第3話


《 ごめん! 30分遅れます( ;∀;) 》


 4人にとって、その日最初のラインは、未沙からのものだった。

 どうやら寝坊してしまったらしい未沙のラインに、御朱印巡り同好会の他メンバーはそれぞれお気に入りのスタンプで、《了解》と答えた。

 予定時刻より30分遅く着いた駅では、梅田ほどではないにしろ、人が大勢いた。8時半を過ぎた頃。どうやら、祝日といえど、出勤する人もそれなりにいるらしい。


「ごめん、遅れて!」

「気にせんでええですよ」

「その分こっちもゆっくりできたしな」

「見て! おかげでネイルシールできちゃった☆」


 準急を見送って、特急に乗り込む。


”信号待ちのため、今しばらくお待ちください”


 すぐに聞こえてきた車掌のアナウンスに、四人は顔を見合わせた。


「なんか、最近多ない?」

「昨日も待ったって言ってはりましたね」

「奈々枝が運悪いだけやない?」

「未侑は電車ちがうもんね」


 満席で座ることができず、奥に入って入口付近で立ち止まる。控えめな声で十分ことたりる距離で、塊になった。

 電車は心配をよそに、1分も待たずに出発した。電車に揺られながら、4人は車内を見回す。


「でも、良かったですね。コートの人多て」

「私も思った。なんか、変な目で見られたわ!」

「私なんかジャケットの人しか見つけられへんかったで」

「そうなん? そこまで気回らへんかったや」


 特急と言えど30分以上、4人は電車に揺られることになる。

 それでも仲良し4人組の会話は途切れることはなかった。


「私、京阪初めてなんやけど、乗り換えって近いん?」

「阪急降りてすぐやんね?」

「近くではありますけど、すぐってほどではないですよ。地上にでますし。私がそう思ってるだけかもしれまへんけど」

「え? 出えへんやろ?」


 未侑の言葉に、4人の頭にそれぞれ?マークが浮かんだ。

 

「お前、地下鉄と勘違いしてへん?」

「確かに、地下鉄は近くにありはりますね」

「それでも結構歩くんやなかったっけ? 地上に出えへんだけで」

「嘘やん?!」


 いくら関西出身と言えど慣れてない道は存在するわけで。お互いが脳内マップを広げて、道を確認していた。

 それでも誰が正解なのか、照らし合わせて確認することができない。


「乗り換え調べてたのって誰やっけ……?」

「調べなおしまーす」

「まあ、30分あるしな」

「調べへんでも、私、分かりますけど」


 小雪の言葉に涙ぐんでみせる未侑に、奈々枝は腕を回して調べることを促した。 


「てか、阪急寒いな」

「分かる! 御堂筋ビックリするくらい暑いやんね!」

「へーそうなんだー」

「気温差は、あまりない方が快適ですからね」

  

 楽しい会話に未侑だけはから返事で参加して、真剣に道のりを調べていた。時折そんな未侑に奈々枝が茶々を入れていれていると、30分なんてあっという間に京都に着いた。

 電車を降りて、未侑の案内で地上に出る。

 京都には、むしろコートの人しかしなくて、4人は笑いながら歩を進めた。


「降りる駅どこやっけ?」

「東福寺駅?」

「ちゃいます。鳥羽街道ですね。橋は渡れまへんけど、今日はだいぶ歩く思うんで、近い方で行った方がええかと思います」

「さっすが小幸、気が利くやん」


 未侑の検索と小幸の記憶をもとに、進んでいく。

 病院の看板。光明神社。と目印を見つけては、一段階ずつテンションは昇っていく。

 しかし2人のマップが目的地を指したとき、そのテンションが不安に静まりつつあった。

 いつもなら見かける鳥居や山門が、寺社仏閣を称える構えが見当たらない。


「アレ、やないん?」

「写真、撮っとく?」

「動画の方があとで切り抜けますから、動画の方がええかもしれまへんよ」

「なら、そうしよっ」


 代表で未侑がスマホを掲げた。マップからカメラに切り替えられた画面には、未侑の足元が移る。徐々に上向くレンズには、六波羅門が映る。


「あ、境内撮影禁止やって」

「カメラ越しに気づくか」

「境内ってどこからどこまで?」

「大体は敷地内全体のことだと思いますけど、どうでしょう? 紅葉も境内に入りますしね」


 4人は顔を見合わせて笑顔を繕い、何を確認するでもなく境内に足を踏み入れた。未侑はギリギリまでカメラを回し、警備員と目があったところでスマホをしまった。

 4人は思いのまま足を進める。そしてたどり着いたのは、紅葉の入り口だった。

 そのままの勢いで先に進もうとする未侑の腕を、奈々枝は引っ張る。


「阿呆。金払わなあかんやろ」

「え? あっちちゃうの?」

「チケット売り場、列ができてはりませんね。ちょっと遅かったんかもしれまへん」

「でも、すぐにはいれるんは良いね」


 入場料は1人1000円だった。チケットを手に、紅葉の世界へ。

 人込みは思ったほどにはなく、頭上に広がる朱い景色に息をのむ。

 

「思ったより赤いな」

「月末に変更して正解やったね」

「カメラ~カメラ~♪」

「なんや撮影してる人も多いですけどね」


 小幸の言う通り、紅葉を残そうと誰もがスマホを掲げていた。そのせいで、所々で人の塊ができていた。

 未侑はそこが撮影スポットだと確信し、人の塊に駆け寄っては写真を撮る。未沙は後を追うようについて行って、未侑と一緒に写真を撮っていた。「良く撮れよー!」という奈々枝のヤジは、観光客の騒がしさに打ち消されていた。

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