第3話~ウエストランド~
「第一騎士団前へ!」
息が合った行進と共にエンジはノラギアを出国した。それを間近で見ていたソラはなんとか行けないか、と国民に聞いて回っていた。
「この国には、『自由徴兵制』という制度がある。その名の通り、徴兵したいと言ったら徴兵できる制度だ。だが誰も使わない」
そう言っているのは、髭を生やしたおっさん。だが、ただのおっさんではないようだった。聞けば、彼は、『第一空団』という軍隊の幹部だったと言う。名前はボラヴィア・クルートナハ。
「何で使わねえんだよ、おっさん!」
「ここに毒リンゴがありますって言って、誰が食べる」
「そりゃ食べないけども」
「そうだろう? 徴兵した人間を俺はこの目で見てきたが、帰らぬ人となった」
「死んだ……ってことか?」
「そういうことだ。だからお前もやめるんだな」
「やめるのは無理だ。これは使命だ」
「誰からの」
「僕からの……です!」
「なぜそこまで。くだらん」
「騎士団にエンジさんという人物がいる。彼女を守りたいんだよ」
「エンジ……エンジ・ブリターニャのことか」
「知っているのか?」
「知っているも何もあの人はこの国じゃぁ英雄さ」
「その英雄を手助けしたいんです」
「……魔法は?」
「トリニトロトルエンだ」
「んだそりゃ。また随分聞かねえ名前だな。打ってみろ」
「トリニトロトルエン」
数百メートル先の歩いている牛を一瞬で焼肉にしてしまった。
「何だその魔法⁉ 最強じゃねえか!」
「僕も出せると思ってなかったのだが、出せてしまったみたいだ」
「その魔法一つあれば世界征服できるかもしれねえぞ!」
「戦争は?」
「終わるに決まってんだろ! 秒だ!」
「そうなのか?」
「そうに決まってる」
「分かった。ありがとう、おっさん」
城の方へ向き、走ったが、ボラヴィアから呼ばれた。
「どうした?」
「これを持っていけ」
そう言って渡されたのは、虎の模様が彫られた短刀だった。
「幸運を祈る」
「ありがとな! おっさん!」
再び前を向き、走った。
「こういうのって役所かギルドか知らんがあるんじゃなかったっけな」
探していると、ギルドらしきものがあった。中に入ると大盛況であった。受付嬢は一番綺麗そうだからここでいいか。
「徴兵したいんですけど、どうしたらいいでしょうか?」
「ちょ、徴兵⁉ 本気で言ってるんですか⁉」
「この国は、自由徴兵制があるんだろ?」
「あ、ありますけど……少々お待ちください!」
しばし待つと、先ほどのギルドの受付嬢が応答してくれた。
「大変申し上げにくいんですが……本気でしょうか?」
「本気です」
「本気の本気ですか……?」
「本気の本気です」
「で、では、サインをお願いします……」
「魔法Lv?」
「はい。魔法Lvというのはですね……」
「ああ遅い遅い。時間の無駄。なんとなく想像できるから言わなくていい。時間が惜しいから」
「は、はぁ。というかですね、質問してもよろしいでしょうか?」
「いいけど?」
「なぜに徴兵しようと?」
「大切な人を守るためです」
「恋人がいるんですね羨ましいです! 私なんか、生まれてこの方できたことありませんし、それを話すともっとできなくなるんですよね!」
「恋人? いないが?」
「大切な人がいるんじゃないんですか?」
「大切な人ってそういう意味じゃなくて、守りたい人がいるってこと。その守りたい人は国を守るために戦争に行きました」
「それって、まさか、騎士団⁉」
「? そうだが」
「騎士団と面識がある方だったんですか! お金は無償とさせていただきます!」
「いやいや、いいですよ」
契約書を書き終わったソラは少し疲れた。
「これで今日からあなたは、正式に軍人です!」
「戦争に加入してもいいんだよな?」
「はい、そうですね」
「じゃあ、行ってくる」
「幸運を祈ります」
ギルドから出ると、ソラは鬼のような形相をしていた。そして、走り出した。
「待ってろよ、エンジさん」
たしかウエストランドという国であったはずだ。走っているバスを止めさせた。
「すみません、ウエストランドまで」
と言うと
「ウ、ウエストランド⁉」
と驚かれた。
「なぜだ」
「今の治安状況見てないんですか⁉ 領土問題でうちの国と揉めてるんですよ⁉」
「三万ゴールドがここにある。好きに使え」
「三万ゴールド……これでギャンブルし放題……じゃなくて! 頭おかしいんですか⁉」
「今ゲスな思考だったお前の頭を心配するよ。とりあえず連れて行け」
「分かりました! 分かりましたけど! 死んでも自己責任ですよ!」
「僕は軍人だ」
「軍人? ならいいか。それ先に言ってくださいよ!」
「悪かったな」
揺れられること三十分ほど。
「着きますよ、ウエストランドに」
「もう着くのか。早いな」
「隣国ですからね」
ついにバスは停止した。運転手の男は手を合わせ
「幸運を……祈ります」
降りたのは、ウエストランドの都心部だろう。
「君、見ない顔だね。どこから来たんだい?」
「ノラギアってとこ」
「ノ、ノラギア⁉」
「え、ノラギア?」
「ノラギア人はこの国から出ていけ!」
酷い罵倒だった。流石に言い返した。
「僕は元々ノラギア人ではない!」
「何人なんだ!」
「日本人だ!」
「日本ってどこだ?」
「地図で見ても分かる! 最東端に位置する島国だ!」
「最東端の国は、オーヘンランドだぞ?」
「な、何⁉」
「何を言っているんだ?」
「そ、そんな……バカな……」
誤算だった。何もかもがぐちゃぐちゃだ。異世界には日本みたいな国があるのではないのか? それは勘違いだったみたいだ。
一人虚しく歩く。未だに信じ切れていないという様だ。そうしていると人とぶつかった。咄嗟に
「すみません、今疲れてて……って……」
その人間は人間ではなかった。人間ではあるのだが、人間味が感じられない。ぶつぶつと呪文を唱えているかのような感じであった。服装は黒い服であり、全てが真っ黒。地面につくほど長いワンピースのようだった。首には、金色の鳥のような模様が描かれているネックレスをかけている。目は隠れていて、鼻と口しか見えない。そして、彼女は言った。
「あなたは神を信じますか?」
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