第46話 合理的必中!

――


レベルが22に上がりました。

レベルが23に上がりました。


<三倍>が<五倍>に変化しました。

<観察眼>が<慧眼>に変化しました。


――


 ん……何か声が聞こえる……?


「って、何寝てんだよ僕!?」


 周囲にモンスターは……いない。とりあえず安心。

 多分、さっきの衝撃で気を失っていた。レベルが上がったってことは、そんなに長い時間じゃないのか。


 ……待てよ? レベルが上がったってことは。


「勝ったのか……フロアボスに……」


 <ラショナル・ワン>を撃った上に未来視の力もフル活用した後だから、なんだか体がだるい。3層といえども、これだけ無防備だとさすがに危ない。とりあえず起き上がるか。


 立ち上がって、フロアボスがいた場所を見た僕は思わず絶句する。


「なんだこれ……!?」


 ダンジョンの壁が破壊され、フロアボスがいた方に向かってトンネルのように穴が空いている。まるでライターで紙の真ん中を炙った時に出来たような、荒々しくも綺麗な穴だ。


「なかなかエグい威力してるな……いや、僕が言うのも変な話なんだけど」


 僕は実際にダンジョンの壁を触り、その感覚を確かめる。硬くて冷たい。これを破壊するほどの威力であれば、フロアボスとてひとたまりもないだろう。


「そういえば、さっきレベルが上がったからスキルが変わったんだっけ……えっと」


 <三倍>が<五倍>になったのは、なんとなく意味がわかる。問題は<慧眼>の方だ。


「鑑定スキルとしての性能が上がったって意味なんだろうけど……そうだ!」


 これで今の僕の状態を見てみれば、未来視のことが何かわかるかもしれない。


 多分だけど、これはバフとかステータスの問題じゃない気がする。可能性が1番高いのは――、


「【必中】を鑑定する」


 すると、ウィンドウが表示された。


――


【必中】


 影山英夢の加護。覚醒段階2。


 能力は2つ。

 ①敵に攻撃を必中させる。

 ②未来を必中させる。


――


 ん……? なんか……知らない効果が追加されてない?


 鑑定スキルとしての性能が高いのは<慧眼>の方だ。だから、正確なのはこっち。だとしたらこれは……。


 わからないけど、多分こういうことだ。


 今まで、【必中】は敵に攻撃を必中させるだけの加護だった。しかし、レベルが上がるにつれて未来視の能力が覚醒した。


 この『覚醒』というのが、いまいち僕にはわかっていない。何か条件があるものなのか、レベルが上がることで誰でも起こることなのか――、


「そもそも、世界にレベル20超えてる人ってどれくらいいるんだろうな」


 わからない。つい最近までただの高校生だった僕には世界なんて想像も及ばないし、あまりにも情報不足だ。


 こういう時、色々教えてくれる人がいたらいいんだけどなあー。まあ、あまり期待できない。少なくとも身近にはいないだろう。


 なんにせよ、未来視は【必中】の効果の一部と分かっただけでも儲け物だ。念願のフロアボスも倒せたわけだし、今日は帰ろう。



 ダンジョンの外に出て、大きく伸びをする。今日は休日なので、帰ってまだゴロゴロできるというのがデカい。

 さて、家に帰ったら必要最低限の勉強をして、それから――、


「……!!」


 その時、僕の脳裏に電流のような感覚が走る。

 これは……前にも感じたことがある!


「未来視か!」


 見える。どこかの景色が――はっきりとではないけど、様々な声や情景が移り変わっていく。

 人の叫び声。モンスターの姿。ショッピングモールで、多くの人が走り続ける姿。


 そして――モンスターに囲まれる比奈の姿。


「はあ、はあ……なかなか慣れないな……」


 少し気分が悪い。これにも慣れなきゃな。


 どうやら【必中】の未来視は、近い未来ならコントロールして見られるが、遠い未来は突然流れ込んでくるらしい。


「さっきのは間違いなく、比奈だよな……」


 美玲の次は比奈がピンチか? まったく忙しいな、僕の身の回りは!


 背景の映像は、前に比奈と行ったショッピングモールの『フォルモ』だ。人が多かったから、おそらくは休日。

 そして一番重要なのは、なぜかモンスターがいたこと。


「多分だけど、災厄だ」


 街中にモンスターが現れることは災厄以外ではありえない。後は、いつ起こるのか。


 休日ってことは来週か? それとも再来週? まさかだけど――、


 僕はスマホを開いて、メッセージアプリを見る。最近は、メッセージアプリでもニュースを見ることが出来るようになっていたはずだ。


 『地域のニュース』タブで現在地に近いニュースを調べる。緊急で、何かないか!?


「……嘘だろ」


 僕は目視できる最も遠い位置に向かって<アンカーアロー>を放った。

 一刻も無駄に出来る時間はない。


 スマホの画面には――2分前の緊急速報。それは翠谷台みどりやだいのフォルモの駐車場で災厄が起こったことを知らせるものだった。

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