第59話 合理的条件!
「やっほー! 冬香ちゃんも青!?」
「ほ、星翔さん!?」
紫乃浦さんに飛びつき、小さな体を抱きしめる比奈。こういう時の比奈のコミュニケーション能力の高さには尊敬する他ない。
「それに、影山くんも……二人も青組なんですか?」
「うん! 冬香ちゃんもってことは、私たち仲間だね!」
紫乃浦さんは一瞬嬉しそうな顔をしたと思うと、今度は落ち込んだ様子で視線を逸らした。
「あの……こんなこと言って失礼だと思うんですけど……二人とも、赤か白にした方がいいと思います。私は選択肢がないからここに来ただけでーー」
「うん大丈夫! 私めっちゃ青好きだし! さ、冬香ちゃんも入ろう!」
「あ、ちょっと!」
比奈は紫乃浦さんの手を引いて青組の本部の部屋へと入っていく。
紫乃浦さんは何か言いたげだったような気がしたけど……まあいいか。僕も中に入ろう。
「こんにちはー!
本部は、普段は空き部屋の一室が使われている。青組のそれも、部屋の中に机で作られた窓口が用意されているが、席についているのは一人の男子生徒だけだ。
「入団の申請か! わざわざありがとう! ここで名前だけ書いてくれ!」
声を掛けてきたのは、黒髪の熱血そうな男子生徒。学年章からして3年生。
青組の入団届は非常に簡素なもので、バインダーに挟まっている紙にクラスと名前を書くだけ。ファミレスで満席の時に名前を書く記名台もびっくりだ。
僕らは順番に名前を書き、男子生徒にバインダーを手渡した。
「確かに承った! では、改めて、私が青組の団長・3年の
え、この人が団長? 白も赤も、団長が窓口をやっていなかったけど……。
「団長、よろしくお願いします! 私たち、本気で優勝目指すので! 一緒に頑張りましょう!」
「ははは、嬉しいことを言ってくれるな星翔一年生! ……だが、それは難しいだろう!」
力丸先輩の意外な一言に、場の空気が凍り付いた。
「え……なんでそんなこと……」
「現実的にそうだ。青組に入団届を出した生徒数は今の時点で60名ほど。赤組と白組は既に120名の定員をほぼ揃えている」
「……でも、体育祭は全生徒参加ですよね? 期限を超えても入団届を出さなかった生徒はどうなるんですか?」
「その場合、各組の空いている定員枠から
なるほど、確かに全ての生徒がどこかの組に入っていないといけないルールはある。
しかし、当日その生徒が
「じゃあ、青組は半分の人数で他の組と戦わなくちゃいけないってことですか!?」
しかも、青組に来る生徒は赤にも白にも入れなかった生徒だ。まさしく学院の下位30%が揃ったチームだろう。
「そういうことだ星翔一年生! つまり、私たち青組が優勝する可能性はほぼ0! 学院で最強の人間でも入ってこない限り、勝つことはできないだろうな!」
「あれ、じゃあ影山さんがいれば大丈夫なのでは?」
その時、紫乃浦さんがぼそっととんでもないことを言い放った。
「……今、なんて?」
「あっ、いきなりごめんなさい。意味わからないですよね……私、加護で相手の実力とか感情とか……オーラが見えるんです。だから
だとすれば……まさか。
「他の生徒は体の周りが1センチくらいうっすら光ってる感じなんですけど、影山くんは……隣の席まで巻き込むくらいにオーラが大きいんです。ここ1ヶ月くらいで急激に膨れ上がってて、多分、今は学院で1番大きいと思うんですけど……あれ、これもしかして言わない方がよかったですかね……?」
視線が僕に注がれる。
おそらく嘘ではない。彼女に実力を見せたことはないし、会話もほとんどしたことがない。なのにかなり的確に当ててきている。
「影山一年生。本当なのか?」
隠しても……無駄そうだな。
「はい。学院一かは知らないですけど、そこそこ実力はある方かと――」
その瞬間。僕は力丸先輩に肩をガッと掴まれた。
「頼む!! 青組のために力を貸してくれないか!? 青組の優勝のために!!」
いや、圧が強いな!
「ちょ、待ってくださいよ……さっきまで優勝できないとか言ってたじゃないですか……」
「本当は私だって勝ちたいに決まっているだろう!! せっかく団長なんてやってるんだぞ!? それに――団長になったのも、刹那にいいところを見せるためなんだ!!」
「刹那?」
「
まさかこの人……好きな女の子のために優勝したいと思ってるのか?
「はい団長! 質問していいですか!」
「いいぞ星翔一年生!」
「団長と刹那さんは付き合ってるんですか?」
「答えはノーだ! だが、体育祭でいいところを見せて、卒業までに告白しようと思っている!!」
くだらない。色恋などの感情に振り回されるような非合理的な考えにはまったく共感できない。
だが、こういう話題が提示されてしまった以上、僕の合理的脳内コンピュータはこの後の展開を正確に予知していた。
「えええええ!? なんですかそれめっちゃエモいですよ! 青春って感じ! 英夢くん、手伝ってあげようよ!」
やはり比奈はこういう話題に食いついてくるタイプだ。楽しそうに目を輝かせ、既に僕の手を掴んでいる。
こうなると厄介だ。そもそも比奈が青組に来ることになったのは僕がどこの組からも拒否されてしまったからで――本人はそう思っていないだろうが、僕のせいで楽しい体育祭を奪われてしまったとも言える。
駄目だ、断れそうにない。
「……3つ、条件がある」
僕はため息をつき、指を3つ立てて提示した。
「一つ目。やるからには勝つ。僕は体育祭なんてどうでもいいと思っている。だから手を抜いて終わらせるつもりだった。そんな僕が1番避けたいのは、中途半端に本気を出して、優勝もできないというパターンだ。だからこそ、やるからには合理的に優勝を狙うし、僕の作戦にも乗ってもらう」
「そこは問題ない。私は体育祭のルールにも詳しいし、その点については助言できるだろう」
「二つ目。協力するのは体育祭の優勝だけだ。僕は体育祭と同様に色恋についてもどうでもいいと思っている。告白云々の話やお互いの好意については僕の預かり知るところじゃないから、両者の同意と法律・学院規則の下で勝手にやること」
最後に、僕は三つ目の条件を提示した。
「……以上だ。この条件は力丸先輩だけじゃなく、紫乃浦さんにも関係があることだ。問題ないか?」
全てを話し終えた時、比奈、紫乃浦さん、力丸先輩の3人は一堂に頷いた。
「決まりだな」
僕たちはそれから、力丸先輩に体育祭のルールについて学び、作戦を固めていった。
そして、体育祭当日。
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