露天神社
「こんな神社やった…?」
「派手になってはりますねぇ」
境内を見渡して、未侑と奈々枝は口を大きく開けて立ち止まった。
「久しぶりに来たん?」
「20年ぶり…?」
「お前何歳やねん」
「近すぎて遠いって言わはりますからね」
背中を小突く。やっと2人は前進した。
大阪梅田にある露天神社には、商店街から入った。そこには緑で彩られたアーチがあり、所々で風鈴が揺れていた。裏手から入ったとは思えない歓迎のされ方だ。
その驚きが小さいものだったと、広間に入って知ることになる。
「一面カップル使用やん」
「いやー! なんか晴れやかやね!」
「読書できそうなスペースがありますねぇ」
「ちょっとワクワクしますね」
本殿と摂社の間には人工芝が敷き詰められた広間があり、ベンチやテーブル、自販機まで設置されていた。神社というより、公園のような風景だ。
広間を抜けて、本殿の前で、また立ち尽くす。
両脇に置かれたモニュメントはまるで、どこぞの美術館から運ばれてきたもののようで。至る所で広がる朱い番傘や吊るされたカラフルな紙風船は、祭りの賑やかさを髣髴とさせた。そしてそのすべてが、恋人を歓迎するための飾りに見えた。――お初天神は、恋人の聖地である。
「誰か、今、好きな人おるんやっけ?」
奈々枝の言葉に、3人は口を閉ざす。
淡い恋心のあの字すら、まだ彼女たちには早い。
「良縁が必要なんは、恋愛だけやありまへんからね」
にこやかな笑顔で、小幸は言った。
それが、3人の足を進ませる。
「良縁は来年のクラス替えに!」
「奈々枝ちゃんは?」
「うちは次の対戦相手やなー! 強豪は勘弁」
「それは良縁ですやろか…?」
「まぁ、まぁ。良いやん、良いやん。未沙は~?」
「席、替え…?」
「また隣になりたいねー!」
タイミングが良かったのか、参拝している人は居なかった。
4人横並びで手を合わせる。なのに、参拝を終えるのはみんなバラバラだった。
1番先に参拝を終えた奈々枝は、おもむろに社務所に向かう。
誰もいない社務所をぐるりと見渡したあと、横のシャッター扉の絵を眺めて待つことにした。
「正面ってビルと繋がってるんやね」
「やっぱり商店街から入る人の方が多いんちゃいます?」
「分かりやすいし、駅も近いもんね」
3人一緒に参拝を終えたらしく、3人揃って奈々枝の元に行くのかと思ったら、未侑と未沙は社務所に直行した。
「風鈴の音が涼しいやん。もう秋やけど」
「なんや良縁が結ばれそうな音がしてはりますね」
小幸のロマンティックな言葉に、奈々枝は笑った。馬鹿にしたわけではなく、自分にない発想が面白かった。それを分かっているから、小幸も微笑み返す。
社務所をひとしきり見て回ったのか、残りの2人も合流する。
「どうしたん?」
「いや、何でもないで」
「その割にずっと見てるやん」
奈々枝が大人しくしていることを不思議がって、未侑は視線の先を追った。
シャッター扉には着物を着たカップル・お初天神の公式キャラクターと大阪の地図が描かれていた。
「これ何?」
「古地図。なかなか見やんよね」
「この辺、海に囲われとったんですねぇ」
感慨深げにみる奈々枝と小幸をよそに、未侑はすぐにそっぽを向いて摂社に向かった。そんな未侑を視線で追った後、3人もその小柄な背中に続いた。
未侑が足を止めたのは、境内には珍しい、顔はめパネルの前だった。その右下に、大々的に書かれている言葉が、すごく目につく。
「恋人の聖地かぁ」
「私たちの願いはいかに…?」
「けど、カップルで来たら別れるいう話もありますやろ?」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして、未侑と未沙の顔が向けられる。奈々枝は心底楽しそうに噴き出した。
「良縁ってなぁ」
「良縁は恋愛ばかりの話やないって…」
「良縁言うんは、相手がおらへんから良き縁くださいってことですやろ。別れるいう話は、曽根崎心中の話から来てるいう話ですし」
「ハートのモニュメント…」
さっき願ったことを脳裏に描いて、それぞれが思い耽る。そしてすぐに、考えるのを辞めた。
「撮る?」
未侑がパネルを指さして顔色を伺う。
「人おるから次にしようや」
次なんて来ないと思いながら返された奈々枝の言葉に、3人は「そうやねー」なんて軽く返事した。
御朱印ガールズ 巴瀬 比紗乃 @hasehisa
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