第40話 合理的逃亡!
「お、おい! 凶がいなくなったぞ!? どうなってるんだ!?」
「他の二人もいない! デビルズタングの3人だけ脱出したんだ!」
慌てふためく冒険者たち。そんな中でも、ゴーレムはお構いなしに攻撃をしてくる。
「うわあああああああ!!」
また一人吹っ飛ばされた。まるで怒った子どもがおもちゃを投げつけるようにあっさりと。
「簡単な話よ! 私たちは嵌められたの! あの3人組が脱出するための囮にされたの!」
脱出アイテムは、使用してから実際に移動するまで若干のタイムラグがある。
人間にとっては気にならないほどの一瞬のタイムラグ。だが、モンスターからすればそれは大きな隙だ。
魔舌たちは他のメンバーを囮にして、そのタイムラグの時間を稼いだ。自分たちが安全に脱出するために。
あまりにも身勝手な話だが、現場の人間からすれば魔舌を責めている時間はない。目の前で、
「どうする!? 俺たちも脱出するか!?」
「バカ、誰も動かなかったら隙だらけになって全員やられるだろうが!」
「でも、俺まだ死にたくないし……お前、さっきゴーレムの攻撃を一人で止めるとか言ってただろ!? お前が時間を稼げよ!」
「落ち着いて!」
いがみ合う声の中、美玲がそれをぴしゃりと止めた。
「仲間割れしてる場合じゃない! 今は連携を取って全員で戦わないと、壊滅するわ!」
「で、でも……あんな化け物相手にどうやって戦えば!?」
「パラディンとガーディアンは前に! 全員で同時に防御スキルを使って! 3人以上ならゴーレムの攻撃も受け止め切れる!」
絶望的な状況の中、美玲という一筋の光が生まれた。冒険者たちは顔を見合わせ、言われた通りに防御スキルを発動する。
「来るぞ!」
「ゴオオオオオオオオオオオ!!」
ゴーレムが津波のような勢いで手のひらを振り払う。ゴーレムの手のひらと前衛職の盾がぶつかり合い、拮抗する。
「す、すごい! ミライちゃんの言う通りにしたら防げた!」
「あんたたちもやることやって! 行くわよ!」
美玲は2本の剣を握って前に出る。ゴーレムの体に斬撃を放つと、爆発のような音とともに攻撃が直撃する。
「……全然効いてないじゃない!」
「俺たちも続くぞ!」
他の冒険者たちも各々で攻撃を放つ。要塞のようなゴーレムの体に、次々と攻撃が集まっていく。
……しかし。
「ゴオオオオオオオオオオオ!!」
「おい! あれ本当にダメージになってるのか!?」
ゴーレムは攻撃を受けてもまるで様子が変わらず、さっきと同じ勢いで暴れ回っている。
「ゴーレムは高い攻撃力と防御力を誇っている。だから、持久戦になるのは必定。とは思っていたけど……」
それにしても、あまりにも攻撃が効いていない。
前衛たちは攻撃が自分に集まるスキル<避雷針>を発動しているので、その間は他のメンバーは攻撃できる。だが、それはすなわち前衛の限界が来れば壊滅ということ。
美玲の号令に従って攻撃を続けるが、決定打が生まれる気配はない。
美玲は最も合理的な判断をしている。ただ、途中で人員が抜けたことが祟って戦況はかなり悪い。
「も、もうダメだ! 耐えられない!」
わずか2分後。前衛が声を上げた。
彼らの持っている盾はひび割れており、防御スキルの効力もかなり弱くなっているようだ。
「どうすんだよ!? ゴーレムが弱ってる様子はないぞ!?」
「このままじゃ全滅だ!」
冒険者たちが狼狽える中、美玲が大きく息を吐く。
「……やっぱり私たちじゃ駄目ね」
「何言ってんだよ!? まさかあんたも凶みたいに逃げようってんじゃ……!」
「逃げるわけない。ただ……ここまでやっても駄目なんて正直認めたくないわね」
美玲は球体カメラを引き寄せ、電源ボタンを長押しした。配信が停止し、電源が落ちたカメラは光を失う。
「この結果は見えてたのかしら? でも、あんたにしてはかなり長いこと信用してくれた方なんじゃない?」
「……何言ってるんだ?」
美玲の言葉を聞いた冒険者たちは困惑した。意味のわからないその言葉。
だが、その意味は僕には伝わった。
「バトンタッチ。英夢! 思いっきりやっちゃって!」
やれやれ、やっと僕の出番か。
「<アンカーアロー>」
具現化した矢を壁に刺すと、そこから先の視界を見ることが出来る。それは、矢が<観測者>の効果を発揮しているからだ。
では、壁に刺した矢に脱出アイテムの効果を発揮させたらどうなるだろう?
一見すると脱出アイテムは、ダンジョンの中と外を繋ぐだけのもの。だが、解釈を変えればそれは『瞬間移動』。
この地点から、3層、5層、7層、9層、そして10層に刺してある矢を順に辿っていけば――!
「信じてたわよ。来てくれるって」
「まったく、呼ぶのが遅くて待ちくたびれたよ」
――ダンジョンの入り口から10層まで瞬間移動できるというわけだ。
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