第2話 魔女の森入り(2)

 この山道、左右にくねくねと曲がった道が10km以上続いた。


 俺の車運転センスが良いのだろう。

 あっと言う間に、阿仁あにスキー場の駐車場へ着いた。


 一方、助手席で裕希ゆうきは放心している。


「おぇ、酔ったお」

「なんだ。俺の運転中、酒飲んでいたの?」

「違うわーッ。きょうくん、もうちょっと落ち着いた運転しなさいよ! 特にカーブの時のスピード注意!」

「はいはい」


 それでも、車は事故を起こさなかった。

 俺はハンドルを握っていただけで、ほぼ勝手に車が運転した。


 ぼんやりと夢心地で、俺らは車外へ降りた。

 阿仁あにスキー場の施設は、鍵がかかっていた。はて、今日は臨時休業日だっけ。

 すると、向こうの階段から裕希ゆうきが慌てて降りてきた。


きょうくん、大変だ、大変だよ!」

裕希ゆうき、何を慌てているんだよ。その大変って、2回言う必要あるの?」

「ゴンドラが勝手に動いているんだよおおおおッ!」

「む、む、無人で?」

「そう、そうだよ」

「んな、馬鹿なこと……え、マジかよ!」


 俺は階段を駆け上がった。

 前に冬スキーに来たときは、係員が立っていた。

 今日は誰もおらず……無人でゴンドラが動いているってば!


 背筋に悪寒がする。

 阿仁あにの人たちは、どこに行ったんだろうか。


 裕希ゆうきがてぃッと声をあげて、動いているゴンドラのドアを開けた。

 そして、ゴンドラに親指を向けて言った。


きょうくん、乗れるよ?」

「この状況で行くってか!」

「うん、行ってきて!」

「何で、俺一人!」

「冗談。私も一緒に行くよ。きょうくんのためなら、私は何だってするから。本当に何だってする」

「うわ、イケてる。その台詞、俺にちょうだい」


 俺は余計な一言を添えてしまった。

 顔を真っ赤にした裕希ゆうきは無言で、頭を引っぱたく。

 俺をゴンドラに突き入れて、自身もすぐに入った。


 彼女は対面に座ると、緑色の見慣れないリュックサックを席に下した。

 不思議に思った俺は尋ねた。


「そんなリュックサック持ってきたっけ?」

「車の中にあったの。便利そうだから持ってきた!」

「他人の車から物を盗むなよな~」

「その他人の車を走らせたのは、だーれだ?」

「怒った顔で、虫よけスプレーを俺に向けないでくれ」


 とどのつまり。

 他人の車を勝手に走らせたのも、リュックサックを盗んだのも、この緊急時は仕方ないのだ。

 渋々、俺は折れた。

 だが、リュックサックの中に入っていた、虫よけスプレーの顔面噴射はお断りした。


 森吉山もりよしざんの深緑を見る余裕が出来た頃、ちょうどゴンドラが山頂駅に着いた。

 裕希ゆうきは、じーっと2つの道を見比べる。

 そして、左の道を指さした。


「こっち!」

「どう違うんだ」

「うーんと、登山じゃないし、この世界の状態を確認したいなら、展望台の方かなーって」

「確かに、陸続きならいいな」


 俺たちは展望台に登った。

 結果、陸続きで山と街が向こうにもあった。

 ようやく、俺はほっとした。



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