第44話 合理的鬼ごっこ!

 さて、どうなる……? これからの作戦のためにも、最初の反応はかなり重要だが……。


「ギイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!」


 下の層から聞こえてきたのは、まるで悪魔のようなけたたましい鳴き声。

 攻撃は命中したようだ。だが、フロアボスの体が相当硬いのか、<貫通>が通用しておらず、ただの傷にしかなっていない。


「やっぱ一筋縄ではいかないか……」


 さて、問題はここからだ。


 フロアボスは攻撃がどこから飛んできたのかと辺りを見回し、周囲に敵がいないことを確認すると――、


 ――階段に向かって走り出した。


「やっぱそうだよね!!」


 僕はフロアボスがこっちに来るのを見て、慌てて走り出す。


 ゴーレムの時は図体が大きかったから上の層に来ることは出来なかったけど、人間サイズのあいつならこっちに来ることだって出来る。

 捕まったら僕に戦う術はない。


「やらないに越したことはなかったけど……鬼ごっこ開始だ!」


 走り出した勢いで、<アンカーアロー>の位置まで瞬間移動。18層にたどり着いた僕は、19層にいるフロアボスに意識を向けた。


「ギイイイヤアアア!!」


 階段を昇り切った刹那。フロアボスの脚を、トラバサミが挟み込んだ。


 最初の方に覚えた<罠作成>スキル。ここにきてアーチャーが色々なジョブのスキルを覚えられることが役に立った。


「お互い、ここからは根気の勝負だな!」


 そう言って、僕はフロアボスに向かって矢を放つ。

 流星群のような矢が、フロアボスの体に直撃し、弾けた。


 防がれた! ゴーレムでも瞬殺できるような矢だぞ? なんでこれくらってかすり傷で済んでるんだよ!


「ギギャギャギャ!!」


 数秒後、フロアボスは怒った様子で足をばたつかせ、トラバサミを引きちぎった。

 殺意が高すぎる。なんとしても僕を殺そうとしてるよな、あれ!


「トラップ第二弾!」


 フロアボスが再び駆け出した途端、ダンジョンの壁から鎖が伸びてきて、フロアボスの四肢を縛り付けた。


 <罠作成>は<具現化>の効果と相性がよく、普通ならその辺りの雑魚モンスターにも破壊されるような罠も、より強くすることが出来る。

 これで時間を稼ぎ、奴が手間取っている間に矢で攻撃をする!


「ギギャギャギャ!!」


 ジャラジャラと鎖が揺れる音がし、数秒後に鎖が千切れる。とんでもないパワーだ。思った以上に時間が稼げない!

 一回足止めをするごとに何発かは攻撃を当てられるが、あまりダメージが入っているようには見えない。瞬間移動のおかげで追いつかれる可能性はほぼないと言っていいが……。


「ガルルルルル……!!」


 その時、フロアボスの回りを、19層のモンスターが囲った。

 オオカミ型の、群れで行動するタイプのモンスターのようだ。5体でフロアボスに向かって威嚇している。


「ギャギャギャ!!」


 オオカミが襲い掛かろうとしたその刹那。フロアボスは腕を振り下ろしてオオカミの胴体を真っ二つに引き裂いた。


 うわー、凄い!! まるで怪獣映画を見てるみたいだ。あんなに強いモンスターを、あんなにあっさり倒しちゃうのかよ!


 って、見入ってる場合じゃない! 僕もあのオオカミたちに加勢しないと!


「頑張れ! 名前も知らないモンスターたち!」


 矢を放ち、フロアボスに12発ほど当てたその時。フロアボスの体を矢が貫通した。


「よし、ようやくそれっぽいダメージが入るようになってきた!」


 しかしその刹那。


「ギイイイギャアアアアアアア!!」


 フロアボスはさらに怒り狂い、残り4体のオオカミたちを一瞬にして蹴散らしてしまった。


 なんか、余計怒ってる……? もしかして、怒れば怒るほど強くなるとか……?

 いや、漫画の主人公かよ! どんだけ底が見えないんだ!


「ギイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!」


 フロアボスが18層に続く階段を見つけてしまった。僕は慌てて17層へ瞬間移動する。


 瞬間移動して、罠に引っ掛けて、攻撃をして、また瞬間移動して。そんな応酬が何度も、何度も続いた。


 フロアボスは鎖に縛られて、棘に刺されて、炎に焼かれ、風に吹き飛ばされ、体を凍らされ、幾度も幾度も障害を乗り越えて、僕を殺すためにダンジョン内を駆け巡った。


 フロアボスは徐々にその体力を減らしていき、これを繰り返していればいつか勝てるわけだが……残念ながら、何事にも永遠はない。


「ヤバい! もしかしてもう3層!?」


 この戦法を使えるのも残り2回になってしまった。さすがにこんな化け物を地上まで連れてきて鬼ごっこをしていたら死人が出てしまう。

 ……いや、その2回もどうだろう。仮に2層に人がいたら、フロアボスに巻き込まれてさっきのオオカミみたいに殺されてしまうだろう。


「……やるしかないか」


 僕はくるりと向き直って、階段の方を睥睨した。

 1分後、そこを昇ってきたのは、全身に矢が刺さっている黒い悪魔だった。


「たくさん走って貰っちゃってごめんね。……直接対決といこうか!」

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