第39話 合理的ゴーレム!
「よっしゃ! 10層への階段見つけたぜ!」
そんな声が上がったのは、事件から30分ほど経った頃だった。
「よくやった! おい視聴者! ようやくゴーレムとのご対面だぜ!」
魔舌は嬉しそうにカメラに喋りかけると、球体カメラの位置を動かしてご機嫌に階段を見せた。
メンバーはあの事件からさらに5人減っており、残り28人。雑な連携のせいで前に見た美玲の配信よりも人数の減りが早いが、そこは数でカバーしているという感じだ。
「よし! じゃあ早速10層へ行くぜ!」
上機嫌に階段を降りていく魔舌。それに続いて、美玲たちも10層へと進んでいく。
その先は、いつも見てるようにだだっ広い空間。そしてその奥に、フロアボス。
「グオオオオオオオオオオ!!」
うねるような地響きと、壁に反響する大きな叫び声。あまりの衝撃に、魔舌たちは思わず耳をふさいだ。
「……おいおい、聞いてねえぞ? ゴーレムってあんなに大きいのか!?」
彼らの前にいるのは、体長10メートルは超えているような岩石の巨人だ。その立ち姿はまるで、中世に作られた巨大な石像が息をしているかのようだ。
すごい迫力だ。今までは遠くから攻撃するだけだったから気づかなかったけど、魔舌たちと並ぶことでその巨躯が際立つ。
「へ、へへ! まあ大したことねえよ! オレたちならこいつくらい余裕だろ! なんせ、9層から1層先に進んだってだけなんだからな!」
魔舌のその認識は間違っている。最初にゴーレムを倒した時、僕は確かにゴーレムとそれ以外のモンスターの実力差を感じた。間違いなくゴーレムの方が1段階強い。
「1番槍はもらったぜ!」
その時、魔舌の後ろに立っていた金髪の槍使いが前に走り出した。持っている槍をぐるぐると器用に回し、ゴーレムに向かって突き立てようとする。
「バカ! よせ!」
そう叫んだのは現場のメンバーの誰でもない。僕だ。
「おい、ちょっと待て!」
そして、現場の人間が声を出した時にはすでに遅かった。
「岩石系の相手にはこれだぜ! <インパクトスピアー>!」
槍の先がゴーレムの足に近づいていく。その刹那。
「ゴオオオオオオオオオオオ!!」
ゴーレムが腕を振り下ろし、手のひらで槍使いの男を叩き潰した。
その時の音は、手のひらが地面とぶつかるバゴーンという音。それから、人が潰れるグチャッという音。どちらかだけだったかのような気もするし、両方とも確かに聞こえていたような気もする。
「おい、そいつを助けろ! まだ生きてる!」
「でも、助けるって言ったって……どうやってだよ!?」
僕と魔舌たちは別の場所にいる。だが、きっと気持ちは同じで、認識を改めた。
魔舌たちでは、ゴーレムに勝つことが出来ない。
「嘘……人があんな簡単に……?」
「聞いてた話と全然違うじゃねえか! 人数で押せば勝てるって……」
メンバーは萎縮した。それほどまでに衝撃的だったのだ。
危険はあるが、命だけは助かるはずだ。そんな感覚だったのだろう。
だが、これは画面の向こうの配信の話じゃない。徹頭徹尾、彼らは最初から自分の人生を歩んでいたのだから。
「狼狽えてんじゃねえよ! やることをやればいいだけだ! オレに続け!」
怯む仲間たちを煽動したのは魔舌だ。自慢の大きなハンマーを持ち、ゴーレムに肉薄していく。
「おらああああああああああ!! 死にやがれ!!」
ハンマーを横なぎに振り払った途端。ゴーレムはその一撃を軽く受け止めた。
「なっ、効かねえ!?」
反撃するのはゴーレムだ。もう片方の手を、まるで机の上のゴミを払うようにして、薙ぎ払った。
もちろん、体長10メートルの化け物がするそれは、魔舌にとっては強烈な一撃だった。
「うわあああああ!!」
衝撃で壁に叩きつけられる魔舌。他のメンバーたちが萎縮していると、ゴーレムが彼らを襲い始めた。
「嫌だ! 死にたくない!」
「お前、パラディンだろ!? さっき守るとか豪語してたんだから、行けよ!」
土壇場で、チームの仲の悪さはもろに影響した。責任の押し付け合いが始まり、ゴーレムの攻撃も相まって阿鼻叫喚だ。
「……企画内容変更だ」
その時。へたっていた魔舌がポツリとつぶやいた。
「企画変更……いや、前からそのつもりだった! デビルズタング恒例の、ドッキリ企画!」
突然の魔舌の発言に、皆が困惑する。しかし、すぐにその意味はわかった。
「検証! 9層までに言ったことを、メンバーは実行できるか!?」
「……はあ?」
「お前ら、9層までにゴーレムなんて余裕とか言ってたよな!? ゴーレムを前にして、同じことが言えるか!? 実行できるか!? これはその検証なんだよ!!」
魔舌はそう言うと、ニヤリと笑った。
「だから、オレはカメラの向こうからその様子を見させてもらう」
そう言って、魔舌は懐から脱出アイテムを取り出し、その場から消え去った。
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