第52話 合理的都市伝説!

「さて、今日のノルマは終わりっと……」


 帰宅して勉強を終えた僕は、ベッドに横たわって息をついた。


 ダンジョンの外からのモンスター退治に加えて、毎日の地道な勉強。両方こなさないといけないのが学生の辛いところだな……。


 ちょっと疲れたし、息抜きに動画でも見るか。


「あなたの視線を〜未来永劫ロックオン!」


 スマホで再生したのは人気配信者ミライの動画。――僕にとっては美玲という名前の方が馴染み深い。


 最近はときどき彼女の動画を見るようにしている。彼女の動画は1本あたり10分と短く、編集も丁寧なので楽しく見ることができる。

 配信者は動画の本数を増やすことが重要であり、そういう意味では彼女が動画に施す様々な工夫は非合理的なのだが――それがむしろ彼女らしいと感じる。


「それじゃ、今回はここまで! 登録忘れずにね!」


 ……おっと、もう終わりか。美玲の動画はいつも時間が過ぎるのがすぐだな。


 まだ時間に余裕はあるし……そうだ。


 僕はスマホに『光の勇者』と文字を打ち込む。昼間、比奈が言っていたのを思い出したからだ。

 特に期待するでもなく、検索結果に表示された動画の一覧を眺めていると、一本の動画のサムネイルが目に止まった。


「『光の勇者が遺したレアアイテム』……?」


 その字面に惹かれた僕は、思わず動画を再生してしまう。


「ダンジョンの最深部からお届け! アビスウォーカーのタクトと!」


「ミツヤです!」


 動画に映ったのは、二人組の若い男性。

 独特な挨拶は美玲で慣れたけど、みんなこういうのを考えているんだな。


「皆さん見ましたかニュース! 翠谷台のフォルモの災厄!」


「モンスターを謎の光が倒したって話だよね?」


「そうそう! 僕たち都市伝説を扱ってる人間からすると、これは陰謀を感じてしまうんですよね!」


「我々のチャンネルでは何度も取り扱ってきた『光の勇者復活説』! もしかしたら今回はそれに関係しているかもしれませんね!」


 あ、都市伝説ってこういう感じで出来るんだ。昔からこういう噂は話半分で聞いてはいたけど、まさか当事者になるとは。


「光の勇者はもう現代に復活しており、秘密組織とともに計画を進行しているのかもしれません!」


「でも、光の勇者はなんで今回姿を見せずに災厄を治めたのかな?」


「それが今日の動画と関係してくるんですが……光の勇者はかつて彼が隠した『伝説のアイテム』を回収したことを示したかったんじゃないかと思われるんです!」


 すると、動画に剣・鎧・弓・杖・ハンマーの5つの武器の画像が表示された。


「今回紹介するのは、この中の『弓』! 嵐弓らんきゅうツイスタリアです!」


 おお、弓! しかもなんかカッコいい雰囲気がある!


「光の勇者は全ての武器に適性があったらしいですが、弱い敵を一掃するのに弓をよく用いたらしく、それが嵐弓ツイスタリアなんですねー」


「でも武器なんてどれも同じでしょう?」


「いや通販番組みたいに言うなよ。ツイスタリアのレア度は『レジェンド』。レアドロップの中のレアドロップ品ですよ」


「でもお高いんでしょう?」


「だから通販番組みたいに言うな。……それが、なんと光の勇者は大災厄を治めた後、ツイスタリアを翠谷台のダンジョンに隠したとされているんです!」


 え……?


「ここで話が繋がってくるんですが、光の勇者は現代に復活し、ツイスタリアを回収するために翠谷台にやってきて、そのついでに災厄を治めた可能性があるんですね!」


「ついでって。レベル4の災厄を片手間ってどんだけ強いのよ」


「それが誇張でもないんですよ。伝説によると、ツイスタリアを持った光の勇者は、その名の通り嵐のように数多のモンスター相手に無双したとか。矢一本で100体近く吹き飛ばして、それを何発も打ったらしいですからね」


「どうです視聴者さん? 矢一本で100体って信じられます? ただでさえアーチャーは陰――」


 僕は動画をそこで止めた。


 翠谷台に、光の勇者が隠した伝説の弓がある。

 動画ではそれが光の勇者に回収されたかのように語られていたが――そんなわけがない。だってフォルモの災厄を鎮めたのは何を隠そうこの僕だからだ。


 都市伝説や陰謀論は信じない。その類が合理的な論を述べているのを見たことがないからだ。エンタメで見るならさておき、本気で信じている奴は非合理的だと思う。


 ――なんて、思ってはいる。思ってはいるが……。


「欲しいな、嵐弓ツイスタリア――!」


 そう思った僕は居ても立っても居られなくなった。興奮したまま眠り、翌日、興奮したまま学校で授業を受けた。



 ――放課後。


「どうかしてるな、僕は……」


 僕はため息をつく。横を見ると、遠くにフォルモの建物が見えた。


 そして、眼前には翠谷台ダンジョン。


 来てしまった。レアアイテム欲しさに。


「……これは合理的な行動だ。強くなるためのアイテムがあるかもしれないなら、行かない理由はないだろ?」


 僕はそう自分に言い聞かせると、矢をダンジョンの中に向かって放った。

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