第37話 合理的リスナー活動!
それからデビルズタングとミライのコラボ配信が告知され、日程が決まって、気づけば配信の当日を迎えていた。
ミライたち攻略パーティの人数は、直前の募集だったにも関わらず、最終的に35人になったらしい。もちろん、その中に僕は含まれていない。
コラボが決まった日以降も、魔舌に再三釘を刺されていたから仕方ない。
……とはいえ、そのまま放置は流石にないよなあ。
「一応、ここから配信を見ておくか」
ダンジョンの入り口付近の木に腰掛け、僕はポケットからスマホを取り出す。
「……いや、そんなことしなくていいのか」
僕には<観測者>がある。ここに立っているだけで、中の様子は遅延なくチェックすることが出来る。こっちの方が合理的だ。
10層までなら問題なく感知することが出来る。
僕は深呼吸をして、いつものようにダンジョンの内部に意識を向けた。
「よぉ! デビルズタングの凶だ! 今日は予告していた通り、10層のゴーレムをぶっ潰しにいくぜ!」
お、なんか配信が始まったみたいだ!
収録機材の丸いカメラに語りかける魔舌。その背後には大人数が並んでいる。
改めて見るとすごい人数だ。それに、前回の美玲の配信の時よりも面子の雰囲気がかなり違う。派手な見た目をしている人が多くを占めているようだ。
そのメンバーの中に、美玲とその視聴者たちもいる。美玲はあまり居心地がよくないのか、いつもより少しむすっとしているような気がする。
「じゃあ、現在地は1層。ここから一気に行くぞ! 遅れたら置いていくからな!」
魔舌が腕を大きく上げると、彼の視聴者たちは盛り上がって声を上げた。
魔舌の人気もあってか、パーティのメンバーはかなり活気だっているようだ。
そして、その様子はダンジョン攻略の質にも直結する。1層はもちろん、2層、3層と楽々攻略していく。
……が、その雰囲気は長くは続かなかった。
「オラッ、遅えんだよお前ら! ノロノロやってんなよ!」
モンスターの攻撃を前線部隊が受け止めている最中、魔舌とその取り巻きの2人が前に出た。
危険を顧みず、モンスターたちを薙ぎ倒していく。結果だけ見れば、魔舌の活躍だ。
だが、それをよく思わない者もいる。
「ちょっと、何暴走してるのよ! 今のは危険よ!」
意を唱えたのは美玲だった。彼女は怒りの表情で魔舌に詰め寄る。
「なんだよ、勝ったんだからやり方なんてどうでもいいだろ?」
「一歩間違えたら危険だったって言ってるの。パラディンが前で攻撃を防いで、その間に後衛が攻撃を加える作戦だったでしょ!?」
「チッ、うぜえな……そんなのどっちでもいいだろ。こっちは危険なんか配信やってんだよ」
「あんたたちが危険になる分にはどうでもいいわよ。でも、さっきのはモンスターに付け入る隙を与えかねない。そしたら他のメンバーにも被害が出るわよ!?」
客観的に見て、美玲の意見の方が合理的だ。魔舌たちの意見にも正しい部分はある。個人が自由に動いた方がいい場面も大いにある。……が、それは魔舌が前線で全ての敵を破壊出来るほどの実力があるならばだ。
このパーティに際立った実力のある個人がいない以上、団結してモンスターを処理していった方が効率がいいことは間違いない。だから魔舌はただ暴走しただけだ。
「黙れ!」
その時、逆上した魔舌が美玲を突き飛ばす。ドンという音の後、メンバーたちは驚いて沈黙した。
「このパーティのリーダーはオレだろうが! 指図しやがって、ムカつくんだよ!」
魔舌は地面に倒れている美玲に舌打ちをすると、振り返って他のメンバーに笑いかけた。
「オレたちは自由に攻略する。今回の配信で見せ場を作れば、視聴者たちはお前らのことを覚える。つまり、知名度を獲得できる。その意味がわからないほど馬鹿なわけじゃねえよな?」
……なるほど。今回集まってきた魔舌の仲間たちは、それぞれが影響力を得たい個人だ。もし、今回の配信で知名度を挙げることを目的としているとしたら――、
最も合理的な方法。それは、個人プレーで成果を上げ、視聴者たちの注目を集めること。
「堅苦しい形式なんて無視だ! ここからは各々がやりたいように攻略しろ!」
魔舌の仲間たちが呼応するように声を上げた。美玲は口惜しそうにそれを見るだけ。
今は4層だ。個人で勝手に動いていても、モンスターが強くないからそこまでの支障は出ない。
だがこのやり方の真価が問われるのは、個人の実力だけでは太刀打ちが難しい10層付近――8層や9層だろう。
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