第73話 合理的牢獄!
「キエエエエエエエ!!」
目玉のモンスターは攻撃を外した後、すかさずまた力を溜め始めた。
「悪いけど正々堂々やる気はない!」
僕は時止め射撃をモンスターの目玉に放ち、相手を怯ませた。
隙が出来たのを見て、今度はアンカーアローを放つ。モンスターに目視されない場所に矢が刺さるのを見て、すぐに瞬間移動をする。
「さて、どうしたものか……」
元はと言えばあの落とし穴のせいでここに来たのが問題の原因なのだが、今はそれについてはどうでもいい。
問題は、ここからどうするかだ。
僕はポーチのチャックを開け、手を忍ばせる。すると、目当てのものの感触があり、僕はそれを引っ張り出す。
「よかった、物はなくなってないみたいだな」
僕が手に取ったのは、脱出アイテムの『飛行兎の翼』。一見すると鳥か何かの羽根だが、飛行兎というモンスターからドロップするれっきとしたアイテム。
これを使えばクールタイムの後、地上まで戻ることができる優れものだ。
これで最低限の安全は保障されていることはわかった。ここから僕が取れる選択肢は二つ。
一つは、今すぐにこのアイテムを使って地上へ戻る択。これは最も安全だ。今回は不確定要素があったので残念だったとして、また後日チャレンジをするプランだ。
客観的に自分を見て、僕はこの択を取るべきだ。今自分が何層にいるかもわからない状態でウロウロするのは危険だ。
だが、そう考えている自分がいると同時に、また別のことを考えている僕もいた。
それがもう一つの選択肢。自力で脱出するというプランだ。
ここが何層かはわからない。おまけに<隠密>すらも効かないというハードモードだ。だが、だからこそやってみる価値はある。
それに――体育祭期間に思いついて、ずっとやりたかった
「キイイイイエエエ!!」
おっと、もう嗅ぎつけてきたか。あの強さに加えて執念深いときた。冒険者は逃げようとしてもすぐに追いつかれてしまうだろう。
「だけど、お前は誤算をした。僕は逃げたんじゃない」
目玉のモンスターが動きを止めた。僕が放った5本の矢が、上下左右の壁に向かって進んでいくのを視認したためだ。
狙いを外したように見えるこの5本の矢。しかし、これこそが僕の考えた作戦だ。
「<バウンス>!」
矢が壁に当たった刹那。まるで野球ボールを壁にぶつけたように矢が反射し、進行方向を変えた。
少し前に習得したスキル<バウンス>の効果だ。これにより、矢は壁などに当たった時に跳ね返るようになる!
そして、この効果は狭いダンジョンでは特に有効となる。跳ね返った矢は軌道を変え、再び壁にぶつかり、また軌道を変える。これにより――、
「お前は矢の牢獄に閉じ込められた。名付けて、<プリズンアロー>だ」
目で追う事ができない矢の動きに、目玉のモンスターは翻弄される。次の瞬間、モンスターの体に矢が突き刺さった。
モンスターは一瞬よろめいたが、流石に一撃では倒れない。しかし、第二、第三の矢がモンスターを襲う。
「矢は一回喰らって終わりじゃない。<貫通>の効果で体を貫いたらまた跳ね返ってくる。つまりお前は詰んでるんだよ」
モンスターは何度も何度も攻撃を受け、ゆっくりと瞼を閉じて絶命した。
ひとまず、目の前の敵は倒す事ができた。
だが、感知できる範囲にモンスターはまだいるようだ。他のモンスターにも<隠密>が効かない可能性はあるし、自力で帰るならこいつらも一掃しておきたい。
「よし、まだまだ矢を追加だ! プリズンアロー!」
今度は矢がフロア中に拡散するように矢を撃ちまくる。すると、矢はたちまちフロア中を駆け巡り、モンスターたちの体を貫いていく。
近接ならわからないけど、遠くからなら僕の方に分がある。1分も経たないうちに、フロアのモンスターは全て絶命した。
「思ったより楽だったな。このまま下に降りちゃってもいいくらいだけど……流石に戻るか」
想定外のトラブルも大したことがなかったなと思い、僕は階段の方へと歩いていく。
それにしても……ここは一体何層なんだろう?
あの落とし穴にいた時間は数秒くらいだ。もしかしたら、思っていたよりも落ちてなくて、案外まだ24、5層くらいにいるのかもしれない。
「流石に杞憂だったな……」
そう呟き、階段を昇り切った瞬間だった。
「!!」
僕は全身が粟立つ感覚を覚え、その場で足を止めた。
わかってしまったのだ。ここがどこなのか。その理由は勘でも何でもない。
上のフロアに、いる。フロアボスが。とんでもない気配が、待ち構えている!
間違いない。このオーラは……これまで戦ってきたどの敵よりも強い!
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