第28話 合理的試合決着!

「なあ、なんかおかしくね? 魔舌のやつ、なんか転びすぎなような……」


「おい、あいつの鎧に穴が空いてるぞ! どんだけ派手に転んでんだよ!」


「……いや、仰向けで倒れてるのになんで前に穴が空くんだよ? やっぱりなんかおかしいよな?」


「そんなことより星翔さん可愛いなー。あの陰キャ、ぜってぇぶっ飛ばす!」


 魔舌は観客達の声を浴びながら、再び立ち上がる。その声は疑問が半分、応援が半分という感じだ。


「な、何か卑怯な手を使ってるんだろ!? トリックを明かせ!」


「まだそんなこと言ってるのか? 僕はただ矢を撃ってるだけだよ」


「馬鹿なことを言うな! そんなスキル、見たことも聞いたこともねえ! お前が不正してなかったらなんだって言うんだよ!?」


 鎧が欠陥品の次は僕が不正か。忙しい奴だな。


 魔舌は取り乱している。おそらくは本気で勝てると思っていたんだろう。僕が尻尾を巻いて逃げるか、あるいは惨めに降参すると確信して。


「そんなに言うなら、君もスキルを使ったらいいだろ? 一回も攻撃してきてないじゃん」


「上等だ! こっちから行くぜ! <ギガクラッシャー>!!」


 こっちからって……先に攻撃したのは僕なんだけどな。まあ、どっちでもいいか。


 この攻撃を食らうのは、魔舌なんだから。


「<リペルアロー>」


 振り下ろされる巨大なハンマー。それに対し、僕がノーモーションで放った矢はアッパーのような軌道でぶつかり合う。


 すると、ハンマーの側面に当たった矢は、そのまま跳ね返って魔舌の腹部に直撃した。


「うがあっ!!」


 魔舌のハンマーが宙を舞う。同時に、奴はステージ上を転がり、今度はうつ伏せで倒れた。


 <リペルアロー>。相手の攻撃を、そのまま相手に返すスキルだ。これも僕が具現化した。


「君が今受けたダメージは、自分がした攻撃の威力そのままだよ。自分がした攻撃が自分に返ってくるなんて、想像してなかっただろ?」


 魔舌はわかっていなかった。自分が振るった拳が、顕示してきた暴力が、いつか自分に返ってくることを。


 僕は別に、こいつに直接攻撃されたわけでも、恨みがあるわけではない。だが、実際にリンチされて晒し者にされた生徒達の中には怒りの炎が燃えているはずだ。


 魔舌はあまりにもそれに無自覚だった。だからこそ暴君のように振る舞ったし、その結果僕に当たってしまった。


「さて、魔舌。ここから僕がなんていうかわかるか?」


「や、やめろ! 来るな!」


「自分だったらどう言うか、よく考えてみるといいさ」


「――ラウンド、2……?」


 僕は笑った。魔舌から正解が聞けて、嬉しかったからだ。


「あ、あああああああああああああああ!!」


 それから、先生が終了の合図をしたのは1分ほど後だった。


 完全に戦意を喪失した魔舌は、うずくまって必死に僕の攻撃から身を守った。

 僕はというと、魔舌が降参を宣言するまで奴に蹴りを入れまくった。もちろん骨は折れないように手加減してやった。土下座がしづらくなっちゃうからね。


 試合を見ていた生徒達は絶句していた。人気配信者で、あれだけ他の生徒に幅を利かせていたんだからその反動もあるだろう。


 ちなみに、魔舌は降参した後、僕に恨み言を言いながら先生に連れられていった。反省してるかは微妙だ。


 なんにせよ、最初の定期試験は――僕の勝利で終了。


「英夢くん、おめでとう!」


「ま、こんなもんさ」


 僕は比奈の隣の席に戻り、ステータスウィンドウを開いた。


――


 影山英夢 レベル20

 加護:【必中】

 ジョブ:アーチャー


 スキル:

 <観測者> <観察眼> <矢生成> <罠作成> <治癒> <二属性付与> <身代わり> <隠密> <三倍> <貫通> <矢強化> <具現化> <等速>


――


 僕ももうレベル20か。これだけレベルが高ければ普通に戦ってもよかったけど、まあ魔舌にはいいお灸になったしいいだろう。


 その後、比奈の対戦も無事終了し、放課後を迎えた。


「はあ、ひとまず一件落着だな」


 下校しながら、僕はいつもより少しだけ気が楽だった。

 テスト期間が終わった。筆記の方もまずまずだったし、しばらくはテストのことを考えなくて済む。


 魔舌に勝つことも出来たし、全てが万事解決! 忘れていることも、何もない!


 ……あれ、本当に全部終わったのか? 何か忘れているような。


 そう考えた刹那。スマホから着信音が鳴り始めた。


「僕に電話してくる人間なんているわけ……って!」


 そうだった! やり忘れていたことがまだあった!

 僕は通話ボタンを押し、スマホの画面を耳に当てる!


「もしもし英夢? あんた返信遅い! 見たらすぐ返事しなさいよ!」


 スマホの画面の向こうから聞こえてきたのは、美玲の大きな声だ。

 そういえば前に美玲と連絡先を交換したんだった。結局そのあとアプリを開いていないから意味ないんだけど。


「ご、ごめん! 見てなかったんだよ!」


「本当に? まあどっちでもいいけど、約束は明日よ! 忘れてないでしょうね?」


「も、もちろん! 合理的な僕が約束を忘れるわけないだろ?」


 ……なんて言って、本当はすっかり忘れていた。

 美玲と初めて会った日。ゴールデンスライムをどっちが先に倒すかの競争をした。


 そして、テスト明けに美玲とデートをする約束だったことを。

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