第26話 合理的コラボ!
やれやれ……まったく合理的じゃない。なんでこんなことするんだ?
時々理解に苦しむ。こういう何の意味もないことをしてくる奴に。
このコーラもそうだ。一本消費するなら普通に飲んだ方がカロリーが取れていいのに、なぜかけちゃうかなあ。
「これはオレがコラボ相手にやる挨拶だ。オレ達のエンタメはもう始まってるぜ」
魔舌は首を掻っ切るような仕草をすると、僕に顔を近づけてすごむ。
「悪いことは言わねえからよ、お前次の試合はやめとけ。オレは向かってくる奴には容赦しねえんだ。オレの動画は見たことあるんだろ?」
もし歯向かったら、あの生徒と同じようにするという脅迫か。
「言っとくが、これは卑怯でも何でもないぜ。事前に対戦者がわかるのは、対策を立てるためという理由が表向きだが、本当はこうやって
……なるほど、合理的だ。生徒間の実力差が大きい場合は、こうして事前に脅迫でもなんでもしておいた方がいい。
……が。今はそんなことはどうでもいい。
「――ちょうどよかったよ」
「あ? 何言ってんだ、お前?」
「ちょうど喉が渇いてたところだ」
舌なめずりすると、口元が甘い。コーラの糖分がまだ残っているのだろう。
ダンジョンから外に出た後は、いつも喉が渇いている。そこにコーラなんて最高だ。
「お前、状況わかってるのか? ここで承諾しなければどうなるか、わからねえほど馬鹿じゃねえだろ? 確かに実技は0点で追試になる。だがそれだけだ。それで痛い思いせずに済むんだぞ?」
「状況がわかってないのはそっちだろ」
僕は魔舌の背後の二人を順に指差す。
「格下を相手に3人も連れて、やることが脅迫か? 痛い思いしたくないのはどっちだ。僕に倒されるのにビビって釘に刺しにきたならお笑いだよ」
「……舐めてんじゃねえぞ、てめえ」
魔舌が僕の胸ぐらを掴む。どうやらよほど効いてしまったらしい。
「最後通牒だ。次の試験、降参しろ。オレは人気の配信者だ。やり方次第でお前の人生を終わらせることも出来る。社会的にも、物理的にもな」
「やれるならやってみなよ。実力でね」
魔舌はつまらなそうな表情で舌打ちした後、今度はニッと笑って僕の弓を指した。
「その弓……お前、アーチャーだろ? ソロでアーチャーってことは、さしずめ気配でも消してコソコソ狩りでもしてたってところだ」
僕の秘密を暴いたつもりになっているのか、魔舌はどんどん口角を上げていく。
「言っておくがその戦法は試験じゃ使えない。戦いは一対一。真の実力勝負だ。それに……その弓矢も使えない。当日使うのは学院が用意した統一の武器だからな。アーチャーの場合、極めて殺傷力を落とした矢しか使えない」
それは知らなかった。とはいえ、生徒の身の安全のためには当たり前か。
「だが、オレはヘヴィウォーリアー。近接・対人戦では他のジョブより圧倒的に使えるスキルが揃っている。装備がヘボでも、使い手のスキルで限りなく実戦レベルで戦うことができる」
……なるほど、スキルは使えるのか。
「お前は弓矢という牙を抜かれ、おまけにアーチャーはしょぼいスキルしか使えない。万が一にも勝ち目はねえってわけだよ。どうだ、自分の立場がわかってきたか?」
……じゃあ、武器いらないじゃん。
僕は自分が持っている弓矢を見つめた。
武器屋で一番安い弓だった。入学当時の僕はそれが一番合理的だと考えていたからだ。1ヶ月間、激しく使用したので既にかなりボロボロになっている。
武器屋で一番安い矢だった。セットで売られていたのを買って、何回も使いまわした。度重なる冒険で、既に半数以上は取り替えている。
どれも、僕のことを強くしてくれた。
――だけど、もう僕には必要ない。
僕は弓矢を手放して、魔舌の足元に投げ渡した。
「……何のつもりだ?」
「武器がどうこうなんて思ってないって意味だよ。僕は君に勝つ。素手で」
「……正気か? 雑魚のくせに虚勢張るのもいい加減にしろよ」
「虚勢じゃない。もし、僕が負けたら……この前の動画みたいに、実戦してあげるよ」
実戦。それはすなわち、リンチされるということ。
「おいおい、まさかのネタ提供か!? そんなことして、お前に何のメリットがあるんだよ?」
「メリットか……じゃあ、僕が勝ったら今まで動画でいじめてきた相手に謝罪する動画でもアップするとかどうかな?」
別に、僕は彼らに踏み台にされた生徒のことを案じているわけではない。
ただ、賭けをするならリターンもあるべきと思っただけだ。それがたまたま、他の生徒だっただけ。
もし敗北すれば、魔舌は配信者としての絶大なキャリアを失うことになる。
――だが、絶対乗ってくる。
「いいぜ、ぶっ潰してやる! てめえの吠え面もエンタメにしてやるよ!」
「熱いコラボにしよう」
その日、僕たちは一触即発になりながらも解散した。
そして――テスト前の期間が終わり、ついに実技試験当日を迎えた。
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