第48話 合理的戦法!【SIDE:比奈】
「凄い……あの人、2人用のベンチを振り回してモンスターと戦ってる!」
「今のうちに逃げよう!」
さっきの音で、モンスターたちの視線は一気に私に注がれた。散っていたモンスターたちがぞろぞろと集まってくる。
「やっぱり数が多い……災厄の規模が大きいんだ……!」
モンスターを睨みながら、私は美玲さんの言葉を思い出していた。
「いい? 比奈ちゃんのジョブはパラディン。パラディンは前衛で防御をすることに特化しているから、周囲と連携して戦うことが前提になる。……でも、仲間のフォローが貰えない時とか、一人で戦うこともあるわよね?」
「はい。個人的にはそこがかなり課題で……一人で有利を取りながら戦うと時間がかかるので、モンスターがすぐ集まってきちゃうんです」
「モンスターが集まってくるのは悪いことじゃないわ。時間をかけてでも1体ずつ倒すことが出来れば最終的には勝てるし、仲間のフォローを待つことだって出来る。じゃあ、何が問題だと思う?」
「……時間稼ぎをしている間に、モンスターに囲まれてしまうこと?」
美玲さんは頷くと、私の頭を撫でた。
「よくわかってるじゃない、正解! そう、問題なのはモンスターの対処が追いつかなくなって、その間に数で押し切られてしまうこと。じゃあ、そのうえで質問。どうしたらいいと思う?」
「えーっと、それは……」
この状況なら、あの時に美玲さんから教わった作戦が出来る!
「どいて!」
「ギャアアアア!!」
ベンチを振り回し、モンスターを蹴散らしていく。
その前に、いつまでもこのベンチじゃ戦ってられない。多分、この辺りに――、
「……あった!」
見つけた!
中学生の時、AEDと一緒に使い方を習った覚えがある。確か、この箱にある道具を使えば!
「……凄い、本当に出来た!」
簡易的な剣と盾が完成。普段使っているやつよりかなりチープだけど……これがあるだけでも立ち回りやすくなる。
「グオオオオオオオオオオオ!!」
「やばい! もう結構追いついて来てる……っていうかこんなに多かったっけ!?」
私は走る。モンスターを引き付けながら、目的地に向かっていく。
「よし、ここなら!」
私が戦う場所に選んだ場所。それはーーエスカレーターの上だ。
「ここからが正念場! <オートリカバリー>! <避雷針>!」
スキルを発動した私は、エスカレーターの上から下に向けて盾を構える。モンスターたちは一斉に2階に向かって昇ってこようとするが、エスカレーターの幅が狭いため1体ずつしか上がってこれない。
私は先頭の一体を盾で弾き返す。すると、先頭のモンスターが押された衝撃で後ろのモンスターたちも巻き添えで落ちていった。
「美玲さんの言った通りだ……一体ずつ、モンスターと時間をかけて戦う方法。それは、狭い場所で戦うこと!」
エスカレーターの上なら、モンスターは1体ずつしか昇ってこれない。弾き返すだけで何体か落とせるし、仮に反対側から逆走して昇ってきても弾くのは容易だ。
「行ける……! この作戦なら!」
モンスターが来るたび、私は盾を押し付けて落としていく。後は冒険者が来るのを待つだけ!
それから私は、モンスターを下に落とす作業を繰り返した。1体1対は大したことないけど、ずっと続くと流石に疲れてくる。
「おりゃああああ!! はあ、はあ、はあ……」
10分くらいが経過したころだった。息を切らしながら応戦していると、突然頭上でパリンという音がなった。
「グオオオオオオオオオオオオ!!」
ガラス張りの天井から、黒いモンスターが突入してきた。フォルモは建物の真ん中が吹き抜けになっているから、モンスターは天井から一気に下まで落ちていく。
「……なにあれ!?」
今相手してるモンスターより確実に強い。コウモリ人間みたいな見た目をした四本腕の化け物だ。
モンスターは辺りを見回すと、私と目が合った。
「……やばい!」
コウモリのモンスターは翼を動かすと、一直線に私の方に向かって飛んでくる!
「ギギギギギギギギギ!!」
「うわっ!」
ガラス柵を突き破ってきたモンスターは、そのまま私に体当たりした後、着地した。
私は床を転がり、その衝撃で盾と剣を落としてしまう。
「これ……まずいかも……」
私が倒れたことで、エスカレーターにいたモンスターたちも集まってきてしまった。
万事休す。授業でしか聞かないような、そんなどこか遠くにあった言葉が急に身近になってくる。
「でも……まだ! 【絶対反射】!!」
10秒間だけ使える絶対防御。最後の切り札を使い、私は武器を拾ってモンスターに斬りかかる。
コウモリ人間に刃が触れる。だが、大したダメージにはなっていないようだ。刃で首を跳ねようとしたとき、モンスターは剣を掴み、そのまま刃を握りつぶした。
「そんな……強すぎる……」
そこで、10秒が終わった。
「ブルルルァァ!!」
私に突進してきたのはイノシシのモンスター。私は再び衝撃で床を転がされる。
「ここで終わり、かあ……」
結局、勝てなかった。でもいいよね。皆が避難できることは出来たし。
何より、私ちゃんと戦えたんだ。そう思ったら、なんだか悔いはないかも。
……英夢くんなら、今の私を見てなんて言うかな?
「なるほど、進路を狭めて時間を稼いだのか。悪くない。僕好みの、合理的な戦術だ」
……え?
死を覚悟したその時、目を開くとそこにはーー、
「英夢くん!?」
「ナイス時間稼ぎだ。後は僕に任せてもらおうかな」
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