第4話~北西戦争~

「神などいない」

 神などというスピリチュアルな物は信じないのがソラの理系心である。

「神は絶対にいます。我々のために絶対的に尽くしてくれるのです」

「エビデンスは? エビデンスを出せ」

「エビデンスなどございません。ささ、こちらへ」

「行かねえよ。俺が行くのは、エンジさんのところだけだ」

「まあなんと……! 愛を愛し、愛に愛されにいくのですね! おお、なんと! なんと素晴らしいことなのでしょう!」

「某アニメに出てくる宗教みたいなことを言うな」

「あなたは私たちの追いかける神・ヤハラーヴィヌシュ様に酷似しております!」

「お前らは一体何教なんだ?」

 彼女は思いがけないことを言う。

「『ラプラス』です。悪魔を信仰しており、悪魔を呼び出し、自分自身の体で文字通り体感することが我々の最終目標です」

「……噓……だろ……」

 ラプラス。聞いたことがある。なんならエンジさんから次と言われた危険指定宗教団体。

「おかげで、あなたという人材に興味を持つことができました。あなた、幸運の雨が降り注いでますね」

 怖くなった。テレビなどでカルト教団を見ても、何も思わないし、追い返すことも達成できていた。なのに、こいつの前では何も抵抗ができない。

 全速力で逃げた。この場から立ち去らなければ僕は死ぬと悟ったからだ。僕の本能がそう訴えかけている。

「……殺される……」

 少し都心部から離れたところに来た。近くで発砲音がするのでもうすぐすれば戦場に着くだろう。

 歩いているとスラム街ということが分かった。ゴミの臭いもする。沼ではスライムたちが遊んでいる。

「結界?」

 この先には結界が張られていることが容易に想像ができた。

「結界ってくぐれないよな? 僕詰んだくね?」

「結界をくぐりたいのかい?」

 いきなり現れて話しかけてきたのは、このスラム街の長だろう。杖をついていて、歯が無かった。

「はい。できれば」

「この先では戦争が起きている。だから、ワシが結界を張った」

「結界なんて張れるんですか? すごいっすね」

「なに、これくらいのこと六十になる前に覚えておる」

 結界が開けた。強力な魔力があるのかは分からないが風がとんでもないほど吹いている。

「戦争が起きているから、少し開けた。行け」

「ありがとな、村長」

 ソラは結界をくぐった。

「久しぶりにその名で呼ばれたぞい小僧。達者でな」




 結界をくぐった後、プライドも捨て、走り抜けた。

「……はぁはぁ……ついに来たぞ!」

 あっちの声の方が大きかった。

「お前ら北の愚民どもはくたばっておけ! 『ライザン』!」

 詠唱と同時に放たれたのは雷だった。電撃のショックで死んでいく軍人や騎士たちの姿が見えた。

「エンジさんは! エンジさんはどこだ!」

 エンジ目当てで来ているソラは必死に探す。守るという使命だからだ。

「見つけた! エンジさん!」

 驚くように目を見開き

「馬鹿野郎! 何で来た!」

「僕はもう軍人です」

「あの制度を使ったのか?」

「そうだ!」

「ソラが来て何になるっていうんだ!」

「いつだって根拠のない自信は大事でしょ! そういうこった!」

「やめろ! 自分の命を犠牲にするな! こっちの方が戦力で負けている!」

「まあ見てろって」

 足元に魔法陣が現れ

「おい髭のおっさん、てめえだよ」

「あ? ウエストランドの最強軍人サイファー・ランキン様だぞ!」

 くらえ

「トリニトロトルエン」

 辺りが燃え尽きた。民衆は逃げ惑い、自国の軍人は口が開いていた。腰を抜かす人もいた。サイファーはというと

「んーダメだねぇ。でもなかなか興味深い魔法だ」

「「「効いてない⁉」」」

「私みたいに強い人間は『物質変化』が使える。よって、私は無敵だ! フハハハハハ!」

「他に魔法は使えないのか!」

「分かりません」

「何でもいいから使ってみろ!」

「分かりました。『オクタクロルテトラヒドロメタノフタラン』!」

「効かない魔法を使っても無……」

 「無駄だ」と言い切る前に体が空中から落ちた。

「本当に……何の魔法だ?」

「たぶんこの世界では僕しか使えないっす。たぶん毒魔法っす」

「やるな!」

 『オクタクロルテトラヒドロメタノフタラン』とは、別名「テロドリン」と呼ばれていて、日本においては、毒物及び劇物取締法第二条によって毒物とされている。

「この変なおっさんが死亡してるか鑑定よろっす」

「誰がどう見ても死んでるので意味はない」

「え?」

「彼は死んだ。本当に強い毒に侵されてな」

「そうですか。じゃあこの戦争はどうなるんですか?」

「ソラが終わらせたとして掲示板に貼られるし、長らく英雄だと扱われるだろう」

「名声が欲しいわけじゃないんですけどね……」

「まあいい。姫君にひとまず条約を締結させるよう申し立てるか」

「条約? 姫君?」

「条約は戦争が終結した後で結ぶだろう? 姫君はうちの国のトップだよ」

「姫君……どんな人なんですか?」

「一度もお会いしたことはないが噂で聞く限り、上品なお方だそうだ」

「名前は?」

「ノラギア・フェン・ラーニング」

「ノラギアって名前に入ってるんだ」

「私がソラと会った場所を覚えているか? あそこは『ノラギアロード』と呼ばれている」

「姫君って偉いんですね。トップだからそうだろうけど。法律を作ってるのも姫君?」

「そうだ。騎士法は厳しすぎるので改変してほしいところだがな」

 少し疑問に思った。

「騎士だけに法律が?」

「いやいやそんなことはあるまい。きちんと、商工業者法、商業法、工業法、治安維持法、労働法などいろいろある。その中でも騎士法が異常なだけだ」

「僕ら軍人は法律は?」

「軍人法っていうのがあったはずだがあまり適用されていない。軍人は正直、騎士がいるからいらないからな。騎士法が厳しくなる理由がこれだ。姫君は基本軍人ではなく、騎士に国防を任せている」

「そうなんですね。だから自由制なんですか?」

「そういうことだ」

「あ、そういえば」

「何だ?」

「ラプラスに会いましたよ、ウエストランドで」

「なっ⁉ なぜそれを早く言わない!」

「すみません」

「次は、そうだな。撲滅を図ろう」

「了解です」

 小指と小指を交えながら。

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