第54話 合理的隠し部屋!

「なるほど、そういうことか……!」


 僕はずっと勘違いしていた。宝はどこかの不変層に隠されていて、誰もがそれを見逃しているのだと考えていた。


 でも、違う。宝が隠されている場所に行くには特定の条件を達成しなければいけなかった。おそらくはーー20層フロアボスを弓で単独撃破。


「確かに、アーチャーは単独行動に向いているジョブだ。この条件なら、アーチャーであることも、強さも測ることが出来る」


 21層へ降りて横を見てみると、誰が見てもわかるような、扉の形の穴を見つけた。


 確か、ダンジョンの最高到達点って26くらいだっけ? ここに足を運んだ人がいるかはわからないけど、さすがにこれを見逃すことはないはずだ。

 おそらく、条件を達成しないと入れない扉。光の勇者はこの先にツイスタリアを隠したのだろう。


「隠し扉かあ……なんか合理的な響きだな……!」


 僕はワクワクしながら穴の中を潜っていく。


 さて、僕はこのまま洞窟の中を進む。しばらく歩くと、その先に宝箱が置いてあって、その箱を開けるとツイスタリアがーー、


『エクストラクエストを開始します。エクストラボスを倒してください」


 ……まあ案の上、そんなに美味い話があるわけないか。


 ウィンドウを消して前を見てみると、部屋の奥に一人の男が座っているのが見えた。

 男の服装は、暗殺者のようなローブ。頭には薄闇色のような色のフードを被っていて、その表情を伺うことは出来ない。


「一応聞くけど……人間じゃないよね?」


「…………」


 フードの男は答えない。僕を見ているのかもわからないまま、そこに佇んでいる。


「肯定ってことでいいのかな? ならよかった。いきなり全力を出せるからね!」


 男が微動だにしない中、僕はいきなり<ラピッドショット>で先制をする。

 あいつを倒さないと宝が手に入らないなら、躊躇する理由がない。いつもの通り速攻で先手を打ってーー、


「……!」


 その瞬間、僕が放った矢は男から避けるように軌道を変え、壁に突き刺さった。


「え!?」


 僕が驚いたのは、矢の軌道が急に変わったからじゃない。衝撃を受けたのは、軌道の曲げ方だ。


 男が持っているのは、一張の弓だ。男は、放った矢で僕の<ラピッドショット>を矢で撃ち返すことで弾いたのだ。


「嘘だろ……? ゴーレムでも倒せるような一撃だぞ? いや、それ以上に気になるのは……」


 こいつ、どうやって僕の<ラピッドショット>を弾き返した?

 撃つのは僕の方が速かったはず。おまけにこっちはノーモーションで撃っている。


 <リペルアロー>に似た性質か? どちらかというと加護の類なような気もするけど……。


「どっちにせよ、そっちが何もしてこないならこっちからやらせてもらう!」


 僕は再びフードの男に矢を放つ。さっきよりも数は多い。

 ……が、攻撃はさっきと同じように全て弾かれてしまった。


「これは困ったな……」


 向こうは何もしてこないけど、こっちの攻撃は全部弾かれてしまう。

 かといってここで引き返したら宝が遠のいてしまうしな……。


 まず、なぜ男が攻撃を弾くのかを理解しないと始まらない。

 今度は攻撃よりも観察に集中し、矢を放ってみる。


「……ん?」


 その時、僕はあることに気づいた。


 男が一瞬、攻撃を放つ前に動いている。手に持った弓を両手で握り、足を開いて弦を引く。あの所作は――、


 アーチャーが弓を引く時の構え……!?


「いやいやいや、そんなことあるのか……!?」


 どう考えても合理的じゃない。ノーモーションの僕の攻撃よりも、男が弦を引く動作をした後に放った一撃の方が速いなんて。


 だが、男の攻撃の方が速いのは事実だ。男は明らかに僕よりも後に弓を引いている。


 残念なことに、僕は<ラピッドショット>以上の速度の攻撃手段を持ち合わせていない。

 この男を倒すには、今、この場で僕がそれ以上のスピードの攻撃を身につけるしかない。


「僕は本当にラッキーだな、こんなところでパワーアップするチャンスに巡り会えるなんて」


 幸い、相手は攻撃してこない。観察してトライする機会は無限と言ってもいい。


「やっぱり気になるのはあの構えだよな……」


 弦を引き、射撃に入る前の一連のモーション。矢を放つまでの、射撃のタイミングを見計らう状態――たしか『会』と言っただろうか。


 勝手な憶測だが、あれが挟まることでノーモーションよりも射撃の速度が速まるのではないだろうか。

 僕は<具体化>で弓を作り出し、久しぶりに弦を引く。


 弦を引き、いつもよりも一撃に時間をかけて矢を放つ。攻撃は当然、弾かれる。


「これは時間がかかりそうだな……」


 僕はそれから無心で矢を放ち、ときどきフードの男をよく観察してはまた手を動かした。


 手応えがない中、おそらく1時間が経過した。

 状況はそこで大きく変わった。

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