第65話 合理的最強!

 説明しよう!! 合理的漁夫の利作戦とは!!


 赤と白がいい感じに潰し合って消耗したタイミングで参戦し、美味しいところだけ持って行ってしまおうというまさに合理的な作戦の事である!


「今の時点で開始から70分……攻め込むにはいいタイミングだ」


 僕らは開始から1時間後を目安で集合することを事前に話し合っていたのだ。


 青組はただでさえ戦力不足。勝つためにはそれ相応の戦術を選ばなければいけないのは間違いない。

 ……ただ、一つだけ癪なのは、かつて青組が一度だけ優勝した際も、同じように漁夫の利だったらしく、僕が思いついた感が弱まってしまったことだろうか。


 まあ、そのおかげで皆を納得させやすかったし、よかったとするか。


「英夢くん、今何ポイントなの?」


「ん? 1860だよ」


「凄いな……私と星翔一年生は、道中で何人か倒してなんとか550点というところだ」


「ということは、力丸先輩と影山くんで2410点。赤と白のポイントを合わせた残りは4190点だから……流石に過半数とはいきませんが、全体の3割以上はキープしているという感じでしょうか」


 あれ、思ったより貯まってないのか? 道中であれだけの生徒を片付けたのにな……。

 いや、考えて見れば普通か。団長が全体の残り4190点のうち、2000点を保有しているんだ。その辺の一般生徒を倒してもそこまで影響は高くない。


「えっ、でも残り4200点を半分にしたら2100だから、私たちが1位か2位であることは間違いないんじゃない!?」


「確かにそうだが……そう楽観視もしてられないんだ」


 比奈の発言に対して首を横に振ったのは、意外にも力丸先輩だった。


「何か懸念でもあるんですか?」


「ああ。そして、この懸念こそがこれからの作戦の最大の難点でもあるのだが……お、近いぞ」


 その時、進行方向の先から何人もの雄たけびが聞こえてきた。


「うわ、凄い迫力!」


 茂みに身を隠しながら、僕らはその先の光景を覗き見る。

 茂みの向こう側には、木が生えていない平地が広がっている。そこで多くの生徒たちが乱戦を繰り広げていたのだ。


 まるで時代劇の合戦を目の当たりにしているような激しい戦い。どうやらここが赤と白の主戦場のようだ。


「ひとまず、人数が多すぎて私たちの存在は感知されていないみたいですね」


「じゃあしばらく見学かな。赤と白の戦力は拮抗してたし、あと30分くらいは見ててもいいでしょ」


 僕は<観測者>で呑気に全体を見ていると――、


 すぐに異変に気づいた。


 え……? 聞いてた話と全然違くない?


「気づいたか、影山一年生」


 僕の表情を見てわかったのか、力丸先輩がそう言った。

 先輩が言ってた懸念って……そういうことだったのか!


「どうしたの英夢くん? 私たちにも教えてよ!」


「いや……比奈と力丸先輩がどういう敵と戦ってきたか知らないけど、赤組と白組の特徴って気づいたか?」


「うーん、詳しくはわからないけど……白の方がチームで行動してて、赤は自由行動って感じ?」


 やはり、比奈も僕と同じような感覚を持っているようだ。


 僕は最初、白組は好んで組織を形成しているのだと思っていた。

 白組の団長が厳格な態勢を好む生徒で、秩序を大切にしている……とか、そんなことだろうと予想していた。


 しかし、現実はそうではない。


 白組はチームを組まされている。――正確には、組まなければ勝てないから、組まざるを得なかったのだ。


「……見てください、あれ!」


 冬香が指し示すその先――白組の生徒たちが束になって走っていくのが見える。

 その先に立っているのは赤組の生徒。たった一人で、静観した態度で敵を見据える。


 次の瞬間、まるで山のようになっていた白組の生徒たちが、一瞬で吹っ飛ばされた。

 原因は、赤組の男の抜刀。ただそれだけだ。


「なんですか、あれ!? 刀を抜いただけで生徒がやられちゃいましたよ!?」


 いや、それだけじゃない。腰に携えた刀を引き抜こうとしたわずかな間、刀が電気のようなものを帯びていたのが見えた。


「やはり……そういうことなのか。どうやら私がさっき言った懸念・・は、現実・・となっていたようだ」


「ど、どういうことですか!? まさか――」


 比奈の顔を見て首肯する力丸先輩。彼の額から汗が流れた。


「彼は3年、赤組団長の不知火 しらぬい れん。彼はたった一人で、学院のそれ以外の生徒全員に匹敵するだけの力を持っている」


「ひ、一人で学院の生徒全員と!? そんなデタラメなことある!?」


「いえ、デタラメじゃないと思います……あの人のオーラ、他の生徒とは比べ物にならないほど大きい……」


 僕から見ても明らかなほど、あの男は強い。そのうえ冬香のお墨付きまで得られればもうこれ以上はないだろう。


「私と刹那は1年生の時、不知火やつと体育祭で相まみえた。だが、結果は惨敗。悔しかった私は1年間血の滲むような思いで努力し、2年生の時にリベンジしたが――勝てないどころか、不知火はたった一人で上級生を含めて200人近くを倒してしまったのだ」


「1人で200人!?」


 力丸先輩はまるで何かに取りつかれたように不知火を見る。手にはいつの間にか力が籠っている。


「刹那は、不知火の圧倒的な力を前にして絶望してしまった。真面目だった彼女はやがて努力を冷笑するようになってしまった」


「ねえ、見て!」


 その時、不知火の方を見ると――彼は一人の生徒の顔面を掴み、男の巨体を片手でゆっくりと持ち上げた。

 見ればすぐにわかる。あれが白組団長だろう。


「まさか……終わった……?」


 戦場に、不知火に向かっていく者はいない。比奈の言葉通り、全てが終わってしまったのだ。

 白組は――壊滅した。


「君たちに、この体育祭の目標は『刹那にいいところを見せる』と言ったね。……あれは正確ではない。私の目標は――あの男を倒し、昔の刹那を取り戻すことなんだ」

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