第51話 合理的余波!
やあ、僕は影山英夢。世界最強の合理主義者を目指す高校生だ!
突然だけど、この世界で最強の武器って何かな? うんうん、人によって色々な考えがあるかもしれないね。
例えばーー剣はどうだろう。
攻守ともにバランスがよく、扱いやすさがピカイチの片手剣。重量と引き換えに圧倒的な破壊力を誇る大剣。目にもとまらぬ機動力を発揮する双剣。
それからーー槍という答えもあるだろう。
槍の強みはやはりそのリーチの長さにある。敵を一切寄せ付けず、わずかな隙を突いて敵に致命傷を与える槍は間違いなく最強候補だろう。
だが、あえて言おう。この世界で最も強い武器は『弓』であると。
弓は、それ以外の全ての武器を凌駕するほどの圧倒的な強さを持っている。そのことに、まだ僕以外の人類は気づいていない。
こう言うと、反論が上がってくるかもしれない。
『弓矢の威力は、ハンマーの破壊力には激しく劣るじゃないか』
『弓は矢を放つまでに時間がかかる。近距離戦になれば、ナイフに軍配が上がるはずだ』
『弓は使い手の実力によっては全く当たらない。確実に攻撃を当てるなら、レイピアに勝る武器はない』
では、これならどうだろう?
ハンマーをも遥かに超える、圧倒的な火力の一撃を放つことが出来る弓矢があったら?
ナイフによる刺突の、瞬きのような速度を超えるスピードで矢を放つことが出来るとしたら?
レイピアの間合いの何倍も遠くから、100%の確率で矢を当てることが出来たとしたら?
もし、そんなことが出来るとしたらーー間違いなく、弓は世界で最も強く――、
「ねえ英夢くん! これ見て見て!」
最も合理的で……ああもう!
休み時間。話しかけてくるのは比奈だ。
「比奈、前から言ってるだろう? 昼休みは合理的休息のための時間だよ。だから机に突っ伏して寝た方が……」
「そんなことより、これ見てよ!」
比奈はそう言って、しきりに僕にスマホ画面を見せてくる。なになに、これは……ネットのニュース記事?
「英夢くんのこと、ニュースになってるよ!」
ニュースの記事のタイトルは……『
謎の光って、もしかして……。
嫌な予感がした僕は、ニュース記事の続きを読む。
――
5/30 13時頃、東京都翠谷台の商業施設『フォルモ』駐車場にて災厄が発生。
災厄の規模は大災厄をレベル8としたうちのレベル4。ダンジョンの大きさはごく小規模だったのに関わらず、レベル4という異例な評価がされた。
評価の理由は、ダンジョンから溢れ出してきたモンスターの質にある。現地の冒険者の目撃証言によると、溢れ出てきたモンスターの数は優に100を超えていたという。
さらに、中でも脅威だったのが5体のダンジョンボスたち。5体は常に一緒に行動しており、鑑定スキル持ちの冒険者が見たところ、5体の力を総合すると10層フロアボスを遥かに超えていたという。
しかし、今回の災厄では死傷者は9名。前回、博多で起こったレベル4災厄の死傷者は100名を超えていたのに対し、圧倒的に少ない被害で終わった。
その要因は、現地の冒険者達が口々に話す『謎の光』にあった。
『光の雨が駐車場に降り注いで、モンスターを一斉に倒した』
そう話すのは、Aランク冒険者の山村さん。現地ではかなりの実力者と評される人物だ。
他にも、この『光の雨』を目撃した人物は数多くいるが、その理由は特定されていない。
――
これ……めっちゃ僕のことじゃん……。
幸い僕の正体はバレてないみたいだけど、このニュースサイトって誰でも見たことあるような有名なやつだよな? 全国の人がこれを見てるってことか?
「英夢くん有名人じゃん! やったね!」
「のんきだなあ。言っとくけど、僕は有名になりたいわけじゃないからな」
まあ、ここから僕が特定される可能性は低いだろう。<具現化>した矢を目下の敵に【必中】したというのは、僕のバックボーンを知らない人間にはあまりにも想像し難い。
――
謎の光を見た冒険者の中には、『光の勇者』の再来だと噂する人もいます。
――
「この光の勇者ってなんだろう……?」
「英夢くん、光の勇者知らないの!?」
ボソリと呟いた時、比奈が目を輝かせた。
「光の勇者っていうのはね、大災厄を止めたっていう伝説の冒険者だよ! すごく強かったんだって! 1万以上のモンスターを相手に無双! って感じで!」
伝説の冒険者ねえ。大災厄が60年前だから、偉人と比べれば信憑性はあるが、それでも眉唾ものだな。
「英夢くん、聞いてる!? 光の勇者はね――」
……そういえば、妄想が横にそれてしまっていたな。
――弓はこの世界で最も合理的で、最強の武器である。僕はそれを証明してみせる。
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