第53話 合理的ふさわしさ!

 『不変層』という言葉がある。

 例えばフロアボスがいる10層や20層。他の層は時間で形状が変化するのに対し、不変層は形状が変わることがない。


 不変層はフロアボスの層以外にもあることがわかっており、それは4層だったり、7層だったりとダンジョンによっても違う。


 何が言いたいのかというと……光の勇者がツイスタリアを隠したのが本当だとしたら、その不変層が怪しいということだ。

 ただ、これは勇者が自分でアイテムを回収できるように、不変層に隠したという前提が成立していなければならない。


「全く、僕としたことがまた分の悪い賭けをしてしまったな……」


 だが、今の僕にとって、ツイスタリアは喉から手が出るほど欲しいアイテムだ。


 僕はここまで強くなれたのは、<具現化>による技の獲得や弓矢を出せるようになったことが大きい。ただ、ここ最近はそれもかなり頭打ちになってきた。


 <具現化>で作り出せるのは、自分が体験したことや、明確にイメージできることのみという条件がある。

 だから、これ以上矢の威力を上げたり、技のバリエーションを増やすことは今の時点では難しい。


 そのため、超高校級の弓であるツイスタリアに実際に触れて、使ってみることは僕にとって大きな意味がある。今目の前でぶち当たっている壁を乗り越えさせてくれる可能性があるからだ。


「とはいえ、今回は本当に当てがないな……どうすればいいんだ?」


 不変層ってことはフロアボスがいる10、20、30層辺りが怪しいけど……探すのはそこだけってわけにもいかないし……。


「これは、しらみつぶしに当たるのが一番よさそうだな……」


 モンスターを殲滅した僕は、ダンジョンの隅から隅までをしっかり調べつつ、どんどん先へと進んでいく。

 ヴォルケンの時のように、壁に何かしらの仕掛けがされている可能性も考慮しつつーー地道な作業は続いていく。


「くそっ……なんで放課後の時間を使って間違い探しをしてるんだ、僕は!」


 このままやっていたら今日が終わってしまう。学生の身分で朝帰りは流石にないだろう。


「……そうだ。光の勇者はツイスタリアを『隠した』んだよな?」


 だとすれば考えられる目的は二つ。


 一つは、あの都市伝説ブレイブストリーマーが言っていた、後で回収できるようにすること。だが、正直これは考えにくい。人間が復活するというのはあまりにもオカルトすぎる。

 だから可能性自体はかなり低いが……念のため考慮するという程度。


 僕にはむしろ、もう一つの可能性の方が信ぴょう性が高いのではないかと思われる。

 それは、光の勇者がツイスタリアにふさわしい人間を選別するためということだ。


 光の勇者は、自分が死んだ後も災厄が起こる事を見越し、自分のレアアイテム・ツイスタリアを残そうとした。しかし、ツイスタリアは強力なので、悪い人間や弱い人間に渡ってしまうとかえって悪い状況になりかねない。

 だから、光の勇者はツイスタリアにふさわしい人間にそれが見つかるようにするはずだ。


 だとしたら、浅い層にツイスタリアを隠すメリットはないはずだ。少なくとも、10層を超えるはず。


「じゃあ、この辺りは軽く見る感じでよさそうだな……」


 僕は<アンカーアロー>で次の層へ瞬間移動し、さっと辺りを<観測者>で感知する。

 めぼしい反応がなければ、次の層へまた瞬間移動……と繰り返していく。


 何の成果も得られないまま、10層を越えた。僕は辺りを感知する精度を高めながら、敵をどんどん狩っていく。


「15層、突破……!」


 特に何のイベントも起きないまま、15層まで来てしまった。歩きながら、僕は考えていた。


 ツイスタリアに『ふさわしい人間』ってどんな人間なんだ?


 ふさわしいとはすなわち、伝説のアイテムを使いこなせるような人間。考えられそうなことはいくつかある。


 まずは強さ。これは前提みたいなところがある。弱い奴に伝説のアイテムは宝の持ち腐れだ。だから奥の方の層にあることは間違いない。


 後は……正しさ? ツイスタリアを悪用しない心とか? でも、僕は別に正しい奴ではない。正しさなんて人や時代によって左右される。そんな合理的じゃない概念を読み解くのは大変な作業すぎる。


「後は……何かあるか? なんかもっとこう……根本的な何か……?」


「ギュルルルルルルル!!」


 その時、目の前に巨大な化け物が見えた。デカい緑色のナメクジーーそうか、ここはもう20層。フロアボスがいるところだ!


「ちょっと考えごとをしてるんだ。悪いけどどいてくれないか?」


 フロアボスはぬめぬめとした体を風船のように膨らませると、見た目からは想像できない、新幹線のような速度で迫ってきた。


「<ラショナル・ワン>!」


 僕はナメクジに向かって渾身の一撃を放つ。白い光が、化け物の巨体を押し返していく。


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 刹那、ナメクジは断末魔とともにその場で爆発四散し、再びフロアに平穏が戻った。


「ふう、20層のボスも<ラショナル・ワン>があれば脅威でもなくなってきたな」


 さて、そんなことより、ツイスタリアにふさわしい人間について考え直そう。今の光を見て、ちょうどアイデアが湧いてきたところだ。


 ツイスタリアがふさわしい人間。その答えはーー『アーチャー』ではないだろうか?


 せっかくの伝説の弓も、アーチャーではない人間に渡ってしまったら意味がない。


 では、アーチャーとそうでない人間をどのように判別するか? 考えられる条件は多くあるが、一番はーー、


『条件を達成しました。エクストラクエストに挑戦します』


 ん?


 21層に差し掛かった僕の前に、そう書かれたウィンドウが表示された。

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