白龍大神
放課後の理科室に、未侑の声が響く。
「見て、私の推し!」
押し出されたスマホの画面には、黄色い可愛いキャラクターがいっぱいに映し出されていた。
頬をこれでもかとゆるませる未侑とは逆に、未沙は首を傾げた。
「なんだっけ?」
「映画のキャラクターですよね」
「まだ好きなん?」
「なんだ、その反応!可愛いでしょ!」
奈々枝に向けられた怒り顔は、瞬時に笑顔に変わって目をキラキラと輝かせる。
「でね、今度コラボするの」
「へー。カフェ的な?」
「違いますね。コールドドリンクです」
「おま、今週末10℃下回るんやで?!」
ビックリする奈々枝に、未侑は不貞腐れた顔をした。
「行きたい」
そこに可愛さはなかったけれど。
3人は顔を見合わせて苦笑しながら、各々のスケジュールを思い浮かべる。
「ええよ。今週何もないし」
「カイロ持っていくかー」
「なら、ついでにここ行ってもいいですか?」
そう言って差し出されたスマホに映し出されたのは、可愛いキャラではなく、口コミページだった。
「白龍大神?」
「はい。伏見稲荷で白龍神社に参拝しそびれましたんで」
「中崎町か。歩いて行けるやん」
「ちょうどええやん! 歩きながら飲もうや!」
今週末の楽しみに顔をニヤつかせて、学校生活の憂鬱を吹っ飛ばす。
しかし、状況はそんなに甘くなかった。
天満駅から中崎町に向かう途中の、信号待ち。
「迷ったな」
「待ってください。現在地だしますね」
寒さと冷たさと甘さを味わって、ふと立ち止まったのは、高架そばの交差点だった。
日曜日だというのに、通りに人はない。車の通りは多いが、混んでいる印象はなかった。歩道の真ん中で立ち止まった4人を、邪険に思う視線もなかった。
数分してやっと、4人は信号を渡った。
「学んだね、私たち」
中崎町に入ったことを、町の風景に感じて、未侑は感動に浸る。それを背中で感じながら、小幸はスマホ片手に苦笑した。
少し歩き進めると、未沙がひときわ目立つ団体を発見した。
「なんか撮影してる」
大仰なカメラとマイクを横目に、4人は端にそれながら、撮影隊から遠ざかった。そのせいか、アプリが現在地を見失った。その空白に4人は立ち止まる。
「衛星に掲げる…?」
「それ、なんか意味あるんか?」
「ここらへん、電波悪いのかな?」
「早歩きのせいや思います。すぐに見つけてくれますよ」
小幸の言う通り、すぐに現在地は修正され、4人はなんとか目的地に到着することができた。
「発見」
「本当に小さいねー」
家と家に挟まれた隙間。その小道の先に、祠は見えた。
一見すると、入っていいか迷うくらいの薄暗さ。でも、白と赤ののぼりに、勇気をもらう。
「あれ? 案内板は無視?」
先に進む奈々枝と未沙の背中に問いかけても、2人が立ち止まることはなかった。
「私は読みますんで、先に行っとってください」
小幸に促されるようにして、未侑は2人に駆け寄った。
祠は遠めに見ても、近くでも見ても、印象は変わらず、質素だった。
「なんか本当にこじんまりしてんね」
「いや、祠2つあるよ」
「あっちちゃう?さすがに」
「白龍大神は朱い祠の方ですよ。手前の祠は延命地蔵尊のようですね」
迷う3人に、小幸は言って知らせる。
「この歳で延命いるか?」
「私はいるー。賽銭箱どこ?」
未侑は我先にと祠の前に進み、延命がいるかと問うた奈々枝と順に続いて並んだ。
1分前後で入れ替わり、そのまま白龍大神の参拝も終える。
紅い祠はさらに1回り小さかったが、朱い鳥居に微かに広々とした神社の風景を思い出す。後ろには枝木になった御神木があった。きっと緑生い茂る月日になれば、その生き生きとした緑葉に、町の風を忘れて自然を感じることが出来るはずだ。
「奥にお店あるっぽい」
「今日は閉まってはるんですかね?」
「今度、また来てみようや」
奥に続く行き止まりの道を覗きながら、また次の楽しみを見つけて気持ちが高鳴る。
「さて、イルミネーション行こか」
思わず弾んだ奈々枝の声に、ウキウキした足取りは続いた。
御朱印ガールズ 巴瀬 比紗乃 @hasehisa
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