第30話 合理的腕相撲
「ええええ!? 英夢、あんたどうなってるの!?」
うーん、僕もまさかこんなことになるとは思わなかった。まさかこのおもちゃみたいなポインター銃に【必中】の効果が適用されるとは。
ただ、冒険者も楽しめるようになってきるのか、反射神経もそこそこ必要でつい夢中になってしまった。本当ならもっと点数を落とす予定だったのに。
「お兄さん、凄いです!! 最高記録ですよ! ぜひギャラクシーレンジャーズに入隊しませんか!?」
さすがに点数を出しすぎたため、キャストさんが熱の入った様子で声をかけてきた。
2位が85000点だから、僕の記録は相当なものなんだろう。
「でも、これって
「違います! これは歴代記録です! お兄さんが過去最高得点です!」
……マジで? 今までは、85000が最高だったの?
他のゲストからの視線が痛い。キャストのお姉さんがあまりにも誉めやかすから、僕が1位だとバレてしまっている。
結局、僕はランキング入りの景品として、キャストさんからギャラクシーレンジャーズの隊員賞を貰ってしまった。
名前が刻まれたそのカードを見ながら歩いていると、美玲が僕の腕にくっついてきた。
「ねえ、英夢。その腕を見込んでやってほしいことがあるんだけど……」
美玲は上目遣いで、僕に媚びるような態度だ。これまでと様子が違う。
「実は、ディスティニーには『トレジャーエリア』っていうところがあるんだけど……そこで腕相撲ができる場所があるの」
「それをやってくれって話か? 何のために?」
「行けばわかるわ。……正直、英夢でも出来るかどうかわからない」
そのままトレジャーエリアに行くと、件の腕相撲会場はすぐに見つかった。
「ようこそ! 『バスターの闘技場』へ!」
入ると、トレーニングウェアに身を包んだキャストが笑顔で僕たちを迎えてくれた。
「ここでは、鉄人・バスターと腕相撲をすることが出来ます! バスターに勝つことが出来たら、景品として……」
キャストは背中に回していた手を前に出した。
「こちらの、ブラウニーのぬいぐるみを貰えます!」
出したのは茶色いクマのぬいぐるみ……いや、あれはタヌキかな?
「英夢! ブラウニーよ! あれが欲しいの! 他のブラウニーグッズはあらかた買ったけど、あれは勝たないと貰えなくて!」
なるほど、それで僕をここに連れてきたわけか。
「そして、挑戦者のあなたが戦うのは! この格闘場のチャンピオン! マッスルキング! バスターァァァァァ!!」
キャストがコールをすると、リング場に爽やかな笑顔を浮かべるマッチョが上がってきた。
とてつもない巨漢だ。全身が鎧のように筋肉に包まれているが、無駄な脂肪が全くついていない。そこまで絞るには眠れない夜もあっただろう。
「どう? 英夢、勝てそう?」
「いや、あれどう見ても元冒険者だろ。具体的なジョブはわからないけど前線で戦う系の」
パワータイプの相手は得意じゃない。おまけに、あの人はこれまで戦ってきた人間の中で一番力が強そうだ。
でも、一般人もこのアトラクションやるんだし、流石に手加減してくれるよな……?
「それでは、チャレンジャーの登場です!」
僕はリングに上がり、バスターの前に立つ。
「やあ、いい勝負をしよう!」
バスターは爽やかに歯を光らせると、リングの中央にある机に手を置いた。僕もそれに合わせて肘を机につけ、手を組む。
「ハハッ、君なかなか強いね?」
「いや、そんなことはないと思いますけど……」
「謙遜するなあ。でも僕はわかるよ。手が触れた瞬間、僕の筋肉が警告してくるんだよ。君と戦うのはやめた方がいいって」
あ、あれ? なんかバスターの笑顔が怖く見えてきたような……?
「でも、僕は負けないよ。この力を手に入れるために、絶え間ないトレーニングと食事制限を続けてきたんだ。君より僕の方が強い」
「じゃあ、手加減してもらえますかね?」
「いいや、少しでも出力を落としたら負けそうだからね。全力でやらせてもらうよ」
この人……大人気ないな!
「レディー、ファイッ!」
ゴングが鳴る。その刹那、僕は体が一回転するような感覚を覚えた。
バスターが、全力で僕の手を机に付けようとしている!
ヤバい! 後少し力を込めるのが遅れたらやられるところだった!
「僕の100パーセントに耐えるなんてなかなかやるね! でも、どれだけそれが続くかな?」
「舐めるなよ……!!」
しかし、簡単に折れる僕じゃない。力を込めると、徐々にバスターの優勢が覆され始めた。
「おっと、チャレンジャー! あの怪力無双のバスターに拮抗しています! こんな白熱した試合は見たことありません!」
「英夢、頑張って!」
痛い。腕がちぎれそうだ。でも、アーチャーの僕と同等の力量ってことは、レベルは僕の方が上!
「な、なぜだ!? 筋肉量は僕の方が上のはずなのに!!」
「筋肉量も、実践経験もあんたの方が上だと思うよ。でも……相手が悪かった!」
僕はさらに力を込めると、バスターの手を机に叩きつけた。
「勝者、チャレンジャー!!」
キャストが僕の腕を上げて勝利を讃える。見学していたゲスト達が拍手喝采を送る。一方で、僕とバスターは沈黙を保っていた。
「……完敗だね」
「いや、今のはどっちが勝ってもおかしく無かったよ」
「いいや、完敗さ。僕はプロだ。この手じゃ、ショーが継続できそうない」
まだ手がビリビリする。バスターも手をぶらんとさせているので同じなのだろう。
すると、バスターがもう片方の握手を求めてきた。
「この闘技場で全力を出したのは久しぶりだ! 次は負けないから、またやろう!」
僕はバスターと握手をしながら苦笑いした。
……正直、もうやりたくないっす。
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