第29話 合理的ディスティニー!

 翌日。僕と美玲は星景丘駅で集合することになった。


「英夢遅い! 遅刻よ遅刻!」


 先についていたのは美玲の方だった。前にあった時とは一転、モデルが着ていそうなおしゃれな服装をしている。

 彼女は有名人なので素性を隠すためか、サングラスに黒いキャップを付けて対策はバッチリなようだ。


「で、今日はどこに行くんだっけ? まだどこのお店も開いてない時間だと思うんだけど」


「あんたちゃんとメッセージ読んでる? デートといえばデスティニーでしょ!」


 デスティニー……夢のテーマパーク『デスティニーランド』のことか。


「それでこんなに早い時間に集合ってわけか」


「そういうこと。じゃあ善は急げってことで、レッツゴー!」


 電車に乗り1時間。現地に到着すると、開園時間前だというのに多くの人が並んでいた。


「……で、試験はどうだったの?」


「ん? まあまあってところかな。良くもなく悪くもない。僕が理想とする合理的な点数だと思うよ。ただ、強いていうなら世界史が――」


「そうじゃなくて。実技の方よ」


 圧勝だった。と言えばそれまでだが、僕なりに思うことはある。


 まずは魔舌。奴は僕に敗北し、保健室で軽く治療を受けて今は元気らしいが――それで態度を改めたという話は聞かない。

 むしろ昨日の夜になにやら配信で、僕の名前を伏せた上で『戦いで不正をする奴は許せない』、『オレは真の実力者だ』、『近いうちにデカいことをやる』と言っていたと比奈から連絡がきた。


 はっきり言って負け犬の遠吠えでしかない。しかし、あそこまでやられてまだそんなことを言っているとは、お灸が足りなかったかな?


 そして、僕と魔舌の戦いを見ていた同級生たち。彼らにも影響はあった。

 あの試合で<ラピッドショット>を始めとしたノーモーション攻撃を多用したため、様々な憶測が生まれているようだ。


 その大半が魔舌のように不正を疑う声だ。おまけに比奈が僕を応援していたのに対してやっかみのような声も聞こえてきた。


 だが、どちらもどうでもいい。人の意見に左右されるのは合理的ではない。


 僕は試合の内容を美玲に話した。最近獲得した<具現化>の話や、今のレベルのことも含めて。


「……あんた、すごいペースで強くなってない? レベル20って、どこかのギルドに所属すれば数年以内に年収1000万は固いわよ」


「そうなの? そんなに貰えるんだ」


 でも、もっとレベルを上げれば上を目指せるし、ここ最近の飛躍っぷりを見ると、ここで成長を止めるのも勿体無い気がする。


「――まあ、聞くまでもなかったわね。あんたに勝てるような学生がこの世にいるとも思えないし」


「じゃあ、今度は僕が質問してもいいかな? ……そのカチューシャは何?」


 美玲は会話の最中、ウサギの耳のカチューシャを頭に付けていたのだ。


「何って、『ラピリー』のカチューシャに決まってるじゃない。『ラッピー』の恋人の。知らない?」


 いや、それは知っている。彼女がディスティニーのマスコットキャラクターのカチューシャを付けているということは重々承知だ。


「……聞きたいのは、なんで付けてるのかってことだよ」


「私、仕事とプライベートはちゃんと分ける方なの。せっかくディスティニーに来たんだから、全力で楽しまないと!」


 ストイックだなあ。休日はインドア派の僕とは正反対だ。


「あ、そろそろ入れるわよ! 行く順番は調べてきたから、私に任せて!」


 入場ゲートをくぐると、美玲はすぐにポップコーンとチュロスを買って食べ始める。かなりエンジョイしている。


「まずは『ギャラクシー・レンジャーズ』ね!」


 ギャラクシー・レンジャーズは乗り物に乗りながらポインターの銃を使って的を狙っていくアトラクションだ。

 入り口に差し掛かると、宇宙空間のような壁に、ギャラクシーレンジャーとその敵が戦っている様子が書かれている。


「ちなみに、これを選んだ理由は?」


「待ち時間が少ないからよ。ギャラクシー・レンジャーズは午後になると列が長くなるから最初に行くと待ち時間が短くて済むの!」


 美玲らしい、かなり効率を重視した選択だ。合理的で素晴らしい。


 ……だけど、このアトラクションって比較的最近出来た奴だよな。前に家族で行った時は無かったから、乗るのも初めてだ。上手くできるかな?


「それでは、ギャラクシーレンジャーの皆さん、高得点目指して頑張ってください!」


「いい、英夢!? ここで勝てるかどうかは私たちの活躍にかかってるの。手を抜くんじゃないわよ!」


 いや、結末は決まってるんじゃないかな……?


 まあ、やれるだけやってみるか。



 10分後。アトラクションが終わり、僕たちは乗り物から降りた。


「見て! 最終結果のランキングがあのボードに出るみたい!」


 事前に名前を聞かれたのはそういうことか。一番下の10位は65000点。


「私は32000点だから……全然ダメね。英夢は?」


 うーん、やっぱりやりすぎたかな?


 僕は美玲からの質問に、ボードの一番上を指すことで答えた。


 『1位 カゲヤマ エイム 99999』

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