第57話 合理的リーディング!
翌日、僕は昼休みになった途端に図書室に駆け込んだ。
「多分この辺にあるはず……これだ!」
目当ての本を棚から引っ張り出し、閲覧スペースの席に座った僕は、ぶ厚い図鑑のページをめくる。
「……あった」
世界の国宝図鑑。歴史ある文化財や建物など多くの物が掲載されている中に、『ダンジョン産』の項目がある。
それらは古くからある物でも、著名な芸術家が作ったものでもない。ダンジョンでドロップした貴重なアイテムだ。
『エリクサー』。小瓶の中に虹色の液体が満ちているレジェンドレアのアイテム。イギリスで1991年に発見された。飲んだ者の健康寿命を100年延長させるとされる。
このアイテムが発見されたのはリヴァプールで、現地の冒険者パーティが18層で発見したらしいがーーそのパーティはアイテムの所有権を巡って紛争、壊滅。
最後にエリクサーを勝ち取った冒険者は、それをオークションに掛けようとしたが、強盗によって奪われてしまう。その後もエリクサーは何人もの手に渡り、最終的に大英博物館に飾られることになった。
『天使の首飾り』。天使の光輪がデザインされた、一見すると中学生男子が付けていそうなただのシルバーのネックレス。だが、これもれっきとしたレジェンドレアのアイテム。
このアイテムは1960年代にモンゴルのシャーマンが見つけたとされており、世界各地を転々と移動している。
アイテムの効果は、ネックレスを3日間装備した人間は、どんな病も治すことが出来るというもの。最初は治療目的で使われていたこのネックレスは、人の手に渡るうちに欲望に歪められ、最後にはネックレスを奪い合う戦争が起きてしまったという。
どの項目を見ても、レジェンドレアのアイテムには争奪の歴史がある。欲望や権力など、人間のドロドロとした部分がこれらのアイテムには付きまとっている。
「……あの解説動画、適当なことを。何が数億だ、100億円はくだらないじゃないか」
うん。やっぱりツイスタリアを見つけたことは黙っておこう。
こんな恐ろしいアイテムを持ってるのがバレたらどうなるかわからない。
僕の合理的シミュレーションによると……最善のパターンで、国が国宝として買い取ってくれる。光の勇者のネームバリューや、ツイスタリアが持つ戦闘力を加味して、最低でも50億。200億くらい出してくれても罰は当たらないと思う。
そのお金を手に入れた僕は、ある程度の老後資金を残しつつ、合理的投資術を駆使して資産を倍くらいにする。モルディブかハワイあたりでリッチに生活しながら、道楽でダンジョン攻略をする。最高の人生だ。
そして、普通くらいの想定だと、僕はツイスタリアを狙う悪党に殺される。まあこれくらいで済めばいい方だろう。
最悪のパターンだと、他国のスパイとかにバレてツイスタリアを奪われる。アイテムを隠しでもすれば、家族も含めて拷問だろう。そして最後には、ツイスタリアを巡って戦争ーーなんてこともありえるかもしれない。
隠そう。あの隠し扉の場所は綺麗に戻しておいたし、他のアーチャーが単独で20層をクリアなんてまず出来ない。
それにしてもーー好奇心とはいえ、ずいぶんと厄介なアイテムを取ってきてしまったようだ。人目につかないところで使う分には問題なさそうだけど、上手くやらないと、他人にバレたときに……。
「影山くん、ですよね?」
「うわぁ!?」
僕は図鑑をさっと閉じ、声がした方に振り返る。
「ご、ごめんなさい……集中しているのに声を掛けてしまって」
「……君は?」
僕に話しかけてきたのは、メガネの少女だ。銀髪のショートヘアーに、物腰が柔らかく、大人しそうな雰囲気。
「あっ、そうですよね……影山くんと話すのは初めてですもんね……一応同じクラスですけど」
同じクラス? 僕が他人に関心が無さすぎるせいで、まるで見覚えがない。
「私、
「ああ、本ね!? うん、好きだよ!!」
マズいな、本なんか全然読まないぞ……休み時間に教室で読んでるふりをするだけだ。
だけど、ここは上手く話をはぐらかさないと……動揺しているのがバレたらツイスタリアについて何か怪しまれるかもしれない。
「本当ですか!? いつも教室で影山くんが本を読んでるのを見て、きっと好きだと思ったんです!」
「もちろん。普段は持ち運びやすい文庫本を読んでいるけど、たまには図書室で重い本を読みたいと思ってね……図書室に来たらついつい色々な本を読みたくなってしまうな」
「わかります! 図書室には色々な本があるのがいいですよね……!」
紫乃浦さんは絵を輝かせ、前のめりで返事をする。さっきまでの大人しそうな雰囲気から一転して、なんだか熱を感じる。どうやらスイッチを押してしまったらしい。
「あの、影山くん! 嫌じゃなかったらでいいんですが……時々、教室でも声を掛けてもいいですか!?」
「あ、うん。ぜひ」
「ありがとうございます! ……って、読書中でしたよね。私、つい喋りすぎて……お邪魔してすみませんでした!」
紫乃浦さんは頭を下げると、そのままそそくさと走って行ってしまった。
……なんだったんだ?
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