第64話 合理的意味!

「見つけたぞ! あの二人だ!」


「あのもやしを倒せば1800点だぞ!」


 武器を振り上げて、前から走ってくる生徒たち。僕はそれを左右に吹っ飛ばして次々と片付けていく。


「<シールドバッシュ>!」


 盾を持って特攻してくる赤組の生徒。僕は盾を受け止めると、それを力で折り曲げた。


「は……え? なんで盾がこんな簡単に……」


 対人戦用の盾だから、さすがに本来はこうはいかないけど……こんなので攻撃から身を守れるのか?


「<合理的首トン>!」


 最後の敵に手刀を喰らわせると、僕は手に付けたウォッチを見た。


 今ので1825点か。力丸先輩や他の生徒のポイントと合わせて、青が持っているのはだいたい2350点。

 かなりの数の生徒を捌いたが、まだ全体の半分にも満たない。どうやらまだサボることは出来ないようだ。


 連戦は面倒だが、悪いことばかりじゃない。なんとなく、赤と白のメンバーの傾向のようなものが見えてきた。


 赤は自由主義。一人当たりが持っているポイントは一律10スタートで、戦いを挑んでくるのも個人か小規模なグループであることが多い。


 一方で白は完全に組織化しているらしく、団長の下に色裁九隊があり、さらにその下にいくつかの分隊がある。持っているポイントは役職によって違う。


「さて、そろそろいい時間だし、作戦を次のフェーズに進めるか……ん?」


 その時、前方から敵の気配を感知した。人数は3人……女子生徒だ。こっちにまっすぐ向かってきている。


「……アンタが青の斥候? 聞いてたより弱そうね」


 現れたのは、黒髪ロングの3年生を筆頭とした3人組。腕のバンドの色からして赤組のようだ。


「ねえ、アンタたち何のために戦ってるの? どうせ負けるのに?」


「それはまだわからないと思いますよ。こっちには力丸先輩や史上最強のバフ使いの冬香がいますから」


「史上最強って絶対付けるんですね……」


 女性はフンと鼻で笑い、一蹴する。


「無理ね。だって、トップがけんでしょ? あいつ、昔から喧嘩弱かったし」


 ……なんか、昔から知ってる口ぶりだな。力丸先輩と学校が同じだったとか?


 ……待てよ、幼馴染?


「もしかして……優希刹那さん?」


「なんで私のこと知ってるの? まさか拳から聞いた?」


 やっぱり。この人、力丸先輩の想い人の優希先輩じゃん!

 にしてはなんだかかなり好戦的というか、圧が強い感じがあるけど……。


「アンタたち、付いていく人間を間違えてるわよ。弱い奴の団に入ってどうするの? アンタたちがどれだけ頑張っても、あいつがポイントを取られて終わりでしょ? 無駄な努力じゃない」


「なんでそんなこと言うんですか!」


 意外にも、声を荒げたのは冬香だった。


「力丸先輩は……勝てるかわからない青でも一生懸命頑張ってるんですよ!? 自分の目標のために諦めないことが、無駄なわけないじゃないですか!」


「無駄でしょ。だって結果が伴ってないし。あいつはずっとそうだった。弱いくせに無駄な努力ばかりして、仕事ばっかり押し付けられて……それで他人から優しいと思われたいだけのダサい奴。それが拳」


 冬香の考えを後押ししてあげたい気持ちもあるが、優希先輩の言うことも一理ある。


 結果を結ばない努力に意味はない。例えば、レベルを上げるために1日10時間スライムを狩り続けることは意味がない。他に効率的な方法を使えば、1日1時間で済むかもしれない。


 諦めないことは美徳とされがちだが、諦めないことが手放しに賞賛されるべきかというとそうでもない。時には撤退をするほうが合理的な場面もある。


 力丸先輩と話すようになったのはここ1週間くらいだが、彼の人となりは少しだけわかる。

 彼は真っ直ぐで、努力家だ。周囲からの信頼も厚いのだろう。それはきっと、彼が効率のいい人間じゃなかったからこそ、習慣で身についたものなのだろう。


「……影山くん?」


「ごめんごめん、気を抜いてた」


 改めて優希先輩の方を見ると、彼女は武器のチェーンをぐるぐると回していた。


「無駄な努力したって、意味なんかないの!」


 優希先輩がチェーンを回す手を離し、先端の錘を僕に向けて投げてくる。


 空を切って迫る錘。大きさはソフトボールくらいあり、装甲ありだとしてもノーダメージとはいかないだろう。


 僕はその錘を顔の前でパッと掴み、そのまま握力で粉砕した。


「は……!? なんで金属製の錘が片手で!?」


「無駄な努力に意味がないって言うなら……僕に立ち向かうことにも同様に、意味がないと思うよ」


 僕は彼女たちの背後に入り込み、手刀を喰らわせて全員気絶させた。


「時間が押してる。そろそろ行こう」


「は、はい!」


 彼女たちをそのままに、僕たちは森の中を走る。




「おーい、英夢くん!」


 集合場所にたどり着くと、そこには比奈と力丸先輩の二人が既に待っていた。


「影山一年生、紫乃浦一年生! よく生き残ってくれた!」


 二人とも無事なようで、見たところ外傷もなさそうだ。


「じゃあ、やろうか! 青組勝利のための作戦……『合理的漁夫の利作戦』を!」

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