第33話 合理的ストリーム!

「珍しいわね! 英夢からお誘いなんて!」


 週末、集合場所にやってきた美玲は上機嫌だった。


「比奈ちゃんも久しぶりね。前はあまり話せなかったから楽しみだったわ!」


「私もミライちゃん……じゃなくて美玲さんと一緒にダンジョン攻略できるなんてとっても嬉しいです! 私、去年バーバリアンを倒した配信が好きで!」


「アオイと2人で協力したときのやつね。英夢と違ってなかなか私の動画を見てくれてるのね、あれは再生数伸びてないけど、個人的にはトップ3に入る神回なの!」


 英夢と違っては余計だと思うんだが! ……まあ、そんなに動画は見ないから言っていることは正しいか。


 それにしてもこの2人、既に仲良さそうだな。比奈は元々友達が多いし、美玲も配信者でコミュニケーション能力はピカイチだ。

 あれ、もしかしてこの中で僕が一番コミュ力ない?




「で、今日は比奈ちゃんのレベル上げって聞いたけど?」


 ダンジョンに到着すると、美玲が切り出した。


「はい! 私、もっと強くなりたくて!」


「なるほどね、もちろん協力するわ……そうだ!」


 美玲は手をパンと叩くと、懐から球体の機械を取り出した。


「せっかくだし、レベル上げの様子を配信してみない?」


 美玲が持つ機械は、小型のカメラだった。確か、ダンジョン配信者がよく使っているタイプの。


 ピンポン玉くらいのサイズの、メタリックな色合いの機械。美玲はそれを宙に投げた。

 すると、カメラは宙に浮き、自動で被写体である僕らにレンズを向けた。


「ええっ、いいんですか!? 私があの『ミライ☆onAir』に出られるなんて!」


 目を輝かせる比奈。僕にはその気持ちは全く理解できなかった。


「……なんでそんなに嬉しそうなんだ?」


「だって、私ずっとミライ☆onAir見てたもん! 人気チャンネルに出られるなんて光栄だよ! 英夢くんは嬉しくないの!?」


 嬉しくはない。嫌ではないが……合理性を感じられないと言うべきだろうか。


 配信は世界中に出るものだし、顔がネットに残ると色々不便そうだ。それに、人気者になりたいというような自己顕示欲もない。


「<具現化>」


 僕はスキルで仮面を作り出し、顔に装備した。

 これだけしておけば、僕だと特定はされないだろう。


「よーし、じゃあ始めるわよ!」


 美玲が指をパチンと鳴らすと、配信がスタートした。


「あなたの視線を未来永劫ロックオン! ミライです!」


 美玲がお決まりの挨拶をすると、僕らのすぐ近くにウィンドウが現れた。

 そこには配信に届いたコメントが表示されているようで、配信を初めてまだ1分も経っていないというのにかなりの数のコメントが来ている。


――


・ミライちゃん! 配信ありがとう!


・ゲリラ配信たすかる


・ロックオン!


――


「今日はゲリラ配信ということで、リハビリも兼ねて友達とダンジョン攻略していくわ!」


――


・友達?


・え、なんかめちゃくちゃ可愛い子が映ってない?


・ミライちゃんの友達、レベル高くない?


――


「紹介します! 友達の比奈ちゃん!」


「は、はじめまして! 私もミライちゃんの配信が好きで! その、よろしくお願いします!」


 ガチガチで挨拶をする比奈。その初々しい様子も含めて視聴者たちからもかなり好感触なようだ。


「そしてもう一人が……仮面の人、でいいわけ?」


 美玲は紹介に困っているようだ。僕は縦に首を振る。


――


・は? 男かよ


・仮面の人って何だよ


・ミライちゃんの事守らなかったら呪うぞ!


――


 なんか僕にだけ当たりが強くないか!?


「じゃあ、今日はこの3人でダンジョン攻略をしていきます! とりあえず3層でいいかしらね。あ、そうそう。仮面の人?」


 先に向かって歩き出そうとした時、美玲が僕を指した。


「今日は進行方向にいる敵を全滅させるのは無しね? 私たちは比奈ちゃんのサポートだからね」


「わかってるよ」


 まあ、周囲の地形と敵の数は把握してるし、大丈夫だろ。


 そう思い、一歩踏み出そうとしたとき。


――


・進行方向にいる敵を……全滅?


・そんなこと出来る? そんなスキル聞いたことないけど


・いや、そんなこと出来るわけないだろ!


――


 あれ、なんかコメント欄が困惑してる?

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