第43話 合理的授業!
魔舌の事件が終わり、いよいよ僕の学院生活に平穏が戻ってきた。
魔舌と取り巻きの二人がどうなったのかはわからない。魔舌は未成年なので懲役とはいかないだろうが、それなりの対応はされることになるだろう。
美玲も、攻略の翌日にゴーレム戦で配信が切れたことについて説明する動画をアップしていた。もちろん、僕の存在については箝口令を敷いてもらっているので安心だ。
美玲の死も回避できたし、まさしく一件落着。僕好みの合理的な展開だ。
……だけど、結局僕が未来を見ることが出来るのはなぜなんだろう?
「影山、聞いてるかー?」
ん……? 今、僕の名前が呼ばれた? 日本史の教師がこっち見てる?
「はい、聞いてます」
やばい。全然聞いてなかった。そういえば今授業中じゃん。
めちゃくちゃ平静を取り繕って返事したけど、絶対信じてもらえてない。これはしくじったか?
「じゃあ、さっきの問題の答えはなんだ?」
ごめんなさい、わかりません。これは正直に言うしか――、
「……大災厄」
その時、蚊の鳴くような小さな声が聞こえてきた。
耳を澄ませば、僕にだけ聞こえるような耳打ちのような声。
比奈だ。比奈がこっそり教えてくれてる!?
「大災厄です」
「……よろしい。そうだ、未曽有のダンジョン災害のことだ、よく覚えておけよ」
危なかった! 比奈、本当に助かった!!
横に目配せをすると、比奈が僕にウインクをした。これは後で何か奢らないといけないな。
「ダンジョン災害は『災厄』と『大災厄』の二種類がある。どちらもダンジョンが突発的に発生し、モンスターが溢れ出る災害のことを表しているわけだが――とりわけ後者は60年前の大規模な災厄のことを指す」
まあ、これは社会常識レベルの知識だな。その頃は一般人がダンジョンに入ること自体が出来なかったとか。
「国民の多くを巻き込んだ事件、大災厄によって国民の意識は変わり、武器の携帯や一般人がダンジョンに入ることを許可する法案など、国民の自衛を促す法律が制定された。その結果、現代では冒険者やダンジョン配信者はごく当たり前の話になっている、というわけだ」
世紀の大事件、というように言われると僕には関係ない話のように思えるが、実際この日本では、地震は年間2000回ほど発生している。
さすがに災厄はそれよりかなり少ないが、それでも無関係ではないということだ。
「とはいえ、これはかなり常識問題だな。星翔、次は影山に助け舟を出さなくていいからな」
いやバレてるじゃん!!
*
休みの日。いつも通りのダンジョン攻略。だが、今日はいつもより足を伸ばしている。
「よし、19層も問題なし、と……」
上の層から下の層に向けて矢を放ち、安全を確保しながら探索をする。
もはやこのやり方にもだいぶ慣れてきたものだが、今日は特に警戒心を高めている。なんせ、
ここ最近は強いモンスターと戦っていなかったから感覚が鈍っているが、この辺りのモンスターと正面から戦ったら今の僕じゃ瞬殺される。だから丁寧に、遠くからチクチクと攻撃しているわけだ。
ひー。ここまでは幸い何事もなく進めてるけど、少しでもミスがあったらお陀仏と思うと怖いなあ。
「……!!」
その時、僕は全身に鳥肌が立つのを感じて足を止めた。
「……なんだこの気配!?」
今までに感じたことのないオーラ……というか、殺気!?
いや、これと全く同じではないけど、近い気配を感じたことがある。この気配のジャンプアップ具合は間違いなく……。
「フロアボス、そこにいるのか……?」
間違いない。この先に階段があって、その先にフロアボスが待ち構えている。僕はその巨大なオーラに探りを入れてみる。
本体は……思ったより小さい。サイズは人と同じくらいか? 二足歩行で、全身が真っ黒。頭には大きな角が生えていて……これは、ヤギ?
「弱ったなあ、そう来たか……」
あいにく20層のフロアボスの情報はブレイブストリームには出ていなかった。20層まで到達したことのある冒険者は間違いなくいるはずなので、情報を流していないのだろう。
勝てるかなあ。こいつ、めちゃくちゃ強いぞ。19層のモンスターがバイクだとしたら、奴はトラックくらいの差がある。
向こうは僕の存在に気づいてないみたいだから、引き返すなら今だ。
でも、相手のことを何も知らないで撤退するなんてあまりにも非合理的だ。
いざとなったら瞬間移動で逃げるという選択肢もあるが、負けを前提に立ち回るのもまた非合理的。やるからには勝ちを狙いたい。
「……そうだ!」
僕はあることを思いつき、準備を始めた。
10分後。僕は階段の近くで大きく深呼吸をした。
「行くぞ……まずは第一射!」
そう言って、フロアボスに向かって無数の矢を放った。
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