第35話 合理的協力プレイ!
――
・え? 嘘だろ?
・なんでバーバリアンが3層にいるんだ?
・三人とも逃げて!!
――
「そいつは5層のモンスターよ! 私たちじゃ勝てない!」
美玲の声を聞き、事態を把握した比奈が走り出す。
こいつが噂のバーバリアンか。背丈は2メートルほどで大きく、腰巻きをした原始人のおじさんのように見える。しかし、肩に担いだ棍棒と左手に持ったモンスターの生首が、普通じゃないオーラを放っている。
「英夢、危ない!」
刹那、バーバリアンが棍棒を僕の頭に目掛けて振り下ろしてきた。
「おっと」
僕の顔面に表面がボコボコの棍棒が捉えようとした刹那。僕は右手でその一撃を受け止めた。
「なんでそんな危なげもなく止められるのよ!?」
「なんでって、レベル差があるからとしか……それより、こいつはまだ倒さない方がいいんだよね?」
僕はバーバリアンの腹に蹴りを入れ、20メートル以上離れたダンジョンの壁まで吹っ飛ばした。
ーー
・え、バーバリアンがいるのもヤバいけど、それを足蹴にする仮面の人は何者なの?
・仮面の人ってそんなにレベル高いの!?
・さすがにバーバリアンのコスプレした一般人だろ
――
コメント欄はかなりざわついているようだ。だがそんなことは正直どっちでもいい。
「なあ、こいつって5層のモンスターなんだろ? なんでここにいるんだ?」
「『層渡り』してきたのよ! モンスターは時々、生息している層から移動することがあるの!」
それでここまで上がってきたのか。
じゃあ、もしかしたら他にも層渡りしてきてる個体がいるんじゃ……ちょっと見てみるか。<観測者>!
辺りにモンスターは……お、いたいた。この近くにいるバーバリアンの数はあと3体。こっちにはまだ気づいていないようだ。
「比奈! ミライ! サポートするから、二人であのバーバリアンを倒してくれ!」
「ええっ!?」
「無茶よ! 私はともかく、今の比奈ちゃんの実力じゃ防ぎきれないわよ!」
「だから、そこで僕がサポートするんだろ」
バーバリアンが壁にめり込んだ状態からゆっくりと起き上がる。僕は前方のバーバリアンに向かって右手を伸ばす。
「<ディセラレイトアロー>」
<具現化>した質量のない矢。それはバーバリアンの体に直撃すると、一気に奴の動きを鈍くした。
「相手のスピードを遅くするスキルだ。これでバーバリアンはさっきの半分くらいのスピードでしか動けない」
――
・仮面の人、今何かしてた? よく見えなかったんだけど……
・敵を遅くするスキルって、デバフ系かな? 仮面の人はマジシャン系のジョブ?
・マジシャン系だとしたら力強すぎない? バーバリアンを片手で止めるのはいくらなんでも……
――
残念ながら僕はアーチャーなんだけど……それを当てている視聴者は誰もいない。
バーバリアンの動きが悪くなったのを見て、最初は不安そうだった二人だが、覚悟を決めたように奴の方を向いた。
「勝てるかわからないけど……一か八かやってみよう!」
「……そうね、行くわよ! 比奈ちゃん!」
先陣を切るのは比奈だ。盾を前に出すと、バーバリアンの一撃を受け止める。
「半分でこの威力!? でも……受け止められる!」
まるでビルの屋上からアスファルトに岩石を叩きつけたような爆音。盾と棍棒が火花を散らすような勢いでぶつかり合っている。
「比奈ちゃんナイス! 今度は私の番!」
盾に弾かれて体勢を崩したバーバリアンに、美玲が追撃する。炎と氷を纏った双剣が巨大を切り刻んでいく。
動きが鈍くなったバーバリアンはなす術がない。美玲に棍棒を振るうが、機敏な彼女の動きの前には逆効果でしかない。
「私も! <シールドストライク>!」
比奈が盾を構えて突進し、バーバリアンの体を吹っ飛ばす。相当なダメージが蓄積していたバーバリアンは、そのまま倒れて絶命した。
「「やった!!」」
――
・バーバリアン討伐ナイス!!
・可愛くて強いって隙がなさすぎだろ!
・二人ともおめでとう! かっこよかったよ!
――
たくさんの賞賛のコメントを見て、二人とも嬉しそうだ。
「皆ありがとう! 正直ピンチな場面だったけど、応援のおかげで勝てたわ!」
「仮面の人もありがとう……って、何してるの?」
そっぽを向いている僕に、比奈が声をかけてくる。
「ん? いや、近くにバーバリアンが3体いたから、倒しておいたんだよ。気づかれると厄介だろ?」
――
・え、そんなにあっさりバーバリアンを3体倒しちゃったの?
・さすがに規格外すぎ。もう何があっても驚かない自信がある
・仮面の人はプロの冒険者なのかな。実力的に有名な人だと思うけど、そんな特徴の人なんていたっけな……
――
こうして、僕と比奈の初配信は幕を閉じたのだった。
「いやー、二人とも今日はありがとね! いつもより配信が盛り上がってたみたい!」
「こちらこそ、配信に出してもらえて嬉しかったです! 美玲さんがよかったら、また一緒にダンジョン攻略したいです!」
配信終了後、地上に戻る。二人は先ほどまでの熱が冷めていないようだ。
配信が盛り上がったのは良かったけど、身バレは大丈夫だよな? あとで顔が写っていないかアーカイブで確認しないと。
「よう、楽しそうだったじゃないか」
3人で並んでいたその時。僕たちを呼び止める聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「……なんでお前がここに?」
そこにいたのは、魔舌だった。
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