第36話 合理的コラボ宣言!
「まさか有名配信者のミライがお前と仲良しだったとはなあ、影山」
偶然にしては出来すぎてる……よな。おそらくさっきの配信を見てここに来たんだ。
ってことは、もしかして身バレしてるってことか!? そっちの方がかなりショックかもしれない。
「……個人的にあんたのことは知ってるけど、会うのは初めてよね?」
「知ってるのか?」
「『デビルズタング』。英夢はピンと来ないかもしれないけど、最近話題になってるのよ。いい意味でも、悪い意味でもね」
美玲が言う悪い意味とはもちろん、前に見たようなリンチの動画などのことだろう。
どう考えても皮肉だが、紹介に預かった魔舌はむしろ嬉しそうだ。
「今のは褒め言葉だと受け取っておくぜ。オレもあんたもお互い有名人だ。顔を合わせるのは初めてだが、こうしてお互いのことを知ってる」
「で、何の用? 疲れてるから挨拶なら後にして欲しいんだけど」
「そうじゃない。あんたに提案があるんだ。そのために配信を見て、急いでここまで来たんだぜ」
魔舌はスマホの画面を横にして僕らの前に突き出した。
そこに写っていたのは、以前見た美玲のゴーレム討伐動画だった。
「『デビルズタング』と『ミライ☆onAir』。この二つのチャンネルで合同でゴーレム討伐をしないか?」
これは俗に言うコラボっていうやつか? ……にしてはなんか剣呑な雰囲気だ。それにゴーレム討伐って……。
「断るわ。あんたとコラボするメリットがない」
「早い回答だな。メリットならあるぜ、ゴーレム討伐という悲願を達成できるっていう大きなメリットがな」
「出来るかどうかわからないことを言うのはやめたほうがいいわよ。あんたみたいに真剣に攻略をやってない人と組んだところでゴーレムを倒せるとは思えない」
おおお……結構言うな。そういえば美玲って最初に会ったときはこんな感じだったっけ。僕が特別嫌われたわけじゃないんだな、ちょっとよかった。
「真剣にやってないっていうのは違うな。オレも数字にはシビアにやってる。最近はどこぞの陰キャラに邪魔されたせいで
魔舌は僕を睥睨した後、ニヤリと口角を歪に吊り上げた。
「そこで提案だ。オレたちはゴーレム討伐に向けて人員を集めた。総勢20人、選りすぐりだ。もちろんメンバーは全員プロの冒険者。そこにオレとここにいる二人が加わって、23人」
20人といえば、前に美玲が集めた人数と同じだ。それだけいれば、ゴーレム討伐も現実味を帯びてくる。
「そこにミライ☆onAirの視聴者を加えれば、相当な精鋭部隊が出来るはずだ。今、これだけの戦力を集められるのは、グイグイ伸びてるオレたちくらいだ。そうだろ?」
それだけの戦力があればゴーレムを倒せるかもしれない。素人の僕でもわかるんだから、美玲はそれ以上にそのことを感じ取っているはずだ。
「どうだ? そろそろオレと組む気になったか?」
「……でも、私はあんたの動画のやり方が好きじゃない。第一、視聴者層も違うはずよ」
「好きか嫌いかはどっちでもいい。問題なのは、ゴーレムを倒せるかどうかだ。あんたも前の動画で攻略に失敗したとき、アンチから色々言われてるんだろ?」
美玲が図星を突かれたとばかりに目を見開いた。美玲が抱える視聴者の数は多い。その中には、前の攻略失敗をよく思わない人間もいるのは当然だ。
「美玲。こんな奴の話、耳を貸す必要は――」
「部外者は黙ってろよ。関係ないだろ、クソ陰キャ野郎」
釘を刺されてしまった。それに……僕が口を挟んでも意味がなかったかもしれない。今の美玲の表情は――、
「……ゴーレム討伐の間だけ協力する。それでいいのね?」
「ああ、それで構わない。オレたちもあんたもゴーレムを倒して、ハッピーエンドだ。どうだ、悪魔と契約する気になったか?」
数秒の間、美玲は魔舌の顔を見つめると、舌打ちをした。
「わかったわ。組みましょう」
「そうこなくっちゃな。あ、そうそう。そこの陰キャラは連れてくるなよ。せっかくの配信がつまらなくなっちまうからな。じゃ、詳細は追って連絡する」
デビルズタングの3人は背を向けると、満足げな様子で帰っていった。
「ごめんね2人とも、あんな奴らと組むなんて言っちゃって。……でも、私も配信者である以上は退けないし、退きたくない」
嫌な予感がする。先日の美玲が血まみれで倒れるビジョンについてだ。
今日のダンジョン攻略でバーバリアンを倒したことで、あの未来は回避できたと思っていたが、もしかして……あれはゴーレム討伐の未来のことを暗示していたんじゃないか?
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