第4話


 境内ではテントが列を作り、その下では郷土品などのさまざまな物販店が催されていた。

 パワーストーンやお土産のお菓子など、4人それぞれに目を惹かれた。浮きたつ気持ちを「本堂が先やで」と声をかけあって心を律した。

 

「で? 結局、本堂どこ?」

「一周したよね…?」

「それらしいところは、ありまへんでしたね」

「調べまーす」


 境内図を探す足で、未侑はスマホの画面に注力した。そのせいで躓いてこけそうになったところを、奈々枝はすかさず腕を掴む。


「法堂ってとこが本堂かね? なんか、それっぽい」

「ほんまですね」

「お寺だと、なんだか雰囲気違うんやね」

「建物の中のこと多いよな」


 未侑の指示した場所には、法堂だというのに参拝している人が見当たらない。

 入り口には何やら看板があり、どうみても誰もが参拝できるような場所には見えなかった。

 

「あれは、参拝できんの?」

「どっか別のところでも、できる思いますけど」

「期間限定って書いてるよ?」

「せっかくやし、行ってみようや」


 法堂の入り口らしき場所では、靴を入れるビニールが設置されていて、4人は靴を入れて本堂に入った。

 

「今なら、涅槃図の解説もしてますよ」


 にこやかにおばちゃんが迎え入れてくれる。

 1人1000円を払って、中に入る。涅槃図の解説を聞きそびれないよう、駆け足で中に急ぐ。

 

「急がんでも、大丈夫ですよ。ゆっくり行ってください」


 おばちゃんに優しく注意されて、恥ずかしくなりながら歩調を緩めた。


「涅槃図は、お釈迦様がお亡くなりになる様子が描かれたものです」


 小柄なお姉さんは手を前で合わせて、涅槃図を眺めた。その視線につられて、4人も涅槃図を食い入るように見つめた。

 涅槃図はとても大きく、未侑たち4人が寝そべって転がっても、まだまだ余裕がありそうな大きさだった。

 

「お釈迦様のお母様だけが、諦めてなかったんですね。仏様に懇願して薬袋をいただきました。ですが、木の枝にひっかっかって、届きませんでした」


 動画で猫が追い回している光で、お姉さんは大きな涅槃図の1部を丸く囲んだ。

 大きな絵の小さな描写に、そんな思いが詰まっているのかと、4人は感嘆した。


「涅槃図の中で猫が描かれているんは、明兆が描いたこの涅槃図が初めてと言われているんですね」


 涅槃図から天井の龍まで、時折こちらの様子を伺いながら、お姉さんは丁寧に説明してくれた。

 本堂の脇にある水車まで行く。そこには無料配布されている冊子があった。

 4人は水車がなぜあるのかうろ覚えだったこともあり、復習も兼ねて漫画を手に取った。


「これ無料ってほんま?」

「もらって帰ろうや」

「すごい。外国語版もありますよ」

「1冊でええよね? みんなで読も」


 未侑が1冊手に取る。それから涅槃図で隠れたお釈迦様に脇から手を合わせて、参拝した。


「お釈迦様隠すて、なんか笑ける」

「ご本尊様も大切ですけど、涅槃図も同じくらい大切なもんってことやないですか?」

「いや、参拝の仕方よ。脇からってなんか、ええの?って感じやね」

「でも、そのおかげで真横からの観音様拝めるね」


 右からも左からも手を合わせ、4人は本堂を後にしようとした。


「ありがとうございます。今なら、期間限定でトートバックとかありますよ」


 お礼とともに言われたおばさんの誘い文句に、4人はまんまとつられて、入口に設置された簡易売店に近寄った。L字に並べられた長机の上には、期間限定のトートバックやハナクソが並べられていた。


「涅槃図の猫が描かれたトートバックなんですよ。大と小の2種類あります。こっちは花供御ハナクソと言って、中身はお釈迦様に供えられたアラレなんです」


 おばさんの案内に耳を傾けながら、4人はそれぞれに机の上を眺めた。所狭しと並べられた物品は4人にはどれも魅力的に見えた。

 トートバックを購入しようにも、大にするのか小にするのかで一生悩んでそうな雰囲気だ。


「花供御は買うやろ?」

「「「もちろん(です)」」」


 奈々枝の一言に、3人は声を合わせて返事した。

 

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