第41話 合理的バトンタッチ!

「誰だ? もしかして援軍!? ……にしては弱そうだな」


 すげー、本当に出来ちゃったよ瞬間移動……あの人も、この人も、<観測者>で見てた人だ。


「っていうか、ここまで来てくれたのね。英夢のことだから遠くから矢を飛ばしてくるのかと思ってたわ」


「それでもよかったけど、美玲に何かあったら気分が悪いからね」


 多分、前に見た血まみれの美玲のビジョンはこの時のことだったんだろう。美玲はゴーレムとの戦いで死ぬはずだった。


 だから、僕がゴーレムを攻撃した衝撃で岩が落ちてきて死亡、みたいなパターンは潰しておきたい。そのために僕はここまで来た。


「私に何かあったらって……私のことが心配で、大事だから来てくれたってこと!?」


「うんそうだよ。でもなんか言い方変じゃない?」


 それに顔がめちゃくちゃ赤いし、様子がだいぶ変だな。


「それにしても、僕のことを信用しすぎじゃないか? 助けに来ない可能性だったあったんだぞ?」


「それはないわね。英夢は助けに来るってわかってたから。それに、信用しすぎは英夢もよ。途中で止めに入ってこなかったのはその証拠でしょ?」


 まあ、美玲が諦めてないのに僕が出張ったら消化不良になりそうだったしな。


「で、やってみてどうだった?」


「……やっぱり焦ってたんだと思う、ゴーレムを早く倒さなきゃって。でも、その結果こういうことになったし、私のファンを危険な目に遭わせた」


 まあ、危険な目に遭わせたのは間違いなく魔舌だが。


「これからは、ゴーレム退治には固執しない。信頼できる仲間やファンと、本当に価値のある冒険をしたい。……なんて、英夢からしたら笑っちゃう?」


「いいや、そうでもないさ」


 ……っと、そんなこと言ってる場合じゃないんだった。


「前衛職の人たち。もう下がって大丈夫ですよ。<避雷針>も解除してください」


「正気か!? そんなことしたら……」


「大丈夫ですよ、僕が止めるので」


「だ、駄目だ! もう防ぎきれない!」


 その刹那。<避雷針>が解除され、ゴーレムが僕の頭上に拳骨を振り下ろしてきた。


「おっと!」


 僕は右手を上に挙げ、ゴーレムの拳骨を手で受け止めた。


「痛いなあ……流石に片手はきついか」


「嘘だろ!? なんで一人でゴーレムの攻撃を受け止められるんだよ!?」


 ゴーレムは危険を察知したのか、僕から離れてこちらを睥睨してくる。


「さて、ゴーレム。君と直接戦うのは初めてだね。普段は姿も見せず攻撃しちゃってごめん」


「ゴオオオオオオオオオオオ!!」


「でも、今日は念願の直接対決だ。僕の合理性と君のフィジカル。どっちが上か決めよう」


 ゴーレムは激しくいきり立つと、ズシンズシンと地面を揺らしながら走る。一歩踏み締めるごとに振動がフロア中に広がっていく。


「<合理的ストレート>!」


 僕とゴーレムの拳がぶつかり合った瞬間。激しい爆発音とともにお互いの体が弾き飛ばされた。


 くそっ、さすがに腕力比べは相手の方に利があるか!


「な、なあ……これって夢……じゃないよな? 走馬灯っていうの? ……死ぬ寸前に見る幻影みたいな」


「違うんじゃないかな……だって振動もきてるし、ゴーレムの粉塵が顔に当たるのわかるし……何より、心臓がめちゃくちゃ早くて、現実だって言ってるんだよ」


「どっちにしろ……凄すぎる! あいつ、マジで何者なんだよ!?」


 やれやれ、僕もまだまだ合理性に欠けているな。


 こんな風に前線に出る必要はなかったのに。遠くから矢を撃てばそれだけでいつも通り勝てるのに。

 今はこうして、褒めそやされながら戦うのが案外悪くない。


「ゴオオオオオオオオオオオオオオオ!」


「<ラピッドアロー>!」


 ゴーレムが放ってきたストレート。今度はそれに、具現化した矢を撃ち放った。

 すると、木の幹ほどはあるゴーレムの太い腕が、まるできのこのようにあっさりと裂けていく。


 ゴーレムの腕が衝撃で落ちた。片腕を失ったことで、ゴーレムはかなり狼狽えているようだ。


「何してるか全然わかんねーけど……ゴーレムと一方的に戦ってるぞ!?」


「それだけじゃない……! なんでこんな化け物じみた戦いをしてるのに、なんでこっちに瓦礫の一つも飛んでこないんだよ!?」


 当然だ。どんなに小さな可能性でも美玲に被害が出るようなことは潰しておくため、飛んでいる岩の破片は全部矢で粉砕している。


「当たり前よ。私たちの前にいるのは世界最強の高校生――いえ。世界最高の合理主義者ラショナリストだからね」


 ――嬉しいこと言ってくれるじゃないか。


 だったら、合理主義者らしく、1本の矢でこの戦いに終止符を撃とう。


「<チェインアロー>!」


 放たれた、一筋の光のような矢。それはゴーレムの頭部を貫通し、破壊した。

 だが、まだ終わらない。矢はまるで水中を泳ぐ魚のようにくるっと方向を変え、今度はゴーレムの残ったもう片腕を破壊した。


 <チェインアロー>は、【必中】を応用した新技だ。対象の形がある限り、何度でも方向を変えて獲物に当たり、貫通を繰り返して破壊し続ける。

 そして、<具現化>した矢が壊れることはない。残酷で、執拗で、それでいて合理的な一撃だ。


「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 最終的に、ゴーレムは砂粒の小さな山になって絶命した。


「すげええええええええええええええ!! ゴーレムを倒しちまった!!」


 冒険者たちが歓喜の声を上げる。さて、これで無事ミッションは完了だ。


「また借りを作っちゃったわね。英夢」


 美玲が微笑みかけてきた。僕も笑って返すが、すぐに<アンカーアロー>の準備をした。


「どうしたの? ゴーレムは倒したんだし、もう少しゆっくりしていけばいいのに」


「美玲たちは脱出アイテムで地上に戻ってくれ。……僕は先に行くよ」


 そう。やり残したことがあるからね。



「おいやべえぞ凶! 動画に証拠も残っちまってるし、さすがに今回は言い逃れ出来ないぞ!」


「お、オレは悪くねえだろ! これはそういう企画だったんだよ! それに……逃げなきゃオレたちだって危なかった!」


 地上に戻るとすぐ、僕は目当ての人物を発見した。


「やあ、奇遇だね。3人で何してるの?」


 僕は笑顔で、魔舌たちに話しかけた。

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