第2章 独占欲の狐娘

第4話 独占欲の狐娘(1)

 川と山に挟まれた田舎いなか風景。

 少し急な坂と、緩い平地並みの坂。

 その谷間が阿仁合あにあいの町だ。


 お洒落しゃれな形状の街灯は、商店街の道に沿って並ぶ。

 その道を曲がると、4と4が合わさった駅、しあわせの阿仁合あにあい駅が姿を現す。


 車を駐車場へ返す。俺たちは歩いて駅へ戻った。

 その間も、他人と会わなかった。

 うーん、異空間。


「ただいま~」

「おかえり~」

「家じゃないよ、でも言いたいんだよ」

裕希ゆうきの言い分はよく分かる」


 不思議な状況だけど。

 阿仁合あにあい駅の中は、今の俺たちが安心できる唯一の場所だ。

 元の世界ともつながっているからだ。


 俺は奥に歩いて行き、レストランのドアを見た。

 先ほど閉じていたはずなのに、今度は開いている。

 腹が減っていたので、その先に俺は進んだ。


「ごめんください。2名でお願いします」

「ちょっと、京くん、他人がいないのに入っていいの?」

炊事すいじの匂いだ。奥に行ってみる!」

「そんな匂いしないけど……頭どうかしたの?」


 裕希ゆうき辛辣しんらつな言葉を投げてくる。


 異常に腹が減り過ぎ。

 他人のいない間に食べ物を盗んでいいのか、という判断を俺は出来なかった。

 炊飯器すいはんきに入っている炊き立てのご飯を拝借して、おにぎりを握り始める。


 裕希ゆうきが呆れた目をして、腕組みをして立っている。


「京くんは他人の家の台所って遠慮しないで入るタイプなの?」

「そうだよな。じゃあ、必要以上、おにぎりは作らないことにする!」

「結局、作るのかーい!」

「うん、上出来!」


 テーブル席まで来ると、おにぎりが乗った皿を下ろした。

 遠慮なく食べようとした。


 ん?

 視線を感じて、俺は首を横に動かした。

 俺の怪訝けげんな顔で、裕希ゆうきも気づいたらしい。


 そいつは、人間の少女のような体型、頭の上に金色毛の狐耳きつねみみが乗っている。

 そして、巫女服みこふくの後ろから金色の狐尻尾きつねしっぽが9本のぞいて見えた。

 狐娘きつねっこ? 


 明らかに、狐娘きつねっこは偉そうに話した。


「わらわは腹が減ったぞ! ん、美味そうなにぎめし。その供物くもつを全て、わらわにささげよ!」

「は?」

きょうくん、従おう」


 俺は狐娘きつねっこにらんだ。

 ただ、手につかんだにぎめしは、口に入れる寸前の宙で止まった。

 裕希ゆうきが冷静な口調で、熱くなる俺を止めたからだ。


 不思議な話、俺の理性が戻った。

 きつねに化かされて、妙な行動を取ったんだろう。

 俺は狐娘きつねっこの前に、手に持ったにぎめしを差し出した。


「今後、俺らに悪さをするなよ」

「おう、お主の望み通りに世界を書き換えてやる。がぶりっと」

「にゃわッ、この女狐めぎつねッ! 俺の手をかじるなってぇッ!」

「ほほッ、久々に他人ひとの味がするわい」


 かじられた手がひりひりする。完全、目が覚めた。

 というか、あんなに腹が減っていたのに、今は満腹になっているのだ。

 すると、狐娘きつねっこほほをもぐもぐさせながら、ふところから青緑色の石を取り出した。


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