第5話 伏見稲荷大社

 立ちはだかる壁に、4人して立ちすくむ。


「まいったな」

「こういう時ネットのマップって分かりづらいよね」

「道案内しますか」

「はーい」


 地図アプリでたどり着いたのは、3股になった道の突き当りだった。

 1つ目は昇り階段、2つ目はもう1つの昇り階段、3つ目は先の曲がった下り坂。そして、地図アプリはそのうちの1つを示しているものの、それがどれか分からない。というか、アプリ上では道は2つしかなかった。

 道案内を起動して、下り坂を降りる。

 そのまま案内に従っていると、商店がぽつぽつとある町中の1本道に出た。

 

「電池切れそう……」

「そろそろ良いんやない?」

「分かりますよ、きっと」

「いざってときは観光客見つけて後つけようや」


 観光客は見つからなかったが、4人は何とか人だかりを見つけた。伏見稲荷神社の圏内にたどりついたらしい。

 どうやら多くの人が下ってきているが、数人の人たちは昇っている。4人は合っているか分からないまま、坂を上ることにした。

 

「こっち出口やなのに、逆行してる。教えてあげる?」

「待ち合わせしてるんだって!」


 そして、男子高校生に囁かれた。聞こえる声の大きさで。

 

「出口かー」

「出口なんてあるんやね」

「まあ、表参道はありますからね」

「ああ言われると一気に恥ずかしくなるよねぇ」


 男子高校生が過ぎ去って、さらに歩いた。下る人波が過ぎて、商店の軒並み。その前の花壇に、座っている人を見かけて、4人は花壇の方に寄った。

 未侑のスマホが電池切れ手前だったので、今度は未沙がスマホで地図を確認した。

 どうやら、昇る坂を間違えたらしい。少し急ぎすぎたようだ。

 

「こっちは人おらんね」

「もう帰る時間ですかね」

「まだお昼にもなってないよ?」

「修学旅行生はもう参拝終わったんやない?」


 目の前を、4~5人の小学生がタクシードライバーのおじちゃんの案内を受けている。そういえば、そういう商売があったよね。なんて、4人は笑った。今の気持ちは小学生と同じ、楽しみが溢れてくる。

 

「どこいくんやっけ?」

「神宝神社と熊鷹神社ですね。千本鳥居の中なので、あっちですね」

「あ! 御朱印あっちやって!」

「その前に本堂に参拝せなあかんやろ」


 わちゃわちゃと喋りながら境内を奥に進む。千本鳥居と書かれた大きな看板を見つけて、歩調を速めた。

 階段と鳥居を少し過ぎて、ちょっとした平地に出た。そこには社務所と拝殿などがあり、小さな神社のようだった。伏見稲荷大社の、奥社だ。


「奥社は御朱印別?」

「下でもできるんちゃう?」

「とりあえず、参拝はしてきますよね?」

「もっちろん」


 参拝をすませて、少しばかり周りの人たちと同じように観光に勤しむ。拝殿の周りを右に巡る。


「おもかる石、ここにあるんやね」

「やってく?」

「あれ、待ってるんやない?」

「さすがに待ってる時間はないかもしれませんね」


 言ってる間にカップルが並び始めた。4人は残念だと笑いながら、さらに拝殿の裏へ進んだ。そこには小さな鳥居があった。伏見稲荷の扁額が掲げられたその鳥居の下には、伏見稲荷で供えられる小さな鳥居が下から上へ連なっていた。


「なんやろ、ここ」

「さあ? でも参拝するところなんちゃう?」

「とりあえず、参拝?」

「するー」


 未侑は軽い声色で返事をしたあとに、足をそろえる。未侑の妙なクセに続くように、3人もそれぞれのやり方で身を正した。

 手を合わせ、お辞儀した。

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