辺りでは?」

「あーね」

 だが、違った。

「お前らか」

 この甲高い声を連想させるのは『萌え声』だろう。誰だろう。

「お前らがこの国の英雄か」

 見てみると、体がとんでもなく小さく、身長も低い。お尻には十の尻尾があり、髪の毛は虹色。頭の上にはケモ耳が生えていて、パジャマ姿である。誰がどう見てもケモノ幼児である。

「誰が見ても幼児なんだが、誰か分かる人いる?」

 横から長剣の鋭い刃が顔を出していた。エンジだ。

「次その言葉を発した時点で友人でも関係ない。叩き切るぞ?」

「……そんな偉い人……なんですか……?」

「この方は我が国の姫君だ」

「姫君⁉ こんなんだったんっすか⁉」

「こんなんって言うでない」

「さっきから……立場を弁えろ、白衣ウザ眼鏡」

「は、白衣……⁉」

「私、間違ってる?」

「間違ってはないが……」

「じゃあそれね! ぴったり! えへへへ!」

 無駄に可愛いのだ。そこが一番厄介な点である。ムカつくけど。

「ところで姫様」

「その呼ばれ方なんか、や」

「やなの?」

「や」

「ノラギア姫は?」

「長い」

「姫君」

「うん、一番しっくりくる」

「最初から言えや!」

 わがままだ。

「ところで姫君」

「何」

「幽霊って信じますか?」

「信じ……てるわけないじゃん! てか、聞くことそれ⁉ 時間返して!」

「ラプラスを倒す方法を教えてください」

 少し声色を下げてみた。

「ラプラス?」

「うん、そう」

「ラプラスなんてよく知ってるのね」

「エンジさんから教えてもらったので!」

「ふーん」

 と言うと、ソラの耳に近づき

「ラプラスを倒すなら国の総力戦になること、気づいてる?」

 と囁いた。

「そ、そうなんですか⁉」

「そう。まず、あんたの魔力測らせてくれない?」

「どうやって?」

 すると、いきなり姫君が乗ってきた。そして、唇に感触が伝わってきた。そう、キスをしたのだ。

「え、え、ちょ…………」

「動くな。魔力反応が薄い。もっかい」

 と言うと、今度は長めにキスをした。

「あんた、魔力反応薄くない?」

「知りません……」

「ちょっと待って」

 今度は、ソラの指を使って頬にぐりぐりし続けた。

「やっぱ魔力反応薄い」

「ここってそういうお店じゃありませんよね⁉」

「あんた、まさか『魔力隠蔽』持ってるんじゃないでしょうね?」

「初めて聞いた能力だわ!」

「おかしい。ねえエンジ」

「は、はい!」

「こいつ誘拐しても良い?」

「え、あ、ど、どうぞ……」

「分かった」

「僕の意見は?」

「あんたは黙ってついてくるしかないのよ」

「人権機能してねえよぉ……」

「ついてきたら、ラプラスのこと教えてあげてもいいわよ」

「「え⁉」」

「エンジ、ぶっちゃけあんたに要はないわ。私にはこの男が必要みたい」

「僕が必要だって……」

「あんたが必要。残念ながらそうね」

 流れるように

「あんたをノラギア城に招待するわ」

 ラプラス討伐は一人の姫君によってだいぶ遠回りになりそうだ。

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